BY MASANOBU MATSUMOTO
たとえば、思想家、柳宗悦は、日本各地の風土や生活の中で培われてきた「民芸」に美的価値を見出し、復興・啓蒙運動に尽力した。建築家ブルーノ・タウトは京都の「桂離宮」を、美術批評家ミッシェル・タピエは神戸・大阪の前衛美術「具体」を調査し、西洋に紹介。結果、日本人はその魅力を再発見した。地域に眠っているものの魅力や価値。それを誰かが発掘することで、モノづくりの文化的強度は増し、ひいては地域自体のリブランディングに繋がったというケースは、歴史を振り返っても少なくない。
その現代版といえるのが、昨年より始まった「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」だ。レクサスが主催する、日本の各地で地域の特徴や技術を生かしながら、自由な発想で創作活動を展開する若き匠たちをサポートするプロジェクト。日本が抱える「地方創生」と「モノづくり」のそれぞれの課題を、相乗的に解決しようとする挑戦的な試みだ。今年も、プロデューサーの小山薫堂や建築家の隈研吾などデザインやアートシーンで活躍するがプロたちがサポートメンバーとして参加。全国各地から選出された51名の匠は、彼らのアドバイスを受けながら、新しいプロダクトを制作していく。
狙いは、匠が継承する伝統技術や地域のオリジナリティをアピールすることだけではない。世界で”売れる”プロダクトを作ることだ。サポートメンバーは、匠の元へ訪問し、その技やアイデアが生まれた地域の特性を肌で感じながら、一方で、世界のクリエーションのトレンドや市場の傾向を踏まえたアドバイスを行なう。また、国内外の百貨店やセレクトショップのバイヤーへのプレゼンテーション、作品展示など、ここで完成されたプロダクトが世界の目に触れる場も用意する。
2016年度の匠たちの話を聞くと、アイデアからプロダクトの完成までに、プランを変えたものも少なくない。愛知県に住む、有松鳴海絞りクリエイターの伊藤木綿は、当初、絞り染めを施したポンチョの制作を計画。だが、制作現場でサポートメンバーと議論する中で、ポンチョというアイテムが汎用性に乏しいこと、またファッショントレンドを鑑みて、レインコートにアレンジした。長崎県のガラス職人、竹田礼人は、”長崎くんち”で踊る龍の眼をモチーフに照明作りに取り組んだ。こちらも制作過程のディスカッションで、コストのかかるガラス電球ではなく、ランプシェードに変更。また、シェードをパーツ化し、組み合わせによって色や文様のバリエーションを楽しめるようにアレンジを加えたという。
プロジェクトの記者会見で、小山薫堂は「出会いの重要性」を熱弁した。地域に根付いた伝統技術や自身のアイデアを、どんな人と出会わせ、どう発展させていくかで、ブランドやプロダクトの価値は大きく変わるという。これは、単なる職人発掘オーディションではなく、積極的な出会いのプロジェクトだ。出会いの中で進化していく匠の姿に、日本のモノづくり産業の未来が垣間見えるかもしれない。
LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017
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