東京都あきる野市。東京の奥座敷という先入観はあれど、実は新宿から急行電車を乗り継ぎ2時間とかからない。クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が「ずっと訪れたかった」という憧れのギャラリーからスタートしたあきる野市への旅。豊かな風土に彩られた日本に存在する独自の「地方カルチャー」= “ローカルトレジャー”を探す本連載でお届けしたあきる野市の魅力を、4回分まとめてお送りする

BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA

*記事内で紹介している内容や価格は、記事公開時点のものです。

染織ギャラリーとスパイスカレー

《BUY》「MAKI TEXTILE STUDIO(真木テキスタイルスタジオ)」
糸が放つ“無限の美”との邂逅

【2025年5月公開記事】

画像: 風に揺らめく深淵な藍の布が「MAKI TEXTILE STUDIO」の異空間への標

風に揺らめく深淵な藍の布が「MAKI TEXTILE STUDIO」の異空間への標

画像: シャガの群生さえ舞台装置のように美しい「竹林Shop」

シャガの群生さえ舞台装置のように美しい「竹林Shop」

 秋川街道に沿って車を滑らせると、雑木林に溶け込むように藍染の布が目に飛び込む。鬱蒼とした竹林に阻まれて建物は見えないが、控えめな看板を見つける前にギャラリーの存在を確信。緩やかにカーブした小径を抜けると、澄明な朝の光のなか築200年の古民家が現れる。その向かいには、建築家・丹羽貴容子さんの設計によるモダンな「竹林Shop」が欅の大木に抱かれるように立ち、多様な樹々の緑が新旧の館のコントラストを優しく結んでいる。それはもう、舞台の演出としかいいようのない、時代を遡行したかのような光景だ。

画像: “糸”を3つ連ねたロゴがトレードマーク

“糸”を3つ連ねたロゴがトレードマーク

画像: 左:ganga工房にて、染めの原料となるインド藍(木藍)を採取する真木千秋さん。右:繭から糸をずり出す工房のスタッフ。揃いの藍の衣装が美しい COURTESY OF MAKI TEXTILE STUDIO

左:ganga工房にて、染めの原料となるインド藍(木藍)を採取する真木千秋さん。右:繭から糸をずり出す工房のスタッフ。揃いの藍の衣装が美しい

COURTESY OF MAKI TEXTILE STUDIO

「MAKI TEXTILE STUDIO」は、およそ半世紀にわたり“布”の美しさを探求している、テキスタイルデザイナー真木千秋さんのクリエーションと出合える場だ。創作のすべては、2009年に北インドはヒマラヤ山麓のデラドンに立ち上げたganga(ガンガ)工房で創作されている。絹は蚕から育てる家蚕をはじめ、タッサーシルクに代表される太く光沢のある糸をもたらす野蚕の繭を、“ずり出し”と呼ばれる手引きによって糸を引く。さらに、麻や木綿、遊牧民の村で毛刈りされたウールなど天然繊維にこだわり、染織のための植物までも育てている。

画像: 蝉の羽のような透け感が美しいストールには、希少なムガシルクが織り込まれている

蝉の羽のような透け感が美しいストールには、希少なムガシルクが織り込まれている

 紡いだ糸は、自家農園で手がけた藍をはじめ、インド茜、ザクロやナイトジャスミンなどといった植物によって手染め。その糸を手織りし、ストールやインテリアファブリック、衣へと仕立てる……。途方もない時間をかけて織物の根源を貫くためか、「MAKI TEXTILE STUDIO」の作品には太古の生命力が宿るようだ。真骨頂ともいえる藍染めの作品は、素材や織り方によっても表情が変わる。その階調は、移りゆく空のごとく微妙なニュアンスが違い、しばらく眺めていると気持ちが引き寄せられる一枚が見つかる。

画像: 豊富な階調の藍染めのストール

豊富な階調の藍染めのストール

画像: タッサーシルクの美しい光沢が、藍の深みを引き立てる

タッサーシルクの美しい光沢が、藍の深みを引き立てる

画像: プリーツ加工を施した巾着に、軽やかなモード感が漂う

プリーツ加工を施した巾着に、軽やかなモード感が漂う

 ストールや衣は、ストイックにしておおらか。一見すると着る人を選ぶようで、年齢を問わず誰でも受け入れてくれるのが魅力。タペストリーやクッションカバーといったインテリアファブリックも、草木に懐かれるようなトーンの奥に、キリリとしたモダンさが漂う。自然の神秘を織り込んだような作品は、暮らしに取り込むことで、肩肘張らない幸福感に包まれるようだ。

 この日の取材の語りべとなってくれたのは、真木千秋さんとともにスタジオを立ち上げた田中ぱるばさん。社交辞令を抜きに「ずっと憧れていたお店でした」と伝えると、「でも初めて来たんだね」という禅問答のような返答にドキリとした。日常の忙しさを言い訳に、自分の好きなことや大切なことを置き去りにしてはいないかと、思わず自問する。欅と竹林に守られたこの場所は、閉じていた自分が開く場所なのかもしれない。

