東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで、インド出身のアーティスト、プシュパマラ Nの、日本では初となる個展が開催される

BY MARI MATSUBARA

画像: プシュパマラ N 1956年生まれ。インド・バンガロール(現ベンガルール)を拠点に活動するアーティスト。彼女のフォト・パフォーマンスやステージド・フォトなどの作品はMoMA(ニューヨーク、2024年)、テート・モダン(ロンドン、2024年)などで展示。上の写真は24枚のモノクロ写真で構成された〈Phantom Lady or Kismet〉の中の1 点。 PHANTOM LADY OR KISMET, No.19, 1996-1998 ©PUSHPAMALA N

プシュパマラ N
1956年生まれ。インド・バンガロール(現ベンガルール)を拠点に活動するアーティスト。彼女のフォト・パフォーマンスやステージド・フォトなどの作品はMoMA(ニューヨーク、2024年)、テート・モダン(ロンドン、2024年)などで展示。上の写真は24枚のモノクロ写真で構成された〈Phantom Lady or Kismet〉の中の1 点。

PHANTOM LADY OR KISMET, No.19, 1996-1998 ©PUSHPAMALA N

 インド出身のアーティスト、プシュパマラ Nの、日本では初となる個展が開催される。展示される3つのシリーズの中で特に興味深いのが、自らが役柄に扮して示唆に富んだ物語を作り上げる「フォト・パフォーマンス」と呼ばれる作品群だ。
「彫刻家として10年ほどキャリアを築いていましたが、旧弊的な彫刻のあり方に疑問を持ち始めていたとき、ムンバイのギャラリーから映画をテーマにした作品制作を依頼されました。調べていくうちに、1930〜40年代にスタントとして活躍した女性に興味を抱き、彼女が怪傑ゾロのようなヒロインを演じていたのをまねて、友人に撮影してもらったのがきっかけでした」

 怪傑ゾロの姿をしたファントム レディが、生き別れになった双子の妹をムンバイの暗黒街から救い出そうとする物語を、プシュパマラ Nが双子の女性主人公の二役を演じてロケで撮影したモノクロの連作〈Phantom Lady or Kismet〉。その続編シリーズにあたるのが、15年後にデジタル・カラーで撮影された〈Return of the Phantom Lady〉だ。
「双子が別々の場所で異なる境遇で育ち、あるとき再会するといった、大衆の中に流布しているステレオタイプの物語やキャラクターを用いながら、作品の中で脱構築しています」

画像: 1950〜60年代に活躍した俳優・写真家のJ・H・タッカーのスタジオで撮影したポートレートシリーズより。インドのラサ理論に着想した9つの感情のうちのひとつ。 《SHRINGARA/恋情》 THE NAVARASA SUITE FROM THE SERIES BOMBAY, PHOTO STUDIO, 2000-2003 @ PUSHPAMALA N

1950〜60年代に活躍した俳優・写真家のJ・H・タッカーのスタジオで撮影したポートレートシリーズより。インドのラサ理論に着想した9つの感情のうちのひとつ。

《SHRINGARA/恋情》 THE NAVARASA SUITE FROM THE SERIES BOMBAY, PHOTO STUDIO, 2000-2003 @ PUSHPAMALA N

 また全作品にフェミニズムの視点が織り込まれていると言う。「インド映画ではよく都市を女性にたとえて、男性が都市を征服すれば、すなわち女性を手に入れたも同然という描き方をします。現実には女性は夜間に外出してはいけないとか、ひとりで出歩くなという社会的制約があり、あたかも目に見えない存在かのように扱われているのに、街は女性そのものだと喧伝する社会に矛盾やもどかしさを感じます。私がショートパンツでマスクをつけて夜の街を歩いたり勇敢にマフィアと対決したり、実際にはあり得ないことを写真作品の中で実践することで、女性のエンパワーメントや自由、解放を示唆しています」 
 衣装やメイク、小道具などを、多くのスタッフに協力してもらい入念に準備する一方で、ロケ中に偶然居合わせた人や犬など、予期せぬ闖入(ちんにゅう)者が画角に入り込むこともある。
「ロケハンのときにはいなかったホームレスが並んで路上で寝ていたりする情景も取り入れて撮影しています。フィクションのすぐ隣には現実の世界がある。大都市に富と貧困が共存するインドの実情が作品に投影されることもあります」

 4〜5 月に行われた『KYOTOGRAPHIE』での展示に続き、プシュパマラ Nの世界観を包括的に見せる本展。ロケ場所となった失われつつあるインドの風景も興味深い。

『Dressing Up: Pushpamala N』
会期: 6月27日(金)〜8月17日(日)
開館時間:11時〜19時(最終入場18時30分)
会場:シャネル・ネクサス・ホール
入場無料・予約不要
公式サイト

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