ファッション市場を活気づけた新しい限定アイテム。そのブームを仕掛けた2大企業の戦略とファッションリテールの現実

BY VALERIYA SAFRONOVA, PHOTOGRAPHS BY ANDREW WHITE, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

画像: スレッド・ショップ社が販売するヒップホップ・グループのア・トライブ・コールド・クエストのTシャツ

スレッド・ショップ社が販売するヒップホップ・グループのア・トライブ・コールド・クエストのTシャツ

 スレッド・ショップ社の収益額をソニーに問い合わせたが、回答は得られなかった。しかし、ソニーのライセンス契約、遺産管理、テレビおよび映画の契約を担当するコマーシャル・ミュージック・グループのリチャード・ストーリー社長は、親会社のバランスシート(貸借対照表)から見て現在の貢献度はそれほど大きくはないものの、「経営戦略会議でもわれわれはこのビジネスに注目しており、『数億ドル単位の利益をあげる健全な事業にできないか?』と議論しています。そして、それは間違いなく可能だと私たちは確信していますよ」と答えてくれた。

 つい先日の午後、マンハッタンのマディソン・スクエア・パークの向かいにあるソニーのニューヨーク本社で、ウォンは業界のライバル、ブラバド社についてこう語った。「この業界のトップは彼らです」とウォンは言い、「だけど」と続ける。「私はトレンドを軸にして商品作りをしているし、人々が私たちの商品を選んでくれるのはそのおかげだと思っています。もっとかっこいいコンサートTシャツをどうしたら作れるか? 裾丈を短くするべきか、カットするか、安全ピンをつけるかーーといったことをいつも考えてるんです」。過去にアメリカの高級百貨店ブルーミングデールズ、カルバン・クライン、そしてベネトンに勤めた経験のあるウォンは、自分でVネックにカスタマイズした、エイサップ・ファーグのTシャツを身に着けていた。

画像: ソニー・ミュージック・エンタテインメントのマーチャンダイジング事業を担当するスレッド・ショップ社のフランセス・ウォン副社長

ソニー・ミュージック・エンタテインメントのマーチャンダイジング事業を担当するスレッド・ショップ社のフランセス・ウォン副社長

 あるアーティストのグッズを初めて販売する際、ブラバド社もスレッド・ショップ社も、ポップアップ・ストアを使うことが多い。「私たちは、商品への熱望や切迫感を消費者に感じさせることのできる、流行の発信源となる小売店を選び出します」と、ブラバド社のアメリカ国内営業担当で上級副社長のフランク・バルトロッタは言う。「こうした店舗から生まれる興奮は、すさまじいエネルギーを秘めています。つまり、『この3日間で手に入らなかったんだから、次のチャンスはいつか調べなくっちゃ』 というわけです。そうしたら我々は、より大規模な小売業者で商品を販売するのです」

 こうしたロジックのもと、『スターボーイ』のグッズは去る5月上旬、ニューヨークのパトロン・オブ・ザ・ニュー、ロサンゼルスのフェアファックス・アベニューにあるフォー・トゥー・フォーなど、アメリカ全土の8都市にあるブティックとオンラインショップで3日間限定で販売された。その後、ブラバド社はパクサンでより大規模に販売を展開した。「こうしたグッズの販売にはリアルな“体験”が含まれていないと、すぐに興味を失い、反応が消極的になってしまうんです」とバルトロッタは言う。「文字通り72時間しか存在しない、切羽詰まった“体験”を作り出すことで、ファンは気が気ではいられないと感じ、熱狂的に商品に飛びついてくれるのです」

 大事なのは、ポップアップ・ストアでしか購入できない限定品を必ず用意することだ。バルトロッタは言う。「ニューヨークのポップアップ・ストアに来た子は、ニューヨークの限定品を欲しがる。ロスに来た子は、ロスの限定品を欲しがる。そうしているうちにメイン・コレクションが登場する。もしあなたがロスにいなかったとしても、数週間後にはパクサンでフル・コレクションを手に入れることができるんです」

 ウォンは、さらに一歩先を行っている。それぞれのショップで異なるコレクションを展開しているのだ。「ファンたちに、同じ商品を何度も繰り返し見せるようなことはしたくないから」とウォン。「ファンであれば、まずネットでこれまでに販売されたグッズを購入しますよね。アーバン・アウトフィッターズで新商品を展開すると、それも購入すべくアーバンに行く。そしてコンサート会場ではさらにツアーTシャツも……という具合です」

 加えて、もしオークションに詳しければ、イーベイやグレイルドといったオンラインのマーケットにアクセスして買い逃したアイテムを探すという手もある。結局のところ、誰もがポップアップ・ストアやツアーが開催される都市に住んでいるわけではないのだ。「今は、モノを転売するというカルチャーが、音楽や商取引の世界に大きな影響を与えています」とグレイルドのブランド・ディレクター、ローレンス・シュロスマンは言う。「SNSの世界では、ポップアップ・ストアの行列や、転売によってお金を儲ける人、たくさんの“いいね!”を獲得している人や素敵に見える人が目に入るでしょう。そうしたことによって宣伝のサイクルが循環し、増幅していくのです」

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