BY NAOKO AONO, EDITED BY JUN ISHIDA
安藤は自著で、若い頃にむさぼるように本を読んだことを回想している。経済的理由から大学進学を諦めた彼は、授業で使う専門書を入手し、起きてから寝るまでひたすらに読んだ。大阪の古書店でル・コルビュジエの作品集を見つけたが高価すぎて手が出ず、ほかの客に買われないよう別の本の下に隠して、ようやくの思いで数カ月後に手に入れたこともある。吉川英治『宮本武蔵』、幸田露伴『五重塔』、和辻哲郎『古寺巡礼』『風土』、フェルナン・プイヨン『粗い石』といった文芸書からは、建築に対する厳しい姿勢や、人々の思いが、その場でしかなし得ない建築を生み出すことを学んだ。今も大阪の事務所には1階から5階まで、壁一面に据えつけられた書棚にぎっしりと本が並ぶ。
「本を読むことは知的レベルを上げるだけでなく、感性を磨くために重要なんです」
子どもの頃から活字文化に親しんでもらいたい。そう考える安藤は子どものための図書館をつくることを考えている。そのひとつのきっかけになったのが12年前にオープンした、いわき市の絵本美術館「まどのそとのそのまたむこう」だ。この図書館は、幼稚園の園長を務める巻レイさんが園児のためにと思い、30年来夢見てきたもの。安藤はこんな図書館を各地につくりたいと考えている。
「東北で民家を曳家(ひきや)して補強し、本棚をつけて絵本館をつくれないかと考えています。それと、大阪の中之島で「こども本の森 中之島(仮称)」という子どものための図書館を計画しています。大江健三郎さんは子どもの頃、親に読んでもらったマーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』が自分の原点だと語っておられました。本が勇気のある子ども、考える子どもを育ててくれると私は考えています。日本から世界に向けて活字文化の重要性を発信したい。これが私の今いちばん大きな挑戦です」
8月に行われた講演の題は「100歳まで生きる」だった。彼の頭の中には成し遂げなければならないことが詰まっている。安藤の挑戦は終わることはないのだ。
安藤忠雄展─挑戦─
会期:〜2017年12月18日(月)
会場名:国立新美術館
住所:東京都港区六本木7-22-2
休館日:火曜休
開館時間:9:00〜18:00(金・土曜は20:00まで)
料金:一般 ¥1,500、大学生 ¥1,200、高校生 ¥800、高校生未満は無料
問い合わせ先:03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト