今回のリストは、近年国際的に注目を集める塩田千春の個展。フランスの現代美術家、クリスチャン・ボルタンスキーの回顧展。そして、ひとりの実業家が形成したアートコレクションの数奇な流転をテーマにした企画展

BY MASANOBU MATSUMOTO

『クリスチャン・ボルタンスキー — Lifetime』|国立新美術館

 これまで「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」にも参加し、日本でも馴染み深いフランス人現代アーティスト、クリスチャン・ボルタンスキー。その作品は、決してわかりやすいものではない。

 映画、写真、影絵、電球といったイメージにまつわるメディア、心臓の音や古着といった身体性を伴う素材を使った作品を作りながら、ボルタンスキーが執着してきたのは、人間の生と死、存在や記憶といった哲学的で宗教的な問題だ。そして彼はいつも、作品は鑑賞者への“問いかけ”だと言い、そこで問題に対する持論や直接的な答えは提示しない。現在、国立新美術館に開かれているボルタンスキーの回顧展『クリスチャン・ボルタンスキー — Lifetime』に並ぶ作品も、同様だ。

 こういった作品を読み解くとき、作家が過去に語った言葉を頼りにしてみるのが良法だろう。1990年、名古屋にあった芸術施設「ICA, Nagoya」で開かれた個展のカタログで、ボルタンスキーは自身の作品についてこう述べている。

「私の仕事は、死、絵画の伝統でいう“ヴァニタス”(人間の死を想起させる、頭蓋骨や砂時計、果実、枯れていく生花などが描かれた静物画)に関係しています。実際に、私たちは常に日々死んでいくわけです」

画像: 《モニュメント》 1986年 写真、フレーム、ソケット、電球、電気コード  作家蔵 © CHRISTIAN BOLTANSKI / ADAGP, PARIS, 2019, PHOTO © THE ISRAEL MUSEUM, JERUSALEM BY ELIE POSNER

《モニュメント》 
1986年 写真、フレーム、ソケット、電球、電気コード  作家蔵
© CHRISTIAN BOLTANSKI / ADAGP, PARIS, 2019, PHOTO © THE ISRAEL MUSEUM, JERUSALEM BY ELIE POSNER

「日々死んでいく」という不気味な言葉は、言い換えれば「日々、人間は死に向かって生きている」ということ、また「日々、人間は“遺品”や“死のモニュメント”になるものを残しながら生活している」ことだ。昨日撮った写真、昨日着た服は、誰かが生きた証であって“遺品”的な性質を帯びるーーこの眼差しが、ボルタンスキーの作品のベースにあるわけだ。

 その上で、学校のクラスのアルバムやスナップから子どもたちの写真をクローズアップして複写し、祭壇のように配置した、80年代の代表作シリーズ《モニュメント》、大量の衣服を壁面に並べ、不在になった人間の生の痕跡を保存しようとする《保存室》が生まれている。

画像: 《保存室(カナダ)》 1988年 衣類  作家蔵 © CHRISTIAN BOLTANSKI / ADAGP, PARIS, 2019, © YDESSA HENDELES ART FOUNDATION, TORONTO, PHOTO BY ROBERT KEZIERE

《保存室(カナダ)》
1988年 衣類  作家蔵
© CHRISTIAN BOLTANSKI / ADAGP, PARIS, 2019, © YDESSA HENDELES ART FOUNDATION, TORONTO, PHOTO BY ROBERT KEZIERE

画像: 《ミステリオス》 (展示風景) 2017年 ビデオプロジェクション(HD、約12時間)、3面のスクリーン 作家蔵 © CHRISTIAN BOLTANSKI / ADAGP, PARIS, 2019, COURTESY POWER STATION OF  ART, SHANGHAI, PHOTO BY JIANG WENYI

《ミステリオス》(展示風景)
2017年 ビデオプロジェクション(HD、約12時間)、3面のスクリーン 作家蔵
© CHRISTIAN BOLTANSKI / ADAGP, PARIS, 2019, COURTESY POWER STATION OF ART, SHANGHAI, PHOTO BY JIANG WENYI

 ただ、この回顧展で思うのは、先のような作品に比べ、近作は少し趣が異なることだ。2017年に制作されたインスタレーション作品《ミステリオス》は、南米・パタゴニアの海岸に、クジラの鳴き声に似た音を鳴らすラッパのオブジェを置き、クジラを呼び寄せようとするものである。現地の先住民にとってクジラは世界の起源を知る、聖なる存在。そのクジラとコミュニケーションを取ろうとするこの作品で、ボルタンスキーは、以前のような“死のモニュメント”ではない、土地に根付く“逸話”や“神話”に接続しながら、生死、人間の存在についての物語をより大きいスケールで描こうとしている。

 展覧会のプレス内覧会で、ボルタンスキーは「私の芸術的な人生の展開が、すべてここにある」と宣言したが、その通り、本展は歴代の作品を紹介しながら、74歳になった彼自身の主題、生死観の変容も見渡せる。“一生の時間”を意味する『Lifetime』というタイトルは、それをうまく言い得ている。

『クリスチャン・ボルタンスキー — Lifetime』
会期:〜9月2日(月)
会場:国立新美術館
住所:東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00~18:00(7・8月の金・土曜は〜21:00)
※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜
料金:一般 ¥1,600、大学生 ¥1,200、高校生 ¥800、中学生以下無料
電話: 03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

 

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