BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA

「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田」のパブリックスペースに設えられたヴィンテージの家具。目に触れるものものすべてが“本物”の上質さに彩られて
《STAY》「GLAMDAY STYLE HOTEL & RESORT
KYU-KARUIZAWA(グランディスタイル旧軽井沢 ホテル&リゾート)」
長期で滞在したい、ひとつ上の寛ぎ

各部屋には、リゾート感を誘うクロッシェのランプシェードをあしらって
上質なものを知り尽くした大人が集う軽井沢では、ホテル選びに対する美的価値観も自然と鋭くなる。まず紹介するのは、そんな都会的なセンスを携えた大人を満たす空間。2025年8月末に旧軽井沢でグランドオープンを迎えた「GLAMDAY STYLE HOTEL & RESORT KYU-KARUIZAWA(以下、グランディスタイル旧軽井沢 ホテル&リゾート)」だ。老舗のベーカリーや木造建ての洋館に教会、ノスタルジックな喫茶店が建ち並ぶ旧軽井沢銀座沿いでありながら、森の気配も間近に感じる……絶好のロケーションにて堂々の幕開けとなった。

エントランスの壁や柱周りなど、所々に旅時間を豊かに彩るメッセージが秘められている

夕方には中央のガス暖炉に火が灯り、高原の風情がいっそう際立つ「GSラウンジ」。ソムリエのセレクトによるスパークリングワインや信州ならではのソフトドリンクも堪能できる
客室は全65室。ホテルコンドミニアムとして設計されているため、3〜5名で長期滞在できることを想定。ゆったりとした設計が魅力だ。一番の特徴はいずれの部屋にも、インナーバルコニーを設えていること。テラスへと繋がる窓辺にカウチやガス暖炉を備え、ベッドルームとはガラスのパーテーションで仕切られるため、思い思いの時間を過ごすことができる。今回の旅では「ラグジュアリーツインルーム」に滞在。約12畳もあるインナーバルコーニーでは、思いついたようにヨガをしたり、パソコンを取り出しワーケーションタイムを過ごしたり、午後のひとときを読書に耽るなど、贅沢な“部屋時間”を堪能できる。
夕食前にしっかりとデトックスをしようと、向かった先は大浴場。浴槽は北軽井沢の応桑温泉からの運び湯「かくれの湯」で満たされ、硫酸塩泉を含む泉質が肌を優しく包みこむ。さらに、サウナで汗を搾り出し、森の息吹を感じる外気浴で心身を整えると、お腹の時計が頃合いを告げる。

約20畳のリビング&ベッドルームが心地よい開放感へと誘う「ラグジュアリーツインルーム」

リビング、インナーバルコニー、ベッドルームが独立した空間をなす、隠れ家のような「グランディラグジュアリースイート」
1階に佇むレストラン「TRATTORIA CREATTA (トラットリア クレアッタ)」は、東京・大手町の人気イタリアンレストラン。2号店として、ここ「グランディスタイル旧軽井沢 ホテル&リゾート」に新たな看板を掲げた。店内には石窯も据え、今宵のメインは信州吟醸豚の石窯ローストが振る舞われる。続く高原ブロッコリーと海老のリングイネやデザートもテーブルを鮮やかに彩り、林檎のシブーストとコンポートのデザートで締めくくられた。
翌朝は早くに目覚め、テラスで森の鼓動を感じる。ふと視線が引き寄せられたのは、楓の古木だ。光が注ぐ一カ所だけが、ふわりと赤く染まっていた。こうした微細な季節の便りを感じられたことも、滞在の心温まる思い出のひとつである。

レストラン専用の入り口もあり、食事だけの利用も可能

香り高いソースが添えられた「高原野菜のヴァリエとハモンセラーノ」。連泊する人のために、コースは約3種類ほど用意されている

全ての部屋にテラスを備えた、プライベートヴィラのような設計
GLAMDAY STYLE HOTEL & RESORT KYU-KARUIZAWA
長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢691-1
電話:0267-41-6021
公式サイトはこちら
《EAT》「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田」
“美食”の先にある“優しさ”を味わう

ドレッサージュをイメージしたルームプレート。食のおもてなしに秀でた「ひらまつ」らしさを象徴
車窓を満たす雄大な浅間山の借景に目を潤しながら、軽井沢から車を走らせること約20分。近年、クリエイターやアーティストの移住者も多く、密かなニューウェーブに沸く御代田(みよた)へ到着する。街道から道標を辿り、蛇行する長いスロープを進むと、小高い森の中腹に2021年3月に誕生した「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田」が姿を現す。冠した名称からピンときた人もいるだろう。ここは多彩なレストランシーンを牽引してきた「ひらまつ」が手掛ける、最高峰の美食と出合う“森のグラン・オーベルジュ”である。

約60,000㎡もの広大な敷地には、28室の客室を据えた端正な低層の本館と、独立したヴィラスイート9棟が樹々に抱かれるように建つ
COURTESY OF THE HIRAMATSU KARUIZAWA MIYOTA
ホテルのエントランスで視線を捉えたのは、建設時に出土したという本物の縄文土器だ。ロビーへ足を踏み入れると、高い天井を活かしたドローイングや煉瓦を組んだモダンな暖炉、ヴィンテージのチェストが溶け合い、どこを切り取っても物語に溢れている。魅力を連ねると数知れないが、まずは同ホテルの誇る美食時間へと誘いたい。
「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田」には2つのレストランがある。1階にて森の鼓動を間近に感じるのは、信州の食材を極上のコースへと昇華させたフランス料理の「Le Grand Lys(ル・グラン・リス)」。そして、5階から八ヶ岳連峰を望むのは、シェフ特製の生パスタも人気が高くアラカルトでも楽しめるイタリア料理の「La Lumiére Claire(ラ・ルミエール・クレール)」だ。この旅では、「ひらまつ」のシグネチャーともいえる、フランス料理に、胃袋の高揚感を託すことにした。

