キーワードは、“家にいるかのように快適に”

BY MICHAEL ROCK, PHOTOGRAPHS BY MICHAEL ROCK, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: 世界最大の店は、今やラップトップの中にある。小売業における最新のコンセプトは、親密さと家にいるような居心地のよさだ。写真は「ザ ロウ」 のニューヨークにあるタウンハウスの店舗。バスキアの作品がジャケットの隣に並ぶ PHOTOGRAPH BY MICHAEL ROCK

世界最大の店は、今やラップトップの中にある。小売業における最新のコンセプトは、親密さと家にいるような居心地のよさだ。写真は「ザ ロウ」 のニューヨークにあるタウンハウスの店舗。バスキアの作品がジャケットの隣に並ぶ
PHOTOGRAPH BY MICHAEL ROCK

画像: ロサンゼルスのホテル「ザ・ライン」のセレクトショップ「ザ・アパートメント」。品揃えだけでなくスタイリングのよさも売りだ

ロサンゼルスのホテル「ザ・ライン」のセレクトショップ「ザ・アパートメント」。品揃えだけでなくスタイリングのよさも売りだ

 浴室のバスタブやシャワーを新調しようとショッピング中? それなら店を見て回るだけじゃなく、ニューヨークのソーホーにあるキッチン&バス用品ブランド「パーチ」のショールームで実際にシャワーを試してみてはどうだろう。五感を使って、まったく新しいショッピング体験ができるはず。いや、もっといいのはロンドンの「ニューロード・レジデンス」のゲストハウスに一泊して、備えつけのリネンやタオル、台所用品を使ってモデルキッチンで夕食を作ってみることだ。ここでは、家の中のあれこれを買い換える前に、商品を "試運転" のように使ってみることができる。また「ザ・ライン」が経営する「ザ・アパートメント」というセレクトショップでは「、プロタゴニスト」や「ケイト」といった新進ブランドの服がたっぷり納まったクロゼットやドレッサーの引き出しの中をくまなくあさることもできる。なんならドレッサーごと買って持ち帰ってもいい。あるいは、ニューヨークのアッパーイーストサイドにある優美なタウンハウス「、ザ ロウ」のショップに入り浸りたいという人もいるかもしれない。そこではキースヘリングやバスキアのクリエイティブな作品を横目に、同ブランドの最新商品をじっくり吟味することができる。

 家でくつろぎながら買い物ができるオンラインショッピングの市場は、今や破竹の勢いで拡大しつづけている。2016年の第1四半期、オンラインショッピング全体の売り上げは約1,000億ドルに達した。それに伴い、店頭でのショッピング体験はますます“家庭的であること”が必須となってきた。まるで家の中のように感じられる空間を提供するだけでなく、居心地のよさをとことん演出することで、リテールにはつきものの代金を支払うという生々しい行為の印象を和らげる効果もある。店で味わえる “心地よさ”はじつに幅広く、エコノミークラスからファーストクラスまでの開きがある。

たとえば、スーパーでカートのハンドルにカップホルダーがついていればちょっと得をした気分になるし、高級ブティックでは冷えたサンペレグリノが銀のお盆に載って用意されている。しかしレジで支払いの列に並んだが最後、そんな心地いい気分もすべて水の泡だ。それゆえ、商品購入の最後を締めくくる支払いの方法も様変わりしつつある。高級ブティックでは、あなたがクレジットカー ドを出したとたん電光石火の速さで運び去られ、金銭にまつわる生臭い現実は目に見えないところで処理される。そして、カードと伝票が柔らかな革製のバインダーに挟まれ、あるいは木目のトレイに乗せられて、控えめに、申し訳ないといった感じであなたのもとにそっと戻される。もっと民主的な「アップルストア」では、レジすら分散されている。自分のスマホで購入商品をスキャンすれば、アップルペイで支払いがすみ、そのまま誰にもとがめられずに優雅に店を出ていける。まるで、店にある商品はすべて、もともと自分のものだったかのようにふるまえるのだ。

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