画像: 何でもおよそ半世紀前にインド名を授かったという田中ぱるば氏。スタジオ全体のプロデュースにも携わり、染織にも精通

何でもおよそ半世紀前にインド名を授かったという田中ぱるば氏。スタジオ全体のプロデュースにも携わり、染織にも精通

画像: 6月14日(土)~20日(金)には染織家・石垣昭子さん、真砂三千代さんとともに立ち上げたブランド「真南風(まーぱい)」展を開催。真木千秋さんもインドから帰国して全日在廊。普段は立ち入れない築200年の古民家でランチやお茶なども振る舞われる

6月14日(土)~20日(金)には染織家・石垣昭子さん、真砂三千代さんとともに立ち上げたブランド「真南風(まーぱい)」展を開催。真木千秋さんもインドから帰国して全日在廊。普段は立ち入れない築200年の古民家でランチやお茶なども振る舞われる

住所:東京都あきる野市留原704
電話:042-595-1534
公式サイトはこちら

《EAT》「山のスパイス Spice Curry Stand」
共鳴するスパイスカレーと自家焙煎の珈琲

【2025年5月公開記事】

画像: 週替わりのカレー「和風キーマプレート」。トッピングした大蔵大根の花が爽やかな辛味をそえる

週替わりのカレー「和風キーマプレート」。トッピングした大蔵大根の花が爽やかな辛味をそえる

 スパイスカレーの醍醐味は、風味や辛さを自在にアレンジできることにある。それだけに、作り手の匙加減が生み出す個性やセンスが光る。「カレーを食べた人に、心も体も元気になっていただきたい」と語る佐々木ひかりさんは、自他共に認めるカレー好き。美味しい一皿を求めて話題の店を食べ歩き、コロナ禍で外食が制限されたことを機にスパイスの研究に情熱を注ぐ。ちょうどその頃、自身の闘病生活が重なり“今”という瞬間の大切さを見つめるなかで、大好きだったカレーを仕事にしたいと一念発起。2022年9月、念願かなって「山のスパイス Spice Curry Stand」がオープンした。

画像: 愛おしそうに大蔵大根の花をカレーに盛り付ける佐々木ひかりさん

愛おしそうに大蔵大根の花をカレーに盛り付ける佐々木ひかりさん

画像: 自然農で栽培された大蔵大根やミョウガタケなど、新鮮な地産の食材がスパイスカレーに“土地”の奥ゆかしさを添える

自然農で栽培された大蔵大根やミョウガタケなど、新鮮な地産の食材がスパイスカレーに“土地”の奥ゆかしさを添える

 独自のスパイスは、季節や天候に応じて配合を日々調整。たとえば暑さが増すこれからは体温をクールダウンするコリアンダーをやや多めの分量に。酷暑を迎えると、汗をかきやすくして放熱作用を高めるためにチリの匙加減を増す。分量に限らず、スパイスを入れるタイミングも風味に作用するとか。

 毎日微調整するスパイスに対して、変わらないこともあると佐々木さん。それが、タマネギやトマト、ニンニクで作るペーストのレシピだ。「7〜8時間かけて炒めるなかで、あえて焦がし蒸しすることで、凝縮した甘味に適度な苦味が加わり、風味を引き締めます」とのこと。

画像: 基本のスパイスを使いながらも、独自の味を追求

基本のスパイスを使いながらも、独自の味を追求

画像: カレーのために考え抜かれた「shiibo(シイボ)」の磁器をオリジナルでオーダー

カレーのために考え抜かれた「shiibo(シイボ)」の磁器をオリジナルでオーダー

 カレーは週替わりで提供。この日のメニューは「和風キーマカレー」に、ほうれん草のラッサムやパパドを添えたプレートだ。カレーペーストに熟成味噌と醤油を加え、コリアンダーをやや多めに加えることで、爽やかなコクが鼻腔を抜ける。さらに、店のもう一つの魅力はご主人・佐々木光義さんによる自家焙煎の珈琲だ。ヴィンテージの直下式フジローヤルで焙煎した深煎りの一杯は、スパイスカレーと絶妙に共鳴。インドネシアのトラジャ、インドのガネーシャなど……主役のカレーに寄り添うシングルオリジンにこだわる。

 カレーも珈琲も、軽やかな旨みであっという間に完食。その日の取材を終えた帰りの車で、ふとスパイスの余韻がじわりじわりと浮かんでは消えた。食べている瞬間もさることながら、寄せては返す味蕾の記憶が口福で満たされた一日であった。

画像: ペルーのウルバンバ渓谷の珈琲をハンドドリップで振る舞う佐々木光義さん。すっきりとした後味に甘味さが追いかけてくるようだった

ペルーのウルバンバ渓谷の珈琲をハンドドリップで振る舞う佐々木光義さん。すっきりとした後味に甘味さが追いかけてくるようだった

画像: 五日市街道沿いに小さな看板をかかげて

五日市街道沿いに小さな看板をかかげて

住所:東京都あきる野市引田552-3
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ご褒美の宿とレストラン

