TEXT & PHOTOGRAPHS BY HIROYA ISHIKAWA
建築関連の展覧会と言えば、デザインや思想、機能性、サステナビリティなどに焦点を当てたものが多い中、建築の骨格となる構造デザインに着目した稀有な展覧会『感覚する構造 - 力の流れをデザインする建築構造の世界 -』が、天王洲のワットミュージアムで開催中だ。
特に地震の多い日本では、7世紀末に建てられた法隆寺五重塔の耐震設計が今でも話題になるほど、古くから構造デザインが重要視されてきた。特に今年は1923年の関東大震災から100年という節目の年でもあり、この展覧会が構造デザインについて学ぶよい機会になるはずだ。
建築家と、構造をデザインする構造家。この両者の協働なくして名建築の誕生はない。会場にはデザインと構造設計の双方に優れた古今東西の構造模型が40点以上も展示され、建築に詳しくない人でも構造デザインについて直感的に理解が深まるような内容になっている。
展覧会はAからDまでの4つのテーマで構成。まずは磯崎新、伊東豊雄、妹島和世と西沢立衛のSANAA、いずれも建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞した建築家たちと構造家の佐々木睦朗の協働を、構造模型を使って紹介した展示、テーマAから始まる。
会場に並ぶのは「多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)」や「瞑想の森 市営斎場」、「フィレンツェ新駅(コンペ案)」など特徴的なデザインの構造模型の数々。中でも注目したいのは、伊東豊雄が手がけた「せんだいメディアテーク」のスケッチや構造模型だ。ほかに類を見ない画期的な構造システムとも評されるこの建物。伊東が最初に描いた薄いスラブ(床)と海藻のように揺れるチューブという詩的なイメージを、佐々木は重力のある世界で安全に成り立つ構造システムとしてどう具現化したのか? ぜひ会場で確かめたい。
そして、「宇宙空間へ」と題したテーマBの展示は、宇宙空間での構造デザインについて。地球での建築の構造を重力の異なる場所に応用している事例として、東京大学大学院の佐藤淳准教授とJAXAが共同開発している月面での滞在モジュールを紹介。10分の1の模型も初公開されている。
「滞在モジュールは月面の縦孔に設置し、中で4人が半年間にわたって暮らすことを想定したものです。できるだけ小さくして月まで運び、月面で大きく展開できるように折り紙のような折りたたみ構造を採用しています。月面での構造物を開発しているチームはほかにもあって、今後10年以内には、第一弾としてなにかひとつでもいいので月に送り込みたいですね」そう話す佐藤准教授。月面で暮らすことは、遠い未来の話ではないのだ。
テーマCでは構造に密接に関わっている素材、中でも竹にフォーカスした展示になっている。滋賀県立大学の陶器浩一研究室による竹を使った構造物の模型を例にとり、よりわかりやすく構造と素材について紹介されている。
最後のテーマDでは、力の流れと建築について紹介。空気をふくらませることによる「膜」構造や「国立代々木競技場」に採用されている「吊り」構造など、構造の基本的な仕組みを模型を通して一般の人たちにも理解できるような内容になっている。また47都道府県・全国構造マップが掲示され、構造的に観るべき建築が紹介されているのも非常に参考になる。
実はこの展覧会、これで終わりではない。今回は前期展で、2024年春からは後期展として「感覚する構造 - 法隆寺から宇宙まで -」の開催を予定。前期と後期を両方楽しむことで、建築を学ぶ学生や建築業に従事する人だけでなく、それ以外の人にとっても構造デザインの魅力や建物の奥深さを余すところなく知ることができる絶好の機会となっている。
今後、名建築はもちろん、街中に無数にある建築に対しても見方が変わり、これまで以上に多くの気づきや発見、感動が得られるようになるはずだ。
『感覚する構造 - 力の流れをデザインする建築構造の世界 -』
会期:2024年2月25日(日)まで
住所:東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号 ワットミュージアム
時間:11時~18時(最終入場17時)
休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜)、年末年始
※会期中一部作品の入れ替えを予定
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