ファッション市場を活気づけた新しい限定アイテム。そのブームを仕掛けた2大企業の戦略とファッションリテールの現実

BY VALERIYA SAFRONOVA, PHOTOGRAPHS BY ANDREW WHITE, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 とはいえ、ポップアップ・ストアや限定アイテムは人々の注目を集める重要な要素ではあるものの、実際の“ドル箱”は、より多くの消費者が手頃かつ気軽に買えるアイテムだ。「マス向けの商品を売るためには、プレミアムな商品が必要なのです」とウォンは言う。「5,000ドルのグッチのバッグは気軽に買えない。でも700ドルの財布を買って、ハイブランドが提案するライフスタイルを“疑似体験”することはできるんです」。また、エディテッド社によると、現実にECサイトで最もアクセス数を集めているのは、RUN-DMC、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ラモーンズといったアーティストたち(いずれもブラバド社のクライアント)で、“イマドキ”とは言えない顔ぶれだという。

「こうしたアーティストのグッズが売れるのは、巨大な中間層マーケットがあるからです」とエディテッド社のシニア・アナリスト、ケイティ・スミスは言う。「その顧客たちは、『最新のパブロのTシャツ見た?』といった軽いおしゃべりでは終わりません(パブロとは、カニエ・ウェストの最新作『ザ・ライフ・オブ・パブロ』のこと)。小売の分野では、往年の有名アーティストにはまだまだ大きなビジネスチャンスがある。売れ行きのスピードはそれほど早くはないかもしれませんが、確実に結果を出すことができるのです」

画像: ブラバド社の事務所のショールームで展示されているレディー・ガガのシャツ

ブラバド社の事務所のショールームで展示されているレディー・ガガのシャツ

 ブラバド社のインターナショナル部門のヘッドであるレアード・アダムソンは言う。「コールズのような百貨店で展開しているビジネスは、つねに新しい商品が補充され続け、持続性のあるモデルです。ポップアップ・ストアのような派手さはないが、一日じゅう商品が店頭にあって、販売される量も多い。一方で、毎月違ったイベントを展開する、われわれのような小売業者もあります。たとえばアーバン・アウトフィッターズでは、レディー・ガガのキャンペーンを1ヶ月間やったと思ったら、次はジャスティン・ビーバーを2ヶ月展開して、それっきりです」

 実際のところ、アーティストのオフィシャルグッズはどれも同じように見える。もちろんデザインはさまざまだし、特にフィア・オブ・ゴッドのデザイナーであるジェリー・ロレンゾがジャスティン・ビーバーとコラボしたり、カニエ・ウェストと芸術家ウェス・ラングのコラボレーションとなればもちろん大違いだ。それでも、オフィシャルグッズは“ラグジュアリー”ではなく、ランウェイに影響された最先端のファッションでもない。こうした品々にほかとは違う何かを感じるのは、アーティストの周辺に生まれる“バズ(付加価値)”のおかげだ。これこそが、人々の消費欲を掻き立てるカギだ。

「つねに私が考えているのは、『いかにして店舗に人を呼ぶか?』ということです」とバルトロッタは言う。「ショッピングセンターを見れば、利用者は年々減っていることがわかるでしょう。私たちが提供しているのは、アーティストが駆り立てる“体験”です。“体験”を通じて、小売業を活気づけるんです。こうした手法を取り込まないかぎり、さびれてしまった多くのショッピング・センターのように、私たちのビジネスも廃れてしまうでしょう」

 ブランドの立ち上げに成功した誰もがそうであるように、ヴラシックとウォンにも、それぞれ影響を受けたブランドがあるという。ウォンは「アルマーニとヴァレンティノとプラダ」を挙げる。理由は「ひと目見て、そのブランドだとわかるから。私たちが関わっているアーティストにも同じことが言えます。“キッズ”たちはじつに賢明です。本物でないものは欲しがらないですから」。一方、ヴラシックは『スター・ウォーズ』やディズニーからインスピレーションを受けると言う。「消費者が飽きないかって? そう、だから、何度でも作り変える必要があるんです。新しい方法がないか、何度でも考え直す。『スター・ウォーズ』のグッズは至るところで目にするでしょう。商品を置く場所は、ディスカウントショップのターゲットであろうと高級ブランドのコーチであろうと、ユニクロであろうとかまわない。大事なのは、賢く売ることなのです」

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