《EAT》「L’Arbre(ラルブル)」
未知なる“東京の恵み”を一皿に描く

【2025年6月公開記事】

画像: 自家菜園の朝採れ野菜をはじめ、“東京”の食材にこだわるフレンチレストラン「L’Arbre(ラルブル)」

自家菜園の朝採れ野菜をはじめ、“東京”の食材にこだわるフレンチレストラン「L’Arbre(ラルブル)」

画像: 地元の牧場で健やかに育った子山羊は、稲藁焼きで新鮮な旨みを味わう

地元の牧場で健やかに育った子山羊は、稲藁焼きで新鮮な旨みを味わう

 無為自然な万緑に包まれながら車を走らせ、到着した有形文化財の空間で料理を味わう。大人の旅の目的は、それだけで十分に心満たされる。今回、そんな想いで訪れたのは2023年10月にオープンした「L’Arbre(ラルブル)」だ。オーナーシェフの松尾直幹さんは、あきる野に隣接する西多摩郡瑞穂町の出身。帝国ホテルで長きにわたりフランス料理に携わり、同「レ セゾン」ではスーシェフを担い、パリの三つ星レストランでも経験を重ねた。

画像: 取材に訪れた時季は滋味豊かな山菜が盛りを迎えていた

取材に訪れた時季は滋味豊かな山菜が盛りを迎えていた

 多くのシェフ仲間が都心で独立をのぞむなか、松尾さんは「はじめから地元に戻るつもりでいました」と語る。山の幸に恵まれた西東京エリアで育ったこともUターンを決めた所以だが、前職で料理を手がけながら「東京のホテルなのに“東京の食材”にこだわっていないことが不思議でならなかった」という。独立したら“東京出身”の食材でもてなしたい、いつしかそんな構想が地層のように心に積もる。ノラボウ菜やスズノダイズといった在来種野菜、江戸前鮎、平飼い烏骨鶏卵、山羊チーズにワサビ、日本酒からワインまで、魅力溢れる地産の食材が手に入るあきる野は、松尾さんにとって願ってもない土地だった。

画像: 築150年を経た有形文化財「小机家住宅」。ローマン・ドーリア式の円柱や両開窓が西洋の息吹を漂わせて

築150年を経た有形文化財「小机家住宅」。ローマン・ドーリア式の円柱や両開窓が西洋の息吹を漂わせて

画像: 広い玄関の正面には、「鏝絵(こてえ)」と呼ばれる漆喰を用いた左官彫刻で兎を創出

広い玄関の正面には、「鏝絵(こてえ)」と呼ばれる漆喰を用いた左官彫刻で兎を創出

 21年勤めた帝国ホテルを離れ、松尾さんが最初に取り組んだのは、物件探しではなく菜園である。土地に根付いた野菜を育てるうちに地元の人との交流が生まれ、食に限らず陶芸や木工芸、染織など、この地の文化背景を知ることに。料理をふるまう器、室内の装飾、自らが纏うコックコートに至るまで。小さな出合いのすべてがレストランのアイディアへと繋がりはじめた頃、東京都指定の有形文化財「小机家住宅」の縁が巡ってきた。

画像: 個室は3室。それぞれのランプシェードを「月」「大地」「星」のテーマでデザイン

個室は3室。それぞれのランプシェードを「月」「大地」「星」のテーマでデザイン

画像: 釘隠しにも兎の彫金細工が用いられて

釘隠しにも兎の彫金細工が用いられて

 江戸時代後期に山林業で財をなした小机家は、文明開花のエッセンスに彩られた明治8年(1875年)築の擬洋風様式。1階には洋風列柱廊を、2階にはバルコニーを模したデザインを施し、エクステリアの随所に曲線を取り入れた。それでいて、内部は伝統的な田の字形に部屋が並ぶ四間取の構造をなす。細部に和風の意匠が施され、古今東西の空間美が交差する。

 レストランとして利用するにあたり、文化財エリアは最低限の手を加えるのみで建物の趣はそのままに。玄関で出迎えられた兎の鏝絵から想起し、月をイメージしたペンダントライトを誂えるなど松尾さんならではの物語をさりげなく秘めた。そのシェードに用いた和紙は、もちろん地元の軍道和紙(ぐんどうわし)だ。

画像: ランチ、ディナーのコースともにふるまわれている温前菜の「山羊の稲藁焼き」

ランチ、ディナーのコースともにふるまわれている温前菜の「山羊の稲藁焼き」

 取材では、同店のスペシャリテ「山羊の稲藁焼き」をいただく。主役は、レストランからさらに山間部に分け入った「養沢ヤギ牧場」で育まれた生後9〜11カ月の子山羊。「牧草がほのかに香る鮮度の高い肉は、表面のみを稲藁で燻しタタキで味わうのが最も贅沢」と松尾さん。添えられた新ジャガのブーランジュールとヴァンジョーヌソースが心躍る変化をもたらす。薪窯で焼かれたブリオッシュやワインといった名脇役もあきる野ブランドだ。