レストラン名に御代田町のシンボルフラワーである「やまゆり」を冠した「Le Grand Lys(ル グラン リス)」

信州打刃物や木工、木曽漆器など地元の手工芸を駆使したオリジナルカトラリー。毎日、椿油で磨きあげているとか
アミューズは長野県産のリンゴと杏ムースがビジューのようにちりばめられたムース。ウエルカムの一皿から口福に包まれる。炭火焼きにした長野県天龍村のナスは、キャビアを伴ったマグロとともに。土佐酢のジュレやニンニクを効かせたトラパネーゼソースの泡がアクセントを添える。料理に伴走するブリオッシュは、神津牧場のジャージー牛のバターを贅沢に練り込み、長野県産小麦粉で焼き上げたパティシエの特製だ。オリジナルの信楽焼の器で運ばれたのは、リンゴのチップで薫りをくゆらせたブレザオーラだ。フィンガースタイルで洒脱に楽しむ遊び心のある演出も心にくい。素材名だけを連ねたメニューを前に、思い描いた印象を遥かに超える料理が次々に展開される。
これらの渾身の一皿と共にいただくドリンクとして、この日はノンアルコールのペアリングをお願いした。料理との相性を熟考し、生姜や紫蘇といった香り高い素材から甘酒を用いたものまで──個性が光るモクテルと、シェフのクリエイティビティが響き合う。

片面のみをローストし、半レアに仕上げたホタテには自家製の味噌をベースにしたソースがコクを増して。合わせたモクテルはソービニヨンブランと洋梨を和紅茶で整え、キャラメリゼしたリキュールを効かせた。清涼感がありながらも、ソースに負けない奥行きを秘めている

信州飯綱産の鴨肉には、甘長唐辛子の葉からなるピューレと、青柚子が香るソースを添えて。御代田のヤングコーンは一度蒸した後に、髭をつけたままロースト。合わせたモクテルは、メルローや赤ワインビネガーをベースに、黒胡椒や黒文字が仄かに薫る一杯

ダージリンやクローブ、カルダモンが香るミルクチョコガナッシュと、フェンネルソルベや地元の白きくらげが異次元の調和を奏でる、エキゾチックなデザート
レストランと異なり、ホテルでのディナーは翌朝の朝食も美味しく感じられることが大切。そのため「必要な個性は残しながらも、どれほど軽く仕上げるか。手を尽くした引き算を目指している」とシェフの柳原章央氏は語る。また、“ここ”でしか味わえない磨き抜かれた一皿は、シェフ自身が足を運び、生産者のハートを受け止めて得られる食材の賜物でもあるという。また、生産者との交流を通して今では地元の小学校の食育にも参画。大地の実りを得た恩恵を、地域の子どもに還元することで共に食の未来を見つめているそうだ。厨房から離れた実直なまでの“日常”こそが、“非日常”の特別な料理の根底となっているのだろう。満たされた口福に柳原氏の言葉を重ね、“美味しさ”のひとつ先にある“優しさ”が味覚の記憶に刻まれた。

東京やパリの「レストランひらまつ」で経験を重ねた総料理長を務める柳原章央氏

ウッドデッキの先には南アフリカ製のラグジュアリーなテントを設えるなど、グランピング気分で優雅なトワイライトタイムを過ごせる「TAKIBIラウンジ」
美食に注がれる格別なこだわりは、ホテル時間にも存分に貫かれている。今回宿泊したのはスカイビューの「デラックスツイン」。その名のとおり、窓の外には空と森の境目がパノラマで広がり、朝目覚めたときに真っ先に空が視界に入るようにベッドが配されている。石造りの風呂からも遠く八ヶ岳の山並みが眺められ、広いテラスでは森を見下ろしながらヨガも楽しめそうだ。視線を室内に移すと、壁に飾られているモノクロームの写真は、幾何学的な旋律をなすル・コルビジェの建築をとらえた、写真家・石塚元太良の作品。家具やインテリア小物、バスローブからアメニティに至るまで、微に入り細に入りセンスが行き届いている。時系列が前後するが、ディナー前の夕暮れ時には、どうしても訪れたかった「TAKIBIラウンジ」も訪れた。縄文土器が出土したこの地で、プリミティブな炎を見つめる時間は、美食時間のための格別な前奏となったことは言うまでもない。
一夜明け、満ち足りた感覚の正体に思いを巡らせた。料理の美味しさはもちろんのことだが、それを作る人の想い、サービスをする人の寄り添い方、屋内外のラウンジで交わされる笑顔……「ひらまつ」に継承されているプロ意識こそが、エモーショナルな滞在を叶える「THE HIRAMATSU」のレシピの奥義なのではないだろうか。

ヘッドボードをパーテーションがわりに、ベッドの背面にはコンパクトな書斎スペースも設けている

全室の風呂を大塩温泉の湯が満たす。朝に夕にと、時間帯をかえて幾度も絶景を堪能したくなる
THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田
住所:長野県北佐久郡御代田町大字塩野375番地723
電話:0267-31-5680
公式サイトはこちら

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。
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