一音一音にさまざまな感情をこめ、物語を紡ぎ、豊かな色彩を描くように表現していく──。チェロ奏者・宮田大が奏でるものは何か? 国内外で話題の奏者に肉薄するインタビュー

BY MAKIKO HARAGA, PHOTOGRAPH BY YASUYUKI TAKAGI

 チェロは、人間の声にもっとも近い楽器だといわれる。より高い音域をもつバイオリンには、たくさんの音を華やかに弾く曲が多いが、チェロには音数の少ない旋律を朗々と歌いあげるような曲が多い。だからこそ、「どれくらい感情的に弾けているかが見えてしまうんです」と、ソリストとして国際的に活躍するチェロ奏者の宮田大は言う。

画像: 宮田大(みやた・だい) これまでに国内外で参加したすべてのコンクールで優勝を果たし、その圧倒的な演奏は小澤征爾をはじめ多くの指揮者から絶賛され、作曲家や共演者からの支持も厚い。使用している楽器は、上野製薬株式会社より貸与された1698年製のA.ストラディヴァリウス“Cholmondeley”

宮田大(みやた・だい)
これまでに国内外で参加したすべてのコンクールで優勝を果たし、その圧倒的な演奏は小澤征爾をはじめ多くの指揮者から絶賛され、作曲家や共演者からの支持も厚い。使用している楽器は、上野製薬株式会社より貸与された1698年製のA.ストラディヴァリウス“Cholmondeley”

 たとえば、サン=サーンスの『白鳥』。あまりにも有名でシンプルの極みのような曲であるがゆえに、「いかに多くの引き出し(ボキャブラリー)をもっているかが問われ、難しいのです」と言う。宮田の言うそれは言葉ではなく、イメージであり、五感を使って感じとるものだ。「白鳥が水面におりてくるところなのか、草むらで眠っているのか、白い体に夕日があたって少しオレンジ色に染まって見えるのか。思い浮かべるシーンによって、テンポや感情が変わってくるんです」

 感情が高ぶって音程が不安定になってしまうのは、自己表現のひとつ──。かつて宮田は留学先のドイツで師事したフランス・ヘルメルソンにそう言われ、音楽は“つくる”のではなく、そのときに感じたものを表現する一期一会の芸術であると、開眼した。今も胸に刻む、師匠のこの言葉に力をもらい、彼は2009年のロストロポーヴィチ国際チェロコンクールで、日本人として初めて1 位に輝いた。

 チェロの魅力を伝えるために、宮田はジャンルを超え、ギターやバンドネオンなどさまざまな奏者と精力的に共演している。文楽とのコラボレーションでは人間国宝・桐竹勘十郎が操る人形が演じるのに合わせて、太棹三味線を鳴らすかのように、太夫が語るかのように、黛敏郎作曲のチェロ独奏曲『Bunraku』を奏でた。また、津軽三味線の上妻宏光との共演を通じ、「一音入魂」を意識したという。「抒情的な西洋音楽においても、自分は常に、次から次にやってくる音を感じとることを心がけてきました」。すべての音に魂をこめる──。ずっと大切にしてきたことを再確認したという。

 オーケストラとの共演では、「耳をダンボにして」たくさんの音を感じとる。誰よりもほかの楽器との音の絡みをたくさん勉強し、自分の音楽を主張しつつも「押しつけがましい演奏」にならないように心を配る。「主張の中に余白をつくらないと自分勝手な演奏になり、音楽が釣り合わない。“私の演奏”という感じで演奏するソリストほど、実はいろいろな音を聴き、感情をキャッチしているんです」

宮田大がチェロで描く、音楽表現とは?

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