 増築エリアを改装したオープンキッチンでコース料理を堪能したフィナーレは、文化財エリアへと移動し、デセールをいただく。軽やかなジャズが流れるモダンな空間から、人工的な音を遮断した歴史的な空間へ。未知なる“東京”を味わい尽くした余韻が、薫風によって運ばれた樹々の囁きのなかに静かに溶けていった。

画像: 文化財エリアから増築された空間は、モダンなオープンキッチンへと改装。松尾さんがまとうコックコートには、一箇所だけあきる野の黒八丈染めのボタンが飾られている

文化財エリアから増築された空間は、モダンなオープンキッチンへと改装。松尾さんがまとうコックコートには、一箇所だけあきる野の黒八丈染めのボタンが飾られている

住所:東京都あきる野市三内490
電話:042-596-0068
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《STAY&EAT》「風姿 FUSHI(ふうし)」
緑風わたる山水画のなかで一昼夜を過ごす

【2025年6月公開記事】

画像: 一幅の絵画のようなラウンジ

一幅の絵画のようなラウンジ

 秋川を臨む山間の宿と聞き、胸中に期待を膨らませ玄関に立つ。扉の先には坪庭が広がり、支配人に導かれるままに数段の階段を降りると、思いがけない景色に目を奪われた。床からの1.5mの高さに極めて深い軒を据え、23mに及び柱や壁で遮られることのないオープンラウンジからは、深緑に包まれた目前の岩瀬峡が一幅の山水画のように横長に切り取られている。目の前に広がる山々の全景をパノラマで見せるのではなく、計算されたフレーミングで抑制するように設計。中央に配したジャグジーに映り込む景色と重層的な色彩を奏で、息を呑むほど美しい。

画像: 深くせり出した軒が昼間の輝く陽光を軒裏に映し、柔らかな光を室内に運んで

深くせり出した軒が昼間の輝く陽光を軒裏に映し、柔らかな光を室内に運んで

画像: 左官仕上げによる墨色の浴槽を、樹々の緑が幻想的に満たす

左官仕上げによる墨色の浴槽を、樹々の緑が幻想的に満たす

 ここ「風姿 FUSHI」は、2024年3月にオープンした一客一亭の宿。川に沿って100mほど下ったところに位置する、地元の老舗日本料理店「黒茶屋」の別邸として誕生した。訪れる人を一瞬にして虜にする仕掛けは、ランドスケープ建築を得意とする建築家・手塚貴晴氏によるもの。

 ラウンジに据えたジャグジーしかり、バスルームもまた絶景を引き込む装置といえる。左官仕上げの墨色の浴槽は、水を満たすとまるで一石の巨岩となり、谷の樹々を投影し無限の幻を編むようだ。隣り合うベッドルームやリビングは細木をわずか1mmの隙間を開けてはぎ合わせ、数寄屋建築などに見られる隠し釘の技も冴える。その繊細な空間には、オリジナルの家具をはじめ、オーナーの審美眼で集められた骨董品やヴィンテージの調度品が個性を添えている。

画像: 南米由来の重厚なサペリの一枚板をテーブルに設えて。キャンドルを灯したダイニングは、料理をドラマティックに演出する舞台のようCOURTESY OF FUSHI

南米由来の重厚なサペリの一枚板をテーブルに設えて。キャンドルを灯したダイニングは、料理をドラマティックに演出する舞台のようCOURTESY OF FUSHI

画像: 食事とともに味わいたい地元の銘酒「喜正」

食事とともに味わいたい地元の銘酒「喜正」

 宿の満足度を左右する食事は、同社の総料理長が一組だけの特別な空間の中で、旬の山里料理を振る舞う。その時々に竹林の竹を器として切り出し、技巧的な料理ではなく、あるがままの自然の恵みを何よりのご馳走として、都心の料亭にはない趣向を凝らしている。初夏からは鮎やジュンサイが清らかな風味を運ぶだろう。

 さらに「風姿」のチェックインは13時、チェックアウトは翌日の15時。2日目の軽い昼食まで含め、通常の宿泊に比べると“1.5泊分”ともいえる滞在時間を過ごすことができる。何もしない贅沢を堪能するもよし。ゲストの希望に応じ要予約のオプションにて、ラウンジを舞台に見立てた能楽師の舞の鑑賞や立礼茶会、禅師が誘う座禅体験も叶う。1泊2名で¥550,000〜という金額を、果たして高額に感じるか否か。1人¥44,000〜の食事だけのプランもあるため、まずは格別な非日常の空間と究極の里山料理を存分に満喫していただきたい。

