BY EMI ARITA, PHOTOGRAPHS BY YUKARI KOMAKI
訪れた先々で、それぞれの土地の文化や伝統息づく素敵なものを見つけ出し、それらを日常使いするのが、「旅の後のお楽しみ」と古牧さん。2018年に訪れたウズベキスタンから持ち帰った木彫りのカッティングボードや鮮やかな色彩の器は、日々の食卓で活躍し、今やすっかり古牧さんの部屋に溶け込んでいる。
中央アジア5カ国のひとつであるウズベキスタンは、かつてシルクロードの要衝として栄え、古くから東洋と西洋の文化が交錯した場所。14世紀にはティムール帝国の中心地となり、イスラム文化も隆盛。当時建てられた美しいイスラム建築の数々のほか、旧ソビエト時代の面影も随所に残る。
「大陸の歴史に翻弄された場所ではありますが、ヨーロッパ的なエッセンスとイスラム文化がうまく共存していて、街はとても美しいし、そこで生まれる工芸品や雑貨にも、いろんな要素が混ざり合っているように感じます。エキゾチックな模様や絵柄、独特な色使いはウズベキスタンならでは。私の部屋もいろんな国の物が混然一体と共存しているので、ウズベキスタンのムードは心地よかったですし、持ち帰った食器や雑貨も、違和感なく部屋に調和してくれています」
ウズベキスタンの伝統的な織物、スザニにも多様な国のエッセンスが感じられたそう。「スザニは、シルクやコットン生地に絹糸で刺繍を施したもの。幾何学模様や自然界の草花、太陽などいろんなモチーフの絵柄が刺繍されているんですが、よく見ると、日本の伝統文様っぽいものがあったり、北欧のモダンなテキスタイルっぽいものがあったりして、とてもおしゃれ。好きな生地を選んで、ストールなどを作ってもらうこともできましたが、特にシルク製だと高価だったので、完成品のコットン製のポーチを購入しました。でも、生地だけを買って額に入れて飾る、というのも素敵だったかも……とちょっとだけ心残り」
スザニのような伝統工芸だけでなく、職人によるハンドメイドの生活雑貨や日用品が露店や市場で売られており、その中からお気に入りのものを見つけ出すのも楽しいひとときだった、と古牧さん。
「クラフトならではの肌触りとか質感とか、ちょっと歪んだフォルムとか、既製品やモダンで洗練されたデザインにはない趣に心が惹かれるんです。購入した木彫りのカッティングボードも、よく見ると彫り方が安定していなくて、所々ボコボコしているし、模様も、一部掘り忘れてしまったのか、よく見ると左右対称になってないんです(笑)。砂漠の近くで購入した靴下もそうで、網目は粗いし、丈夫そうなものを見つけるのに苦労しましたが、手編みならでの素朴さと温もりが素敵だなと」
「洗練されたデザインの家具や雑貨でつくる空間はとても素敵なんですが、それしかない空間に身を置くと、ピリッとした緊張感を感じてしまい、私は落ち着かないんです。
だから、そういう要素は10あるうちの1個か2個くらいにして、残りは旅で出合った素朴な物や、好きで集めた物を、雑多に共存させたい。それが今の私の部屋であり、ウズベキスタンで出合った物も、私にとっての心地よさにつながっていると思います」
古牧ゆかり
スタイリスト/ビジュアルディレクター。ファッション誌で活躍後、渡仏。パリに暮らす。帰国後『エル・ジャポン』のファッションエディターに。現在はフリーでファッション、インテリアのスタイリングや動画制作のビジュアルディレクションを手がける。本誌ファッション特集でも活躍中。
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