ニューヨーク・シティ・バレエの最年少プリンシパルに抜擢されたジョセフ・ゴードン。彼の踊りは、「人生はこれからだ」と謳っているかのようだ。『白鳥の湖』のジークフリート王子役でもそれを表現した

BY GIA KOURLAS, PHOTOGRAPHS BY YUDI ELA FOR THE NEW YORK TIMES, TRANSLATED BY NAOKI MATSUYAMA

 ゴードンは、マーティンスが芸術監督だったら、これほど早くプリンシパルの座を手にすることはできなかったかもしれないと考えている。「彼は、僕を会議に引っ張りだして、僕が自分の可能性を十分に発揮できていない、と言いました。それは、僕にとって本当につらいことでした。人にはよく『他人のことは気にするな』と言われましたが、他の同僚と比べて、僕は『何を言ってるんだ。気になるにきまってるじゃないか』と思っていました」

画像: 「『どこで踊りたいの?』と何回も聞かれました」。彼の答えは、ニューヨーク・シティ・バレエだった

「『どこで踊りたいの?』と何回も聞かれました」。彼の答えは、ニューヨーク・シティ・バレエだった

 しかし、振り返ってみると、マーティンスが正しかったのだとゴードンは言う。「彼は『君はめちゃくちゃだ』と言っていたわけではないんです。ただ『君が完全に仕事に打ち込んでいるようには見えない』と言いたかったんだと思います。それは、簡単なことではありません。突然学生からプロになるわけですが、若いのでやはり夜遊びもしたいし、楽しいこともしたい。彼は、『君は自分が何を求めているのか、それを選ばなければならない。私も君と同じように選択をしなければならなかった。このキャリアが君の求めているものならば、それを与えよう』と僕に言ってくれていたんだと思います」

 その後、ゴードンはより真剣に踊りに打ち込むようになり、主役の座を得るようになった。現在は恋人で、同じくプリンシパルでもあるエイドリアン・ダンチヒ=ウォリングとの関係も深めた。膝に怪我を負ったが、復帰するやいなやソリストに指名された。「復帰が早すぎたかもしれませんが、ピーター(マーティンス)に粘り強さを見せることができたので、後悔はしていません。僕は『眠れる森の美女』に出演し、その4カ月後に彼は去っていきました」

 マーティンスが引退した時は、さまざまな思いが胸をよぎった。「ピーターの存在はかなり大きなプレッシャーでした。見てくれていない、と強く感じることもありました。笑いかけてくれないと、それだけで打ちひしがれて辛い気持ちになる。ただ、彼がいると本当にダンスが上達するんです」。

 とはいえ、バレエ団の新しい方向性はゴードンにとっても利点がある。特に、バランシンやロビンスと実際に仕事をしたことがある元ダンサーをコーチとして迎え入れるという動きがそうだろう。「僕たちは、バランシンやロビンスと直接働いたことがある人と触れ合うことができる最後の世代です。だから、できるだけ多くの情報を得ることが重要です」

 新しい体制になってからの修正の多くは、音楽性やカウントに関係している。「それによって、さまざまな要素の関係性が変わって、全体像が純化されたかのように、突然はっきりとするんです。全体を高めてくれます」とゴードンは言う。
 その感覚は、舞台上で踊るときの気持ちにつながる。ゴードンは常に舞台で踊ることで解放感を得てきた。「この仕事では、厳しい努力をしなければなりません。とても過酷に感じる時もありますし、細かいことに引っかかって前に進めなくなる時もある。自分のやりたいようにできるのは、舞台上だけです。誰にも、やめろと言えない。誰にも、あれはまずかったと言えない。自分の時間なんです」

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