画像: テラスでの朝食は渓流の涼風に包まれて

テラスでの朝食は渓流の涼風に包まれて

画像: 一見するとコンパクトな平屋造りのようだが、230平米の空間を独り占めできる

一見するとコンパクトな平屋造りのようだが、230平米の空間を独り占めできる

住所:東京都あきる野市小中野177-1
TEL:042-588-5311
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【CAFE】「黒茶屋〜野外テラス 水の音」
納涼に浸る水辺のカフェ

画像: 渓流のBGMが間近に感じられる

渓流のBGMが間近に感じられる

「風姿 FUSHI」の滞在とともに訪れたいのが、1968年創業の地元では老舗の日本料理店「黒茶屋」内にある「野外テラス 水の音」だ。渓谷の斜面に増築された古民家が軒を連ね、民話の世界にタイムスリップしたような風景が広がる。ゆったりと母屋で旬の味覚を楽しむもよし、敷地内を散策がてらテラスで納涼に身を委ねるなど、思いのままに過ごすことができる。モダンな佇まいの「風姿 FUSHI」と、日本古来のノスタルジーを誘う世界観とのコントラストも旅の記憶を豊かに彩る。

画像: 柚子の爽やかさが薫るあきる野メイドのサイダーCOURTESY OF KUROCHAYA

柚子の爽やかさが薫るあきる野メイドのサイダーCOURTESY OF KUROCHAYA

画像: 清閑な山居を巡るように敷地内を散策するのも一興COURTESY OF KUROCHAYA

清閑な山居を巡るように敷地内を散策するのも一興COURTESY OF KUROCHAYA

住所:東京都あきる野市小中野167
TEL:042-596-0129
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薪窯パンとチーズ

《BUY》「Compain(コンパン)」
炎の奥行きを纏う薪窯パンと焼き菓子

【2025年6月公開記事】

画像: 自ら窯を設計した「コンパン」の伊藤源喜さん

自ら窯を設計した「コンパン」の伊藤源喜さん

画像: 店名の「Compain」は古いフランス語で“ひとつのパンを分け合う”ことを意味する

店名の「Compain」は古いフランス語で“ひとつのパンを分け合う”ことを意味する

 ここ「Compain」は自作の薪窯を持つ。そのパンを初めて口にしたのは、あきる野の旅のvol.2で訪れたレストラン「ラルブル」でのこと。山羊の稲藁焼きに添えられたブリオッシュを意識せずに口に運んだ際のふくよかな余韻に驚いた。バターをたっぷり用いるパリのブリオッシュも美味なれど、同店の目指しているものはブリオッシュ発祥の地と言われているノルマンディに古くから伝わる“ガーシュ”と呼ばれるタイプ。卵や砂糖、バターが入り、素朴でありながらリッチな奥行きが感じられる。それは、ブリオッシュの概念がガラリと変わった体験だった。特殊なレシピゆえか、それとも炎の神様が宿る薪窯ゆえか……美味しさの記憶を携えたまま足早に工房を訪ねる。

画像: 店は金・土・日(日曜は不定休)のみ。Instagramにて営業日を告知

店は金・土・日(日曜は不定休)のみ。Instagramにて営業日を告知

 檜原街道から山間へと小路を折れ曲がり、小さな川を越え、野菜の無人販売を横目で見送り、住宅街の外れにシャビーな木の看板を見つける。週末だけオープンするという一軒家を改装した「Compain」が誕生したのは、2023年4月のこと。パンを焼くのは京都出身のご主人の伊藤源喜さん。関西のリテールベーカリーに勤め、31歳で渡仏。パリのモンマルトルで1日1500本ものバゲットを焼く人気店に勤める。一方、奥様の華奈さんも天然酵母を得意とするベーカリーを経て渡仏。パリでは老舗のパティスリー「ラ・ヴィエイユ・フランス」で研鑽を積む。彼の地で出会った二人はパリに居を据え、それぞれパンとフランス菓子の腕を磨いていた。

 フランスに移り住むこと源喜さんは12年、華奈さんは10年を経た頃、新たに人生設計を見直すきっかけがあり日本に帰国。華奈さんの出身地、自然豊かなあきる野らしいパン工房の在り方を考え、薪窯でパンを焼くことに決めた。『捨てないパン屋』の著書で知られ、昔ながらの薪窯で自然発酵のパンを焼く広島県の「ブーランジェリー・ドリアン」で1カ月の研修を経て、自ら窯の図面を引く。それから半年かけて奥行き240×幅240mもの大きな薪窯を完成させた。

画像: 奥は噛むほどに味の広がりを感じるカンパーニュ。右はノルマンディーのスタイルに倣ったブリオッシュ。ハチミツや無塩バター、オリーブオイルなどと相性がよい。左はその名もライ麦100%、デンマークの基本のロブロを忠実に簡素な作り方で再現

奥は噛むほどに味の広がりを感じるカンパーニュ。右はノルマンディーのスタイルに倣ったブリオッシュ。ハチミツや無塩バター、オリーブオイルなどと相性がよい。左はその名もライ麦100%、デンマークの基本のロブロを忠実に簡素な作り方で再現

