今回のリストは、近年国際的に注目を集める塩田千春の個展。フランスの現代美術家、クリスチャン・ボルタンスキーの回顧展。そして、ひとりの実業家が形成したアートコレクションの数奇な流転をテーマにした企画展

BY MASANOBU MATSUMOTO

『松方コレクション展』|国立西洋美術館

 ビジネスに成功した経営者で、アートコレクターとして名を馳せた人物は、昔から多くいる。江戸末期から昭和にかけて生きた、松方幸次郎はそのひとりだ。川崎造船所(現在の川崎重工業株式会社)の初代社長であった松方は、第一次世界大戦により船の需要が高まることをいちはやく察知し、造船業で莫大な利益を獲得。それを元手に、1916年から27年ごろにかけて、モネやゴッホ、ロダンなど西洋美術の名作を蒐集し、のちに「松方コレクション」と呼ばれる一大アートコレクションを形成した。

 上野・国立西洋美術館で開かれている『松方コレクション』展は、その松方の蒐集の足取りと作品内容を紹介する企画展である。が、これが面白いのは、松方のコレクションの背後にある“数奇な運命”にも光を当てていることだ。

画像: クロード・モネ 《舟遊び》 1887年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション) THE NATIONAL MUSEUM OF WESTERN ART, TOKYO

クロード・モネ《舟遊び》 
1887年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
THE NATIONAL MUSEUM OF WESTERN ART, TOKYO

 じつは、松方が必死で集めたアートコレクションは、散逸の末路をたどる。1927年の昭和の金融恐慌で川崎造船所は経営破綻し、日本に持ってきた作品は売却を余儀なくされ、またロンドンに保管していたコレクションは倉庫の火災事故で焼失。さらにパリの作品群も、第二次世界大戦中、フランス政府に接収されてしまうのである。そのうち375点のみ、戦後になってようやくフランス政府により日本に寄贈返還されるが、ゴッホやマネの絵画などフランスにとって芸術的価値がきわめて高いとされた作品は現地に残された。(ちなみに、返還の条件にフランス政府が提示したのが、これらの作品を保存する美術館の設立で、これが国立西洋美術館である)

 会場には、現在国立西洋美術館に収蔵されている松方コレクションに加え、フランスに残った“元松方コレクション”の一部も並ぶ。つまりは、かつて松方の所有した作品たちが久方ぶりに出会う、ドラマティックな場と言えるのだが、じつは、そこには“もう一つの再会”もある。かつて松方コレクションのひとつで、長年行方不明になっていたモネ晩年の大型作品《睡蓮 柳の反映》ーー2016年、パリで大半が破損した状態で発見されたこの作品が、修復を経て、本展の最後に飾られているのである。

 展覧会の入り口に展示されているのは、松方コレクションの代名詞であるモネの《睡蓮》。モネではじまり、モネで終わる構成は、晩年のモネと親交をもち、また“印象派を日本に紹介した人物”である松方のコレクター像をうまく象徴している。

 ただ会場で思うのは、印象派を中心とした19世紀フランスのモダニズム絵画だけでなく、その系譜下にある古い作品、またモダニズム運動の背後にあったアカデミックなアートが多いことだ。印象派との結びつきからその偉業が語られがちな松方だが、じつはその周辺的なムーブメントにも目を光らせ、西洋美術の全体を見渡せるようなコレクションを築こうとしていたことも本展は改めて教えてくれる。

画像: (左から) フィンセント・ファン・ゴッホ 《アルルの寝室》 1889年 油彩、カンヴァス オルセー美術館 PARIS, MUSÉE D'ORSAY, CÉDÉ AUX MUSÉES NATIONAUX EN APPLICATION DU TRAITÉ DE PAIX AVEC LE JAPON, 1959 PHOTO © RMN-GRAND PALAIS (MUSÉE D'ORSAY) / HERVÉ LEWANDOWSKI / DISTRIBUTED BY AMF オーギュスト・ロダン 《考える人》 1881-82年 ブロンズ 国立西洋美術館(松方コレクション) PHOTOGRAPH BY NORIHIRO UENO

(左から)
フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの寝室》 
1889年 油彩、カンヴァス オルセー美術館
PARIS, MUSÉE D'ORSAY, CÉDÉ AUX MUSÉES NATIONAUX EN APPLICATION DU TRAITÉ DE PAIX AVEC LE JAPON, 1959
PHOTO © RMN-GRAND PALAIS (MUSÉE D'ORSAY) / HERVÉ LEWANDOWSKI / DISTRIBUTED BY AMF
オーギュスト・ロダン《考える人》 
1881-82年 ブロンズ 国立西洋美術館(松方コレクション)
PHOTOGRAPH BY NORIHIRO UENO

画像: クロード・モネ 《睡蓮、柳の反映》(修復後) 1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館 松方幸次郎御遺族より寄贈(旧松方コレクション) THE NATIONAL MUSEUM OF WESTERN ART, TOKYO

クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》(修復後)
1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館 松方幸次郎御遺族より寄贈(旧松方コレクション)
THE NATIONAL MUSEUM OF WESTERN ART, TOKYO

「画廊を訪れては、作品が展示された壁の隅から隅までをステッキで刺し、“ここから、ここまで欲しい”と大人買いをした」とか「当時、ギャラリストの間では、松方が来ると画廊から作品がなくなると噂された」といった豪快な逸話も残るが、松方が望んだのは、実物を知らない日本人に本物の西洋美術を観せること、またアート作品を通じて、西洋文明の本質を伝えることにあった。本展には、その思いが結実している。

『国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展』
会期:〜9月23日(月)
会場:国立西洋美術館
住所:東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9:30~17:30(金・土曜は〜21:00)
※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜(ただし祝日は開館)
料金:一般 ¥1,600、大学生 ¥1,200、高校生 ¥800、中学生以下無料
電話: 03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

 

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