ニューヨーク・シティ・バレエの最年少プリンシパルに抜擢されたジョセフ・ゴードン。彼の踊りは、「人生はこれからだ」と謳っているかのようだ。『白鳥の湖』のジークフリート王子役でもそれを表現した

BY GIA KOURLAS, PHOTOGRAPHS BY YUDI ELA FOR THE NEW YORK TIMES, TRANSLATED BY NAOKI MATSUYAMA

 濃い眉毛に覆いかぶさる日に焼けた前髪と、無駄のない水泳選手のような体つき——ジョセフ・ゴードンには、独特の雰囲気がある。ユニタードをウェットスーツに着替えたら、ロッカウェイ・ビーチのボードウォークにある「リッパーズ」でくつろぐ、サーファーのひとりだったとしてもおかしくない。でも、バレエを見に行くとそこに彼がいる。王子だ。

画像: JOSEPH GORDON(ジョゼフ・ゴードン) 「若い時は、自分の行動の影響を考えたりしません。ただやるだけです」

JOSEPH GORDON(ジョゼフ・ゴードン)
「若い時は、自分の行動の影響を考えたりしません。ただやるだけです」

 ゴードンは、13歳の頃からサーフボードには乗っていないが、その話が出たとたんに顔が輝いた。母親が熱心なサーファーだったのだ。「海は大好きです。バレエも、どこか水のように感じるところがあります」
 彼は、水のなかを動いているかのように踊る。27歳のゴードンは、ニューヨーク・シティ・バレエの最年少プリンシパルであり、ウィンターシーズンの一環として2月に上演された『白鳥の湖』で、ジークフリート王子役を踊ってリンカーン・センターの舞台にデビューした。「王子をもっと自分自身のように若々しく演じたいと思っていました。僕には「人生はこれから」といった感覚があるんです。若い時は、自分の行動の影響を考えたりしません。ただやるだけです」

 ゴードンは、あたかも何でもできてしまいそうな、稀有なタイプのダンサーだ。まずサイズが適している。180cm近くの身長は、さまざまなバレリーナとの共演を可能にする。ジークフリートのような伝統的な役も演じられるが、そのバランス感覚と運動神経で、「less is more(より少なきことは、より豊かなこと)」を美学とする、ジョージ・バランシンの新古典派バレエやジェローム・ロビンスの作品もなんなくこなす。

 彼が演じると、想像上の人物もどこか現代的な空気をまとう。昨年春の、バランシンが振り付けた『真夏の夜の夢』のオベロン役の演技は、まぶしいほどに洗練されていた。ゴードンの踊りは、自然体でありながら気品がある。上品ではあるが、決して古風にはならない。

 自身もプリンシパルを務め、ニューヨーク・シティ・バレエ付属のスクール・オブ・アメリカン・バレエに共に通っていた10代の頃からゴードンを知るローレン・ラヴェットは、「おかっぱ頭の小さな男の子でした」と、14歳の頃のゴードンがとても小柄だったことを思い返す。彼女はさらに、「とても内気でした」ともつけ加えた。「別にダンサーとしてダメだと思っていたわけではないんですが、幼いなと思ったのは覚えています。みんなから“リトル・ジョー”、小さなジョーと呼ばれていたぐらいですから」

 しかし、ラヴェットも今ではゴードンの才能に気付かされていると語る。「私も含めてみんなが彼のことを過小評価していたと思います。ジョゼフは、とても静かに大変な努力を重ねてきました。突然現れたダークホースのようです。彼は、今まさに開花しています」

画像: ニューヨーク・シティ・バレエ芸術監督のジョナサン・スタッフォードは、ゴードンの踊りを「落ち着いて、澄んでいる」と表現する

ニューヨーク・シティ・バレエ芸術監督のジョナサン・スタッフォードは、ゴードンの踊りを「落ち着いて、澄んでいる」と表現する

 ゴードンは天性のダンサーかもしれない。バレエ団の芸術監督ジョナサン・スタッフォードが言うように、彼の踊りは「とても落ち着いて、澄んでいる」。しかし、彼の幼少期は恵まれたものではなかった。アリゾナ州フェニックスで一人っ子として育った彼は、早くから自立しなければならなかった。9歳の誕生日の一週間前に父親が他界したのだ。
「家族全体がズタズタになりました。母も、それ以降別人のようになってしまいました。鬱っぽくなり、薬物に手を染めてしまったのです。そのせいで、精神的にも不安定になりました。母親としてふるまう時期もあれば、突然いなくなってしまう時もありました」

 

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