画像: 「ラ・ヴィエイユ・フランス」で卒業の記念にと親日家のパトロンから貰ったマドレーヌの型。この型を使うたびに、パリでの日々が思い起こされるそうだ

「ラ・ヴィエイユ・フランス」で卒業の記念にと親日家のパトロンから貰ったマドレーヌの型。この型を使うたびに、パリでの日々が思い起こされるそうだ

 国産有機小麦粉と水だけで48時間かけてゆっくり発酵させる自家製のルヴァンを礎に、源喜さんが焼くパンは約6〜7種類。じっくり焼きあげる芳ばしい皮のコンパンをはじめ件のブリオッシュ、エポートルやノアレザンなど、ハーフサイズでもどっしりと大きなパンばかり。「1週間程度は保存がきくため、食べる直前に霧吹きで水を含ませ、アルミホイルで包んでトーストすると焼きたてのように美味しく食べられます」と源喜さん。仰せの通りに家で試すと、静かに佇んでいた酵母がにわかに目覚めたかのように、甘さも香ばしさもサワー感もしっかり蘇った。

画像: 潔いよいほどにシンプルなマドレーヌとサブレ。季節のタルトやコンフィチュールも人気

潔いよいほどにシンプルなマドレーヌとサブレ。季節のタルトやコンフィチュールも人気

 パンと一緒に華奈さんの焼き菓子を手土産に求めたいと申し出ると、フランスの型を用いたちょっと大きめのマドレーヌと土地の名前をつけた小和田サブレをおすすめされた。家まで待ちきれず、その場でしっとりとしたマドレーヌを味わう。一般的とされるアーモンドプードルは入れず、バターも少なめ、1843年創業のパリの名店のレシピは、素朴で堂々とした風味をまとっていた。帰路につく車中、バッグの中でふんわり香るサブレにも手が伸びる。ホロホロした見た目に反して、口の中でバターの豊かさが溶け出す。この美味しさは、独り占めするのではなく、店名の“コンパン”が意味するように大切な家族と分かち合いたいと、これ以上のつまみ食いを思いとどまった。

画像: 山間部に位置するあきる野は、薪の調達にも困らないとか

山間部に位置するあきる野は、薪の調達にも困らないとか

コンパン
住所:東京都あきる野市小和田197-1
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《BUY》「養沢ヤギ牧場」
里山から届いたヤギのラブレターを食す

【2025年6月公開記事】

画像: 4月に生まれたばかりの子ヤギが伸びのびと斜面の草を喰む

4月に生まれたばかりの子ヤギが伸びのびと斜面の草を喰む

 旅をすることの一番の魅力は、精神的な清潔感を保つため。そう思って旅先を巡ると、日常のルーティーンで見落としていた、大切な“何か”を掬い上げる瞬間がある。今回訪れた「養沢ヤギ牧場」でも、そんな出会いが待っていた。迎えてくれたのは、ヤギ専門の牧場を営み、自ら搾乳してチーズを手がけている堀 周(いたる)さん。体裁よりも人間性がビシビシ伝わる、真っ直ぐで心地よい不器用さは、いかにも美味しいチーズにありつけそうな印象を受ける。

 だが、意外にも大学での専攻は物理学。あるとき、テレビ番組で特集された岡山県の吉田牧場に心を打たれ、自らが進むべき人生設計を再構築。組織に依存せずに暮らしに密着した仕事を考え抜き、選んだ道が酪農だった。

画像: ヤギ小屋は、木工職人の父親とともに建てた堀さんのお手製。その表情から居心地の良さが伺える

ヤギ小屋は、木工職人の父親とともに建てた堀さんのお手製。その表情から居心地の良さが伺える

画像: 「搾乳がはじまると手が離せない」と言いながら、その時間を利用してインタビューに応じてくれた堀 周さん

「搾乳がはじまると手が離せない」と言いながら、その時間を利用してインタビューに応じてくれた堀 周さん

「酪農なら、草さえ調達できれば家畜を育て、その恵を原料とした製品をアウトプットすることが成り立つとイメージできた」と堀さんは語る。大学卒業後、まずは資金調達のために就職。休日の度に各地の牧場を巡ってイメージを膨らませ、3年後に満を持して北海道へわたり2年かけてチーズ作りを学ぶ。続いて八王子市で酪農を学びながら牧場の一角を借り、まずは1頭のヤギを飼育しはじめる。

 現在の養沢の地に牧場を構えたのは2020年のこと。3頭のヤギからスタートし、現在は母ヤギが12頭、今春生まれた子ヤギは29頭にもなる。朝夕の1日2回、1頭あたり約5〜6リットルを搾乳。その2日分のミルクを加熱殺菌し、冷やしたミルクに乳酸菌を加え布袋に入れてホエーを抜いた後に、塩を調整してチーズを丸めて形成。約2週間かけて熟成させる。

