BY MARI SHIMIZU
限られた条件の中で少しずつ世界が広がりゆく中、8月の歌舞伎座では『加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)』で六役を早替りで演じる。
「伯父(猿翁)が古くからある狂言に早替りを取り入れて“復活通し狂言”としてつくり上げた作品です。“通し”とあるように本来は芝居としてたっぷり見せる部分もある長い物語なのですが、コロナ禍の今、それはまだ難しい状況です。ですので、早替りを楽しんでいただくことに重点をおき、今回は“岩藤怪異篇”としてお届けします」

© SHOCHIKU
お家騒動を背景とする物語で善悪、男女、亡霊まで、猿之助さんが演じるキャラクターは実にさまざま。ビジュアルの違いに加えて、立場によって異なる人物の特性や内面に注目して楽しみたい。
「一年前を思えば、本当に少しずつではありますが大がかりなこともできるようになってきました。ただ大がかりなことをすればそれだけコストがかかります。客席は依然として50パーセントですから、満席になったところで公演を主催する松竹の経営が苦しいことに変わりありません。だからといってコストを抑えることだけに重点を置いていたのでは、歌舞伎の面白さは伝わらない。劇場においでくださいとは言いにくい状況が続く中、せめていらしてくださった方々に満足していただけるものをお見せしなければ」

『加賀見山再岩藤』岩藤の霊=市川猿之助
© SHOCHIKU
赤字覚悟の使命感などと“きれいごと”を言っている場合ではない、と語る。
「我々役者は自分の演じる役や作品のことだけでなく、松竹という会社の経営を立て直すために何ができるかを真剣に考え、取り組んでいかなければならない時期に来ています。昨年8月に歌舞伎座が再開した時、自分は第三部に出演しましたが、舞台に立つことがかなわなかった役者仲間からも再開を喜ぶメールやLINEがたくさん届きました。並行していくつもの公演の準備が進められていたコロナ前は、そんな余裕はありませんでした。それぞれが自分の目の前に迫った舞台でいっぱいでしたから。歌舞伎に携わる人々の支え合う仲間意識、絆は深まっています。そこでどう団結し何ができるか……。視野を広げて柔軟に考え、対応していかなければなりません。そこに生き残りの鍵があり、それは世間一般の方々にも通じることなのではないでしょうか」
七月大歌舞伎
第一部 あんまと泥棒
蜘蛛の絲宿直噺
第二部 新古演劇十種の内 身替座禅(みがわりざぜん)
御存鈴ヶ森(ごぞんじすずがもり)
上演期間:2021年7月4日(日)~29日(木)
第一部 11:00~
第二部 14:30~
休演日:8日(木)、19日(月)
第三部 雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)
上演期間:2021年7月4日(日)~16日(金)
第三部 17:40~
休演日:8日(木)
八月花形歌舞伎
第一部 加賀見山再岩藤
第二部 真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)
仇ゆめ(あだゆめ)
第三部 源平布引滝 義賢最期(よしかたさいご)
伊達競曲輪鞘當(だてくらべくるわのさやあて)
三社祭(さんじゃまつり)
上演期間:2021年8月3日(火)~28日(土)
第一部 11:00~
第二部 14:30~
第三部 18:00~
休演日:10日(火)、19日(木)
会場:歌舞伎座
住所:東京都中央区銀座4-12-15
料金:1等席¥15,000、2等席¥11,000、3階A席¥5,000、3階B席¥3,000、1階 桟敷席¥16,000
※ 客席は、前後左右を空けた席配置及び2席並びの席となります
※ 4階幕見席の販売はなし
公式サイト
<チケットの購入は下記から>
電話: 0570-000-489(チケットホン松竹)
チケットWEB松竹