毎年9月、イタリアの古都ボローニャで開催されるセラミックタイルおよび浴室用品の国際見本市「チェルサイエ」。そのもようを現地からレポート!

BY KAORU URATA

 いつ訪れても夕日に染まったような褐色の街、ボローニャ。西欧最古のボローニャ大学に通う学生たちの声が、数世紀を経て古びた石とレンガづくりの街角にこだまする。今昔が共存するこの街で、毎年9月下旬、セラミックタイルと浴室設備用品の国際タイル建材見本市「Cersaie(チェルサイエ)」が開催される。ボローニャが位置するエミリア・ロマーニャ州モデナ県は、セラミック産業が集中し、イタリア産業連盟のセラミック工業連盟本部もある世界屈指のセラミックの宝庫だ。

画像: 王宮建築の石材からインスピレーションを得た、Cotto d’Este社の「Pietra d’Iseo」 © COTTO D’ESTE ほかの写真を見る

王宮建築の石材からインスピレーションを得た、Cotto d’Este社の「Pietra d’Iseo」
© COTTO D’ESTE
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 チェルサイエは、建築業界の建材取引業者、設計者、施工業者が集う商談の場として知られる見本市だが、一般消費者にとっても大いに魅力あるイベントだと思う。実際に、住まいにこだわるイタリア人や海外から多くの一般客が、最新のインテリア素材を探しに訪れる。さまざまに演出された空間の中、840ほどの企業やメーカーが床や壁面、化粧板のセラミックタイルを出展するさまは壮観だ。ファッションほど早いサイクルではないにせよ、建築やインテリアにもトレンドはある。変化する生活スタイルにあわせ、マテリアルの質感(テクスチュア)、カラー、サイズなど、そのバリエーションはますます豊富になっている。

 デザイン力では、欧州の中でもイタリアはとりわけ群を抜いたセンスを誇っているように思われる。それは、モノづくり、ことにディテールへのこだわりがあるからだろう。こうした意識は、タイルのような“素材”を生産する過程にも反映されている。昨今では、デジタルプリンターや3D加工技術の導入で、自然界の木の節目、石材の微妙に波打つ立体感、凹凸や色味などを再現することも可能になった。それに加えて、イタリアの職人たちの感覚による繊細な質感や複雑で微妙な色の調整が、よりハイレベルなディテールを実現している。

画像: 「Lane」は、ロンドンの街の色をイメージソースにしたバーバー&オズガービーのデザイン。Mutina社の新コレクション「Inedito」より ©MUTINA ほかの写真を見る

「Lane」は、ロンドンの街の色をイメージソースにしたバーバー&オズガービーのデザイン。Mutina社の新コレクション「Inedito」より
©MUTINA
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 こうした技術の発展によって、機能が向上するだけでなく購入しやすい価格での提供も可能になってきた。たとえば、従来はフローリングの使用を避けていたバスルームやトイレ、キッチンなどの水回りに、近年はセラミック製の木目タイルを使う施工事例が増えてきた。オール大理石の浴室は高くつくが、本物を緻密に再現しながら手入れも施工も簡単なセラミック製大理石やブラジル産の石材が比較的安価に入手しやすいのは魅力だ。壁面や天板に使用する薄さ3mmのセラミックタイルは、荷重を軽減できるため、施工方法の幅も広がる。セラミックタイルは抗菌対策のほか、紫外線などによる経年劣化も防げるのでメンテナンスも容易で、商業施設やホテルの内外装には欠かせないものとなっている。

画像: カララ大理石をイメージした、艶のあるホワイトのタイル「Vanity」コレクション © COTTO D'ESTE ほかの写真を見る

カララ大理石をイメージした、艶のあるホワイトのタイル「Vanity」コレクション
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画像: 自社ショールームで、新商品と写真とタイルを組み合わせたMutinaの展示会「Surface Matters」 PHOTOGRAPH BY MATTEO PASTORIO ほかの写真を見る

自社ショールームで、新商品と写真とタイルを組み合わせたMutinaの展示会「Surface Matters」
PHOTOGRAPH BY MATTEO PASTORIO
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 世界各地から集う業界の目利きたちを魅了するために、商品の付加価値をどこで競うのかは多くのメーカーの課題だ。さまざまな革新が追求される中、テクノロジーとアートをうまく融合させた商品はやはり広く支持されている。また、生産過程における自然環境への配慮や持続開発への取り組みなども品質ラベルとなり、有効な付加価値として注目されている。

 実際にチェルサイエの展示会場を歩いてみると、ひと言でタイルとくくれないほどに多彩なバリエーションとそれらの可能性に圧倒される。昨今の傾向として、建築業界では繋ぎ目の目地を見せない美しい仕上がりを求めるために、<160x320cm>などのビッグサイズの提供を競うメーカーも目立つ。一方では、インテリアデザインが楽しくなりそうなモザイクタイルや、あえてタイルの色が異なる色の目地を用いるといったビジュアルの提案も充実。大理石の塊を割ったようなセラミック製タイルは、シンメトリーなマーブル模様のリアルな緻密さに目を奪われる。

画像: 内と外の境界なくしたSupergres社のウッドタイル「Ekho」コレクション © SUPERGRES ほかの写真を見る

内と外の境界なくしたSupergres社のウッドタイル「Ekho」コレクション
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画像: 錆の表情を再現したCentury社のコレクション「Titan」 © CENTURY ほかの写真を見る

錆の表情を再現したCentury社のコレクション「Titan」
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 そんな中、今年のトレンドは“アートピース”。巨匠画家の色使いや絵の質感をインスピレーションソースに、ノクターンブルーやグリーン、男性的な濃い色調の木目や古い木材、打ちっ放しのコンクリート、セメント、錆びた風合い……などを表現したものが目立った。もちろん、クラシカルなブラック&ホワイトのコントラストや、カジュアルなデニムカラー、テキスタイル模様のタイルも定番の人気である。どのタイルもそれぞれに個性豊かで美しく、「これを自宅に使ったら」とイメージが膨らむ。

 一枚一枚のタイルを組み合わせていくことで、パズルのように無限に空間表現の可能性が広がる――。そんな楽しみとインスピレーションを求めに、来年のチェルサイエに出向く計画を立ててみてはいかがだろうか。

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