聴覚障がいをもつ女優、ローレン・リドロフ。初の舞台でトニー賞の演劇主演女優賞にノミネートされた『Children of a Lesser God』と、その半生を語る

BY KATE GUADAGNINO, PHOTOGRAPH BY JENNIFER LIVINGSTON, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

画像1: The actress reads the poem “Not” by Anne Michaels. FILMED BY BRENDAN STUMPF

The actress reads the poem “Not” by Anne Michaels.
FILMED BY BRENDAN STUMPF

 台本の最初の読み合わせのときから、その役はまさに彼女のものだった。それ以来、リドロフは教える立場から教わる立場へと変わったが、彼女がすでに豊かな身体表現能力を備えていることは明らかだった。彼女いわく、どちらかといえば、難しかったのは演技ではなく、サラという役柄と共通の感情的真実を見つけることだったという。学校の清掃作業員であるサラは、驚くべきことに、ボーイフレンドに対して自分の声を使わないことにしていた。

「ある日、リハーサルから帰ったら涙が止まらなくなった」と彼女は言う。「まるで自分の中の何かが開いてしまったようだった」。実際、リドロフ自身も13歳のときに、手話のみでコミュニケーションをとるという同様の選択をしていた。自分の声は、自分の知性を反映していないという結論に至ったからだ。「それは私自身を守るための行為だったの」

 リドロフは、耳の聞こえない二人の息子たちと彼らの世代に希望を抱いている。理由のひとつはデジタル革命だ。「今は、誰もがとても視覚中心になったから」と彼女は説明する。また、近年は、ろう者の経験をとり上げた作品も数多く発表されている。2012年には、ニーナ・レインが2010年に書いた『トライブズ』という芝居がオフ・ブロードウェイで上演され、何度も上演期間が延長された。2016年には、ロサンゼルスに拠点をおく劇団「デフ・ウェスト」(「デフ」は「聴覚障がいの」という意味)が上演した『Spring Awakening』がトニー賞で3部門にノミネートされた。

また、耳が聞こえない子供二人が時空を超えてつながるという、トッド・ヘインズの映画『ワンダーストラック』も2017年に公開された。この映画でリドロフは脇役のメイドとして登場している。今回と同じように、当初はコンサルタントとして携わっていたのだが、結局、演じる側になった。「おっと」と、リドロフは笑顔で合図をよこす。そう、もちろん今回の『Children of a Lesser God』も、そうした作品群のひとつに加わることになる。リドロフが言うように、「誰かに自分の声を聴いてもらいたいという欲求は、けっして古くさくなることはないのだから」。

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