BY KANAE HASEGAWA
“ファンタジー”——。インテリアデザイナー、ヴァンソン・ダレが手がける空間を形容するうえでこれほどぴったりくる言葉はない。パリ、サンジェルマン地区の「ホテル・モンタナ」やヴァンドーム広場に面した「スキャパレリ」のブティックなど、彼が手がけた数々のデザインを見れば納得できるだろう。60歳になったダレ本人も、ファンタジーの世界から抜け出してきたようなオーラを放つ。
インテリアデザインを初めて手がけたのは2008年。パリ、ヴァンドーム広場に面した「スキャパレリ」のブティックのデコレーションだ。今は亡きエルザ・スキャパレリは、前衛芸術家ジャン・コクトーやサルバドール・ダリらと交流し、その卓越したアートセンスで時代を一変させるファッションを発表した。ダリが描いた“体がタンスのようになった人間”の絵に着想を得た「デスク・スーツ(前身頃に、引き出し風のポケットをつけたもの)」。また同じくダリの作品にたびたび登場するロブスターをプリントした「ロブスター・ドレス」など。ダレが担当したスキャパレリのブティックにも、ロブスター型の引き出し付き家具が置かれている。「このブティックは、スキャパレリのファンタジーあふれる世界観を伝えるための舞台です」とダレは言う。
先ごろ、東京、伊勢丹新宿店で開催されたジュエラー「フレッド」のポップアップストアイベントでも、ブランドのインスピレーション源になっている南仏の海や太陽の輝きをイメージさせる舞台を作り出した。
無駄な装飾をそぎ落としたミニマルで機能的なデザインが現代のニーズであるとしたら、ダレのデザインはその対極に位置する。自身が空想した生き物をモチーフに、骨董市で見つけてきた18世紀の家具の装飾をミックスしたり、ダレは現代と過去を行き来しながらデコレーションする。それは、ファッションデザイナーが歴史を参照しながら新たなクリエイションを生み出すアプローチにも通じているように思える。
実のところ、ダレはインテリアデザイナーとして大成する前、ファッション業界でキャリアを積んだ。映画関係の仕事についていた兄の影響で舞台衣装に興味を持ち、フランスのモード学校ステュディオ・ベルソーでファッションを学んだ。1980年代初頭、型破りなクリエイションをファッション業界が求めた時代だ。ダレはイヴ・サンローランのアシスタントになり、クロード・モンタナの元で働いた後、プラダのファッションコーディネーターであったマニュエラ・パヴェシの誘いを受けてイタリアに渡る。そこでミウッチャ・プラダ、そしてマリオ・ヴァレンチノのもと、ウィメンズウェアのデザインに関わった。1995年には、友人の導きでカール・ラガーフェルドと出会い、フェンディに。そしてモスキーノのクリエーションにも携わった。
「人生はドラマのようなもの」とダレは振り返る。また「私は毎朝、どんなキャラクターになりきろうかを考えて、その日の装いを選んできました。メゾンが変わるたびに、新しいキャラクターを得られた。そのことはいつも私をワクワクさせました」とも。