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<Women In Motion Series>
挑戦する、女性写真家たち
Vol.1 長島有里枝

Women In Motion Series ― YURIE NAGASHIMA
芸術分野で活躍する女性たちに光を当てるべく、グローバル・ラグジュアリー・グループであるケリングが創設したプラットフォーム『Women In Motion』。本インタビューシリーズでは、新たな境地に挑み続ける日本の女性写真家にスポットを当てる。第一回は、長島有里枝をフィーチャー

BY AKIKO TOMITA, EDITED BY JUN ISHIDA

 もし長島有里枝にインタビューする機会に恵まれたら、あらためて尋ねてみたいことがいくつかあった。同じ時代に生きる女性として、家族やジェンダーをテーマにした作品で知られる彼女の、創作への原動力のありかを直接確認したいと思ったからだ。たとえば、90年代のガーリーフォト・ブームで中心人物として注目されていたにもかかわらず、すべてを断ち切るようにアメリカへの留学を選択したのは、なぜだったのか。長島は、「未来が見通せない状況から一度離れ、どうするべきか考えたかった」と語るが、そのときの自分を「パンクの、ちょっとヤバいやつみたいに見られていた」と表現する。彼女の名を世に知らしめた1993年の『アーバナート#2』展でパルコ賞を受賞した「Self-Portrait」シリーズは、家族全員が裸で写るモノクロ写真。長島本人も丸刈りに全裸という姿で被写体となり、大きな衝撃をもって受け止められた。「実際には家族間の軋轢(あつれき)があったからこそ、家族のあり方そのものを問うために制作した」と長島が言うように、すべてには理由があった。

この頃、アイドルのヘアヌード写真集が世を席巻していたが、長島には「性的対象として見るための言い訳にアートという言葉が使われているようにしか思えず、そもそも、ヌードがアートになる線引きはどこにあるのか疑問に感じた」という。また、「中学のとき、髪型だけで不良とか優等生とか評価されることに納得がいかなかった。いっそ皆同じ髪型なら、見た目以上のその人がわかるかもと空想し、いつか絶対、丸刈りにしようと思った」と語る。しかし当時、作品を通した問題提起はほとんど理解されることはなかった。

画像: 第36回写真の町東川賞受賞作家作品展(3月30日〜5月5日)の展示作品。《Torn blankey》(2015、「about home」シリーズより) © YURIE NAGASHIMA

第36回写真の町東川賞受賞作家作品展(3月30日〜5月5日)の展示作品。《Torn blankey》(2015、「about home」シリーズより)
© YURIE NAGASHIMA

 カリフォルニア芸術大学で写真を学び、自由に創作する空気を吸収し帰国した長島は、デビュー当時からの作品をまとめた『PASTIME PARADISE』(2000)で写真界の芥川賞とも称される木村伊兵衛写真賞を受賞した。しかし、受賞後すぐに出産を経験。作家活動を制限せざるをえない状況に。
「女だからという理由で子育てや家事の重荷が一手にのしかかってくるんです。やって当たり前とされていることが、ものすごく大変だった。この経験から、重要な仕事をしているのに認められていない女性たちにスポットライトを当てたいという気持ちが強くなっていきました」

 そして、2007年に幼い息子とスイスに滞在して制作した『SWISS』は、彼女の意識の変化を示したという意味でも重要な作品だと言える。植物を写した美しい写真が印象に残るが、偶然発見されたという祖母の撮影した写真群が、彼女の視線を一見普通に見える日常に向かわせる理由の一つになったようだ。
「祖母が花を観察して撮った膨大な量の写真が遺品の中から出てきたのです。押し花の師範免許を取ってすぐに他界したのですが、ストックしてあった植物の素材もたくさん出てきた。主婦だった彼女にも、私と同じ創作意欲があったのだと初めて知りました」

画像: 2007年にスイスに滞在し制作した『SWISS』(赤々舎)より。祖母が生前に撮影した花の写真群を持参し、自らも植物にカメラを向けることで、一人の女性の人生と向き合った作品でもあった © YURIE NAGASHIMA

2007年にスイスに滞在し制作した『SWISS』(赤々舎)より。祖母が生前に撮影した花の写真群を持参し、自らも植物にカメラを向けることで、一人の女性の人生と向き合った作品でもあった
© YURIE NAGASHIMA

 近年、長島の創作は、祖母が遺した押し花を印画紙の上に並べて制作したフォトグラム《過去完了進行形》(2019)をはじめ、モノとしての作品づくりへ展開している。そしてもう一つ注目すべきは、視覚障害のある女性と協働したという、乳剤を塗った板にモノクロ写真を直接プリントした立体や、音・言葉などを使ったインスタレーションの試みだろう。
「年齢とともに視力が衰え、『見える』という状態について考えるようになりました。全盲の半田こづえさんとの交流を通じて、私たちの違いを決定的にしているのは身体よりむしろ社会構造だと気がついた。今は変化してゆく自分の身体をどうやって使ってゆくかに興味が向かっています」

 疑問に感じたら、わからないままにしておくことができない長島にとって、我が身に引き受けながら追求するその過程こそが創作活動であると言えるのではないだろうか。「社会や家族集団で『女性』という役割を生きる上で生まれた疑問や、つまずいたことで気づく問題にフォーカスしていきたい」と語る長島の言葉に、時代を先導する稀有な作家の一人であると確信した。

長島有里枝(YURIE NAGASHIMA)
1993年『アーバナート#2』展でパルコ賞を受賞しデビュー。2001年木村伊兵衛写真賞、2010年『背中の記憶』で講談社エッセイ賞を受賞。また、近年の女性のライフコースに焦点を当てた写真やインスタレーションの作品が評価され、2020年に第36回写真の町東川賞を受賞した。

ウーマン・イン・モーション(Women In Motion)
グローバル・ラグジュアリー・グループであるケリングにより、映画や写真、その他の芸術分野における女性の貢献に光を当てることを目的として2015年5月に発足。以来、活躍する女性たちの才能を称え、キャリアを支援するプラットフォームとして、人々の意識・行動変容を促す手助けをしている。この女性写真家のインタビュー・シリーズはその一環である。

問い合わせ先
ケリングジャパン
公式サイト

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