画像: 定番の「養沢ヤギチーズ」。販売は4〜11月の期間限定

定番の「養沢ヤギチーズ」。販売は4〜11月の期間限定

画像: こちらはブルーチーズの試作。今後バリエーションが増えそうだ

こちらはブルーチーズの試作。今後バリエーションが増えそうだ

 完成した「養沢ヤギチーズ」は、優しい風味とフレッシュ感の残るキメ細やかな口当たりが特徴。蜂蜜やベリー系のジャムを加えると、滑らかさと甘みが増しデザート感覚で食卓を彩る。スライスしたチーズをサラダにトッピングして、オリーブオイルをかけまわして食べるのも堀さんのおすすめ。件の定番アイテムに加え、現在は近隣のレストランに向けて「フロマージュブラン」も手がけ、さらにブルーチーズの試作研究にも挑戦している。

 ヤギとともに生きる堀さんの姿と林道の清々しい空気に、自らの精神を洗いながら帰路につく。途方に暮れるようなことがあったとしても、絶えず新しい地平を遠望し、志向していく日々を過ごせますように、そう心から祈った。

画像: 山の緑に溶け込むチーズ工房も、堀さんの父親と建てたそう

山の緑に溶け込むチーズ工房も、堀さんの父親と建てたそう

画像: 生後2ヶ月の子山羊に見送られて

生後2ヶ月の子山羊に見送られて

養沢ヤギ牧場
住所:東京都あきる野市養沢414
TEL:042-588-4696
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日本酒とワイン

《BUY》「喜正 野﨑酒造」
爽やかな酔いを誘う、清流のごとき酒

【2025年6月公開記事】

画像: 仕込み蔵の前に鎮座する、オブジェのような有田焼の酒樽

仕込み蔵の前に鎮座する、オブジェのような有田焼の酒樽

画像: 堂々とした端正な佇まいが蔵の歴史を物語る

堂々とした端正な佇まいが蔵の歴史を物語る

 あきる野の旅「ご褒美の宿とレストラン」で紹介した一客一亭の宿「風姿-FUSHI」を訪れたときのことだ。料理に合わせる自慢の銘酒「喜正」を試飲し、あまりの清々しさに、取材を終えたその足で酒蔵に向かったことは言うまでもない。件の酒を造るのは、あきる野で明治17年(1884)に創業した「野﨑酒造」と聞く。風格ある門構えをくぐると、手入れの行き届いた庭や大谷石の蔵、母屋に設えた直売店へと視界が開ける。先ほど喉を満たした「喜正」を求め、その日のうちに夫と即席の宴を催す。日本酒には一過言ある夫も唸る。これは、改めて取材しないわけにはいかないと、後日、再びのあきる野の地を訪れた。

画像: 銘酒「喜正(きしょう)」の左はキリリとした夏の限定酒、中央は穏やかな香りと米の旨みが調和した純米吟醸。右は日本酒に梅を漬け、複雑なコクを引き出した「梅ざけ」

銘酒「喜正(きしょう)」の左はキリリとした夏の限定酒、中央は穏やかな香りと米の旨みが調和した純米吟醸。右は日本酒に梅を漬け、複雑なコクを引き出した「梅ざけ」

画像: 酒蔵の向かいにある城山(しろやま)から引き込んだ湧水は、酒の仕込みに使われている

酒蔵の向かいにある城山(しろやま)から引き込んだ湧水は、酒の仕込みに使われている

 迎えてくれたのは5代目当主の野崎三永さん。初代の野﨑喜三郎は越後の農家の出で幕末に16歳を数える頃に江戸へ向かい、杜氏として各地で修行。あきる野は水に恵まれていることに加え、貸し蔵があることを知り、この地で独立をしたのが始まりとなる。酒に銘をつけることが一般的となった明治中期に、初代の名前から一文字をとり「喜正」は誕生した。

「向かいにある城山から引き込んだ水は有機物が少ない軟水のため、穏やかな発酵を誘い、口当たりの柔らかな酒に仕上がります」と野崎さん。華やかすぎると飲み疲れするため、口に運ぶと仄かな香りが広がるような酒を目指しているという。

画像: 蔵に併設された直売店では全種類が揃う(12月以外は平日のみ営業。昼時はクローズしているため、要問い合わせ)

蔵に併設された直売店では全種類が揃う(12月以外は平日のみ営業。昼時はクローズしているため、要問い合わせ)

画像: 商売繁盛の大黒天と恵比寿像が、愛嬌たっぷりに帳場を見守る

商売繁盛の大黒天と恵比寿像が、愛嬌たっぷりに帳場を見守る

 江戸期に建てられた仕込み蔵で造られた酒は、昭和40年に建て替えられた蔵で低音管理されている。「野﨑酒造」では、この“貯蔵”にも重きを置く。吟醸酒は上槽後すぐに瓶詰めをして、その後低温庫で熟成させる。流通段階での酒の品質低下を避けるために、販路は目が行き届く地元酒販店と一部地酒専門店のみ。まさに、あきる野の旅だからこそ出合える銘酒なのだ。

