キーワードは、“家にいるかのように快適に”

BY MICHAEL ROCK, PHOTOGRAPHS BY MICHAEL ROCK, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 そして、その後にやってきたのは、それまでの歴史 を上回る大きな変化だった。地球上のどこにでもアクセスできる可能性が現実となったことで、すべてが変わった。インターネットによって世界中のものが実際に買えるようになっただけでなく、大多数の人々にとってネットショッピングは日々の生活に欠かせないものとなった。グローバルなショッピング体験を、究極のローカルである自宅のソファにいながらにして味わえるようになったのだ。「アマゾン」は、昨年1年だけ で約158万平方メートルの倉庫スペースを増築し、世界最大のリテール「ウォルマート」の市場価値を抜き去った。巨大な規模に拡大したアマゾンは、必要なものは何でも常に在庫があり、キーボード入力するだけですぐに手に入るという消費者の期待を膨らませた。

 最近開発された「アマゾン・ダッシュボタン」を使えば、キーボード入力すらしなくてすむ。ブランド別に用意されたボタンをクリックするだけで、特定の商品を注文できるシステムだ。もはや家そのものがインターフェイスとなり、食料庫もア ウトソースされるのだ。洗剤のタイドがなくなった? それならダッシュボタンをポチッと押せば、おなじみのオレンジ色の箱がたった数分で玄関先に運ばれてくる。配送するのは、労働組合もなく親しみやすいドローンだ。平均的なアメリカ人女性は、ワードローブにある服の何分の1しか着ないし、新しい服を買っても実際は数回しか着ないと推定されている。だとしたら、まず間違いなくアマゾン式の流通は女性たちのクロゼットの中にも進出してくるはずだ。シャネルやカルバン・クラインのダッシュボタンができるのも時間の問題だろう。冬服は夏の間、倉庫に入れておく? もうそんな必要はない。流行遅れで着られない? そんな服は送り返せばいい。サイズが合わなくなった服も同じだ。あなたのワードローブは、気候やあなたの身体や気分の変化に対応してくれるようになる。巨大な商業倉庫は、もはやあなた自身のパーソナルスペースの延長なのだ。

 少なくともラグジュアリー商品に関していえば、大きいことはいいことだという認識は消え去りつつある。実際の店舗で商品を探すという行為は、インターネットでの検索には決してかなわない。膨大な情報を収集 し整理するさまざまなアグリゲーター、ブランドの eコマース・サイトや、キュレーションを中心としたショッピングサイトなどが、インターネットでの検索の可能性を無限にする。さらに、無数にある小規模ブティックや「エッツィー」のような手作り品を売るサイトが、ありとあらゆる商品を提供するからだ。だがそのかわり、実際の店舗はネットでは無理なサービスを提供することができる。たとえば客が商品とじっくり出会える空間や、手で実際にさわって商品の感じを確かめられること、親切な店員との個人的なやりとり、さらに、モノを文脈にあてはめて考えるという体験や、同じような好みを持ち、商品に詳しい客やスタッフとのおしゃべりなど。そして何より重要なのは、雪崩のように迫ってくる無数の商品から、一時でも逃 げられることだ。消費者から高く評価されている「アップルストア」について考えてみよう。アップルストアは全米のほかのどの店よりも、売り場面積1平方フィートあたりの利益が高い。だが、店で売られている商品は基本的には4つしかない。電話、時計、音楽プレーヤー、ラップトップだ。皮肉にも、店舗ビジネスは、生き残るためには品数を増やすのではなく、厳選された少ないアイテムで勝負しなければならない時代となったのだ。

 私たちがベッドに寝っ転がったまま買い物することに慣れて習熟し、遠く離れた商品倉庫と自宅が常につながって需要と供給が逐一モニターされるようになっ としよう。そうなったら、店舗というものは、自宅という家庭的空間の社会的機能を果たす別館になるだろう。家で必要な日用雑貨の調達が自動化されるようになれば、商品を見て、研究し、価格比較するという行為は、もはや買い物の存在意義ではなくなり、単なる前段階にすぎなくなるのだ。店を訪れるという行為は、あの百貨店「ワナメーカー」の創設者ジョン・ワナメーカーがかつて抱いていた、ショッピングは教育であり文化的な啓発であるという本来の夢に還っていくのかもしれない。だとしたら、私たちは、もっとも心地いい場所で、もっとも多くを学べるのではないだろうか。自分の家のリビングルームのようにくつろげ る場所か、あるいはそれ以上に心地いい体験をさせてくれる場所で。

 え? あの「ワナメーカー」はその後どうなったかって? マンハッタンのあの巨大な古いデパートの建物は、今や「フェイスブック」のニューヨーク本社になっている。

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