「瞑想」

ステヴァンス 1872頃  ボストン美術館

 1900年のパリ万国博覧会をきっかけに、一大ブームを巻き起こした"きもの"

西欧で認知され始めた段階では、

まずおしゃれな女性たちの室内着としてとりいれられた

COURTESY OF MUSEUM OF FINE ARTS, BOSTON



 このところ絵画や工芸の分野で、19世紀末から20世紀初頭に日本が西欧芸術に与えた影響=ジャポニスムが、大きくクローズアップされている。これをいち早くファッションの分野で明らかにしたのが、『きものとジャポニスム』の著者である深井晃子さん。KCI(京都服飾文化研究財団)の名誉キュレーターとして、また服飾研究家として活躍する彼女が、この本では「きもの」を通して、新たな問いを投げかける。


  この『きものとジャポニスム』は、たとえば「モードのジャポニスム」展のように、深井さんがこれまで手がけてきたパリ・モードを中心にした視点とは異なり、西欧に流出した日本のきものを主役に据えて展開される。



「秋 メリー・ローランの肖像」

 MANET 1881  ナンシー美術館

 きものは室内用の飾り布としても用いられた。

この絵では、飾り布に使われたきものの文様が、絵画を構成する装飾的な背景へと変容。

日本の美意識が、マネの創造に大きく影響したと言われる

COURTESY OF MUSÉE DES BEAUX-ARTS DE NANCY



「19世紀後半の西洋絵画に、きものと日本が頻繁に描かれているという事実は、何を物語るのだろうか。額縁の外の現実社会で、何が起こっていたのだろうか」

との疑問を持ち続けていた彼女は、実用品ゆえに研究が及ばず、手つかずの状態で欧米の美術館に眠っていたきものの実態調査を行った。はからずも海を渡った日本のきものが、ルーツから切り離されて、異国でどのように捉えられ、受け入れられていったか。そして、その地の人々の生活や文化にどのような影響を与えたのか。その過程を追うことで、著者はこれまで誰も取り組んだことのなかった、東西の異文化交流の新しいかたちを解き明かしていく。その謎解きのような面白さに思わず引き込まれ、豊富に掲載されている図版とあわせて読むと、上質な展覧会をキュレーターの解説とともに見た気分になれる。



 日本風コート 

エイミー・リンカー 1913頃 京都服飾文化研究財団

 20世紀になると、パリ・モードにもきものに触発された作品が続々と登場した。

写真は、打掛のようなコクーン(繭型)コート。

見返り美人のように抜衣紋風に着こなすのが、最先端の装いだった

COUTESY OF THE KYOTO COSTUME INSTITUTE



 彼女の視線は、現在、そして未来にまで注がれている。情報があふれるボーダレスな現代だからこそ、東西の文化がドラマティックに出会い、新たな美を生み出した歴史に学ぶことは多い。物言わぬきものが異国で人知れず果たした役割――そこから生まれる物語は、優れた論文であると同時に、極上のエンタテイメントでもある。初めてジャポニスムに接する読者にも楽しんでもらいたい、との著者の思いが込められた一冊だ。




「きものとジャポニスム 西洋の眼が見た日本の美意識」

 深井晃子 著/平凡社 ¥3,400






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