BY KATE GUADAGNINO, PHOTOGRAPH BY JENNIFER LIVINGSTON, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)
ローレン・リドロフは、長く上品な指を持って生まれた。ミュージシャンの父親とアーティストである母親はそれを見て、この子は大きくなったらこの手を使って何かクリエイティブな仕事をするのではないかと思ったという。生まれつき耳が不自由だったリドロフは、この春、マーク・メドフが1979年に脚本を書いた舞台『Children of a Lesser God』(映画邦題『愛は静けさの中に』)に出演し、共演のジョシュア・ジャクソンを相手に、その美しい手で手話を操る役を演じた。ろう者の女性と健常者の男性との、波乱に富んだラブストーリーだ。
23年前にギャローデット大学付属高校時代に「オズの魔法使い」のミュージカル『ザ・ウィズ』で主役を務め、昨年の夏、マサチューセッツ州西部のバークシャー郡で今回の舞台のトライアル公演に出たことを除けば、これがリドロフにとって初めての舞台出演となる。初仕事がブロードウェイの主役であることは、彼女の強い存在感の証でもある。「私はヴィオラ・デイヴィスとデンゼル・ワシントンと同じ部屋にいたことがあるが、リドロフには彼らのような特別な“何か”があるよ」と言うのは舞台監督のケニー・レオンだ。
39歳になるリドルフは、シカゴのハイド・パークの近くで育ち、現在はブルックリンのウィリアムズバーグに住んでいる。今回のリバイバル公演で配役される前、彼女は手話の指導係としてレオンに雇われていた。「これは私自身の偏見の表れなんだが……」と監督は言う。「てっきり60代のおとなしそうな白人女性がいるものと思って部屋に入ったら、この若くて美しいマルチレイシャルの(さまざまな人種の血を持つ)女性が、自信に満ちた表情で待っていたんだ」。二人は1年間、毎週1時間のレッスンを行った。そのときリドロフは、4歳と6歳になる息子二人の子育てに専念するために、マンハッタンの小学校で教える仕事を辞めていた。
リドロフは手話通訳を通して、「まず『コーヒー』とか『ジュース』みたいな単純な言葉から始めたの。それから聴覚障がい者のカルチャーや、それをとり上げる上で何が適切かについてケニーに教えた。この脚本にはちょっぴり古さを感じさせる箇所があることも伝えたわ」と語った。「そうしたら、ろう者の俳優にもアドバイスをしてほしいとケニーに頼まれた。それで、私自身が役の候補のひとりになっていたことをまるで知らずに、無邪気にもついて行ったの」