キーワードは、“家にいるかのように快適に”

BY MICHAEL ROCK, PHOTOGRAPHS BY MICHAEL ROCK, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: アッパーイーストサイドの「ザ ロウ」の3階建て店舗。内装は建築家のジャック・グランジュ。ファッションアイテムが、高価な絵画や家具とともに展示販売されている

アッパーイーストサイドの「ザ ロウ」の3階建て店舗。内装は建築家のジャック・グランジュ。ファッションアイテムが、高価な絵画や家具とともに展示販売されている

 バーゲン品を探すならデパートのチェーン店「センチュリー21」の騒々しさも我慢しなくてはならないし、「イケア」では巨大な店舗に飲み込まれ、腸のようにクネクネした迷宮の中を歩き続けるはめになる。そもそも、巨大な商業店舗とラグジュアリー商品とはあまり相性のいい組み合わせではない。同じような商品が山ほど並んだ中では、どんな高級ハンドバッグもオーラを失ってしまう。だが逆に、家のようなくつろいだ雰囲気の中に高級品が置かれると、大量生産と宣伝広告によって生み出された個性のかけらもない商品ですら、閉鎖的な空間に宿るファンタジーの力によって、その欠点がうまく覆い隠される。商品と客との間に親密な 関係を築ければ、商品の魅力はぐっとアップするのだ。

 かつて、大きいことがよしとされた時代があった。大きければ大きいほど選択の幅が広いというわけだ。巨大な店舗は行くだけで楽しい場所であり、大きいということは世界全部がその中に入っていることを意味していた。ショッピングモールは、ショッピングの楽しさや興奮の度合いを示す物差しだとばかりに、こぞって床面積の広さを売りにしていた。百貨店「メイシーズ」は、ヘラルドスクエアのフラッグシップストアを“世界最大の店”だと宣伝した。 20世紀初頭、フィラデルフィアにあった有名な百貨店「ワナメーカー」では、客たちは塔のようにそびえるコリント式の柱が並ぶ玄関から店に入った。店内では、巨大なローマ・ドリス式の中庭や素晴らしいエジプト式の広間、ビザンチン帝国風、アール・ヌーヴォー風の部屋で商品を見るのだった。世界中から買いつけられた商品は、オールド・マスターと呼ばれる18世紀以前に活躍したヨーロッパの画家たちの絵画や、エキゾティックな美術品の展示と並んで陳列されていた。こうした巨大なデパートは世界への入り口だった。百科事典に載っているすべてが展示されているような博物館の商業バージョンであり、博物館同様、大衆をあっと言わせ、教育するのがその重要な使命でもあったのだ。

 ちょうどその頃、「シアーズ・ローバック」と「モンゴメリー・ウォード」は、独自のホームショッピング・ネットワークを通じて、店舗のない地方の人々にも“大きさ”の恩恵を届けていた。そのネットワークとは一冊700ページ以上あるメールオーダーの総合カタログで、洋服のボタンを手早く止める器具から、ブラジャー、四輪バギーまで何でも注文できた。頼んだ商品は郵便局が客の玄関先まで配達してくれる。往時のシアーズのカタログの表紙には、「わが社は世界中と取り引きしています」という見出しが誇らしげに書かれている。その表紙には、いかにもアメリカらしいのどかな農場の風景を背後に、住所の印刷された封筒を手にした色白の女性が「、豊饒の角つ の」と呼ばれる角形の容器に寄り添う姿が描かれていた。その角からは家具や銃やピアノや洋服があふれ出している。メールオーダーカタログのおかげで、以前なら手に入れることなど思いもよらなかった商品が全米のどこにいても買えるようになった。豊富な在庫を有していることが最強だった時代だ。

 1960年代までには、シアーズ1社の売り上げがアメリカ国民総生産の約1%に達していたと報じられている。シアーズは35万人の社員を雇い、クレジットカードを国民の半数以上に提供していた(その頃、ヒッピーた ちのバイブルとなった雑誌「ホール・アース・カタロ グ」が出版された。いま人気のブルックリンスタイル DIYの前身を思わせる新しいテイストで、ハンドメイ ド専門のオンライン・マーケットプレイス「エッツィ ー」の元祖のような存在だった)。時をさらに進めて、すでに誰もが知っている郊外型巨大ストアの出現という流通革命について話そう。「ウォルマート」が小売業の世界最大手となり、「QVC」と「ホームショッピング・ ネットワーク」が年中無休の24時間体制で稼動し、キュービックジルコニアのアクセサリーからカーペットのシミとり剤、ミラクルナイフのセットまで、誰でもテレビと電話さえあればいつでも注文できるようになっていった。

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