 酒蔵の隅々を取材して感じたことは、どのゾーンに足を踏み入れても、長い年月を経たとは思えないほど手入れが行き届き、清らかな空気が満ちていたことだ。“丹精を込める”という言葉を体現したかのような蔵のあり方、それを守る当主の佇まいを確かめ、初めて口に含んだ「喜正」の清らかさに納得した。どんなに大成する物事も日々の積み重ねでしか高みに辿り着かないように、美しい日本酒造りも一朝一夕にして成し得ない。今宵の一献は、この地で酒造りを幕開けた初代にも深々とお辞儀をしてから盃を傾けよう。そう心に決めながら、晩酌の主役を求めた。

画像: 奥に続く母屋は明治の建物。店舗は、昔ながらの趣を保ちながら30年ほど前に改築

奥に続く母屋は明治の建物。店舗は、昔ながらの趣を保ちながら30年ほど前に改築

野﨑酒造
住所:東京都あきる野市戸倉63
TEL:042-596-0123
公式サイトはこちら

《BUY&BAR》「ヴィンヤード多摩」
オープンマインドな東京ワイン

【2025年6月公開記事】

画像: 自社農園のぶどうを100%用いたエレガントな赤ワイン「東京ルージュ」

自社農園のぶどうを100%用いたエレガントな赤ワイン「東京ルージュ」

 東京にぶどう畑があるだけでも意外だが、加えて醸造設備まで整えていることが、かなりハードルの高いことだと、これまでの取材で学んだ。ここヴィンヤードは、「農福連携」を掲げ高齢者や福祉施設の入居者の労働機会をつくる目的によって誕生。オーナーは歯科医と二足の草鞋を履き、医院の休業日を利用してワイナリーに心を注ぐ。2015年からぶどう栽培に取り組み、2018年にファーストヴィンテージが誕生。10,000平米もの作付面積を1,000本のぶどうの木が満たしている。

画像: 住宅街で突然視界が開け、広大なぶどう畑が広がる

住宅街で突然視界が開け、広大なぶどう畑が広がる

画像: 山ぶどうとカベルネソービニヨンを掛け合わせた品種「ヤマソービニヨン」は、野趣溢れる風味ながら優雅な余韻が香る

山ぶどうとカベルネソービニヨンを掛け合わせた品種「ヤマソービニヨン」は、野趣溢れる風味ながら優雅な余韻が香る

 当初はぶどう畑と醸造施設は2箇所にわかれていたが、2019年に多摩地区を襲った豪雨で醸造所が浸水直前に。回り道を強いられるも3年前には現在の地で畑と醸造所、直売ショップがひとつになったワイナリーがオープン。

 自社農園のぶどう100%を用いた「東京ルージュ」「東京ロゼ」「東京ブラン」をはじめ、あきる野特有の野菜“のらぼう菜”の名称を冠した、その名も「norabou」シリーズをはじめ、山梨県や長野県といった近県から仕入れたぶどうを用いた20種類以上ものワインが、ここあきる野で醸造されている。

画像: 2022年にオープンした直営ショップ。テイスティングバーも兼ね備え、軽いおつまみと一緒にワインを楽しむことができる

2022年にオープンした直営ショップ。テイスティングバーも兼ね備え、軽いおつまみと一緒にワインを楽しむことができる

画像: 充実のラインナップが揃うリカーコーナー

充実のラインナップが揃うリカーコーナー

 また、ワインを仕込んだ後のぶどうの絞りカスは、ゴミとして廃棄するのではなく、牛舎で餌として活用。その牛のフンを畑の肥料として撒くといった循環型のぶどう栽培も始動。さらに、ワインを利用した塩をはじめ、現在は絞りカスを原料に加えたグラノーラの開発も進行中。ここあきる野と地球の未来を見つめながら、一歩ずつ歩みを進めている。

 取材に訪れた日は眩い夏の陽射しに恵まれ、テラスで自家農園のヤマソービニヨン100%からなる赤ワイン「東京ルージュ」で喉の渇きを潤した。目の前に広がる瑞々しいぶどう畑が、さながらトスカーナの山間の一画のように映る──そんな “明るい幻”を携えながら帰路についた。

画像: テイスティングバーとショップを備えた施設

テイスティングバーとショップを備えた施設

画像: 赤ワインやロゼワインに仄かに染まったオリジナルソルトは、手土産にも喜ばれる

赤ワインやロゼワインに仄かに染まったオリジナルソルトは、手土産にも喜ばれる

ヴィンヤード多摩
住所:東京都あきる野市上ノ台55
TEL:042-533-2866
公式サイトはこちら

 あきる野の旅を終えた3週間後、こうして最後の原稿を書いているタイミングで再びのこ の地を訪れる機会に恵まれた。お目当ては「MAKI TEXTILE STUDIO」でのイベント。そ こで、出展していた「山のスパイス」のコーヒーと焼き菓子を味わい、回り道をして日本酒 「喜正」を晩酌に求める。この土地に流れる“緩やかな東京時間”を求めて時折訪れたくなる 場所へと変わった。

画像: 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

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