半世紀近くにわたりつねに挑戦を続けてきた建築家、安藤忠雄。住宅から美術館まで、人の"思い"を建築にしてきた。建築を超えた社会活動へと展開する現在と、未来への展望を語る

BY NAOKO AONO, EDITED BY JUN ISHIDA

「自分たちが住み続けるであろう場所を、魂が住むことができる場所にしたいからなんです」

 魂が住む場所は、人の思いがつくってきたものでもある。今回の展覧会でも大きく扱われる直島はベネッセホールディングス最高顧問、福武總一郎氏の依頼によるもの。安藤は美術館とホテルとが一体になった「ベネッセハウスミュージアム」やモネとジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアの作品を恒久設置する「地中美術館」、李禹煥(リ・ウーファン)の作品を展示する「李禹煥美術館」などをつくってきた。いずれも海と緑、アート、そして建築とが一体となり、時とともに刻々と表情を変えていくのを体験できる場だ。そこは福武氏の意志が力になり、形になったものだと安藤は言う。

「福武さんは、ホワイトキューブ(白い壁に囲まれた、通常の美術館の展示室)ではダメだ、ここでなければできない美術館をつくりたい、と言うんです。瀬戸内海に浮かぶ直島という場所でなければ見ることのできないものを、ということです。そこで『地中美術館』ではモネの《睡蓮》は照明のない、自然光のみで見せる展示室に飾ることにしました。日が沈んだら見られませんから〝日没閉館〞です」

画像: 工場からの排ガス等で荒れていた直島に、安藤は福武總一郎氏とともに「ベネッセハウス」など美術館やホテルを次々と建設、海外からも多くの人々が訪れる"アートの聖地"に生まれ変わらせた。建物は周囲の緑に身を隠すように計画され、自然と一体化している。直島では今も植樹活動が進められている PHOTOGRAPH BY MITSUO MATSUOKA

工場からの排ガス等で荒れていた直島に、安藤は福武總一郎氏とともに「ベネッセハウス」など美術館やホテルを次々と建設、海外からも多くの人々が訪れる"アートの聖地"に生まれ変わらせた。建物は周囲の緑に身を隠すように計画され、自然と一体化している。直島では今も植樹活動が進められている
PHOTOGRAPH BY MITSUO MATSUOKA

画像: 直島「地中美術館」のウォルター・デ・マリアの展示室。天窓から室内に入る自然光が刻一刻とアートの表情を変える PHOTOGRAPH BY MITSUO MATSUOKA

直島「地中美術館」のウォルター・デ・マリアの展示室。天窓から室内に入る自然光が刻一刻とアートの表情を変える
PHOTOGRAPH BY MITSUO MATSUOKA

 ダーウィンの進化論によると、強い者ではなく、時代の変化に適応できた者が生き延びるのだという。安藤も時代や、自身の変化を読みながら生きてきた。

「2014年に病気をして、膵臓や脾臓を摘出する手術をしたんです。『膵臓を全部切除して元気に生きている人はいませんよ』と医師が言うので、じゃあどうなるか試してみようと思った(笑)。手術後は、食事はゆっくりとって、食後は1時間半ぐらい休憩しなさいと言われたので、そのとおりにしています。休憩時間や夜寝る前には本を読んでいます。若い頃に読めなかった本もたっぷり読める。病気をしましたが、こんなふうにいいこともあるんですね(笑)。現在はボランティア、講演などの教育活動、自分の仕事にそれぞれ3分の1ずつ取り組んでいる感じです」

画像: 事務所のほぼ中央、吹き抜けの下にある安藤のスペース。スケッチや筆記用具のほか、いつも本が山積みになっている PHOTOGRAPH BY SHINGO WAKAGI

事務所のほぼ中央、吹き抜けの下にある安藤のスペース。スケッチや筆記用具のほか、いつも本が山積みになっている
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