3月30日から茅ヶ崎市美術館で回顧展が開催されるフランシス真悟。彼の代表作「インターフェアレンス」シリーズを、間近にじっくり見ることができる絶好のチャンスだ。発想から制作過程までを、本誌のスピンオフとしてお届けする

BY NAOKO ANDO

画像: 本展のシグニチャーとなる「インターフェアレンス」シリーズの作品 《Four Thousand Weeks》2022 Photo by Keizo Kioku, Courtesy of MISA SHIN GALLERY

本展のシグニチャーとなる「インターフェアレンス」シリーズの作品
《Four Thousand Weeks》2022
Photo by Keizo Kioku, Courtesy of MISA SHIN GALLERY

画像: 《Heart of the Violet Sun》2023 Photo by Rob Brander, Courtesy of William Turner Gallery

《Heart of the Violet Sun》2023
Photo by Rob Brander, Courtesy of William Turner Gallery

 フランシス真悟が2017年から取り組んできた「インターフェアレンス」シリーズは、今や彼の代表作と呼ばれるようになった。
 この作品は、光を反射する細かな雲母を含む顔料を使って描くことで、光の入射角度が変わると色が変化するという大きな特徴をもつ。当たる光の角度が変われば色が変わり、作品の前に立つ位置を変えれば、色も変わる。
 2023年銀座メゾン エルメス フォーラムにて行われた本シリーズと同名のグループ展「インターフェアレンス」展では、巨大な壁画にも挑んでいる。レンゾ・ピアノが設計したこの建物のガラスブロックの外壁を通して入る光が、絶えず作品に変化をもたらした。

画像: 2023年に行われた銀座メゾン エルメス フォーラムの展示風景。「インターフェアレンス」シリーズ初の巨大壁画に挑戦した 《Liminal Shifts》2023 Courtesy of Fondation dʼentreprise Hermès © Nacása & Partners Inc.

2023年に行われた銀座メゾン エルメス フォーラムの展示風景。「インターフェアレンス」シリーズ初の巨大壁画に挑戦した
《Liminal Shifts》2023
Courtesy of Fondation dʼentreprise Hermès © Nacása & Partners Inc.

「このシリーズは、“幾何学的なポートレート”というものがあり得るのではないかという発想からスタートしました。人間や動物などの有機的な生物の肖像だけがポートレートではないはずだ、という考えです。当初は長方形のモチーフを描いていましたが、パンデミック中に自分を見つめる時間が増えるなかで、モチーフは自然に円に向かいました。正円は、生命や季節のサイクルや神社に祀られている神鏡、寺院建築の円窓などにも通じます」

 制作工程はとてもストイックだ。まずキャンバスに白の下地を塗り、乾いたらヤスリをかけて表面を均一にする。触れてみると、ヤスリをかける前と後では、ザラザラの素焼きとなめらかな磁器ほどの違いがある。その上に、雲母が入った顔料でモチーフと周辺を塗り分けて描く。
「この顔料は乾くまでに時間がかかり、完全に乾かないと次の作業に進むことができません。とくにエッジ部分を塗る際は、はみ出したり、滲んだりしてしまわないように、とても神経を使います」
 少しでも納得のいかないところがあれば最初からやり直しとなる。工程の説明は、陶芸家や漆の塗師といった工芸家の話を聞いているかのようだ。作品はただフラットに仕上げられているわけではなく、近くで見ると、筆の運びなどの手の痕跡が残り、それがさらに鑑賞者の目を喜ばせる。その頃合いの良し悪しの見極めが大切なのだろう。

 いくら写真を撮っても、捉えきれない。実際に作品の前に立たなければ、実態がわからない。SNS時代への静かなチャレンジともいえるこの作品と対峙すると、作品との対話が自然に自分との対話へと移行する。鑑賞者はそれぞれ、作品のなかに自分を見つめることになるだろう。そんな作品を、本展でじっくり鑑賞したい。

『フランシス真悟―色と空間を冒険する』
会期:3月30日(土)〜6月9日(日)
会場:茅ヶ崎市美術館
住所:神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45
公式サイトはこちら

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.