軽井沢で本当に興味をそそられるのは風景でも、そこに滞在する有名人でもない。目をみはるような斬新なデザインの別荘が何軒も建てられていることだ。多くは著名な日本人建築家の設計によるもので、そのひとつに山口誠の「多角形の家」がある。古びたスチールやガラスで造られたブルータリズム的な空洞の建物が、まるで宇宙船から切り離されたポッドのように森に囲まれた丘の上に建っている。



建築家・山口誠が設計した音楽家二人のための多角形の別荘

(2003年完成、床面積約68平方メートル)

主としてスチール、ガラス、コンクリート、白い壁で囲まれた空間には家具がほとんど置かれていない。

山口の言葉を借りれば「室内と屋外が緩やかに融合した建物」



飯田善彦建築工房による「御水端N山荘」はコンクリート、ガラス、カラマツ材で造られ、切妻の印象的な屋根は古代スカンジナビアの帆船を思わせる。TNA(武井誠 & 鍋島千恵)による「廊の家」は回廊式の廊下に各部屋が水平に配置され、正面玄関は廊下に通じる落とし戸のような役目を果たしている。この空中に浮かぶドーナツ状の家は、床の下に広がる森を1階とすれば、家そのものは屋根裏になる。ここを訪れた人は驚きと感動を覚えるに違いない。



祈りの空間

飯田善彦建築工房による切妻を強調した「御水端N山荘」の開放的なテラス。

窓は切妻屋根の形状に合わせて設置され、寝室のロフトから森を一望することができる



数ある魅力的な別荘の中でも、飛びぬけた力作がTNAの「輪の家」だろう。森の奥深くに建っている小さな塔。木材とガラスを交互に積み重ねることで風景を輪切りにしているようだ。夕暮れの空がダークブルーに染まる頃、「輪の家」には明かりが灯る。黒い板の部分は夜の闇と同化して、光の帯だけが何層にも重なっているように見える。



 人口2万人にも満たない軽井沢にはこうした斬新な別荘が十数軒ほど存在する。いったいなぜ「建築の実験場」として軽井沢が選ばれるのか。価値観やライフスタイル、好みなどのサイコグラフィック(心理学的属性)において、先進的建築で知られる米国のラーチモントやケネバンク、アクィナと軽井沢が似ているからというわけではないだろう。




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