巨匠アキ・カウリスマキの監督復帰作として話題の映画『枯れ葉』で、観るものの心を動かす演技で魅力的な主人公を演じているアルマ・ポウスティが来日。スペシャルインタビューが実現し、今作でのカウリスマキ監督との交流を語った

BY REIKO KUBO

 2017年、フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキは『希望のかなた』を最後に監督引退を表明した。しかし昨年から続く戦争によって、誰もがやりきれない思いを抱えた1年の最後に、カウリスマキ・サンタが最高の贈り物を届けてくれた。今年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した珠玉作 『枯れ葉』は、ヘルシンキの街のカラオケで出会った男女が、互いに惹かれ合いながらも、すれ違いを繰り返すラブストーリーだ。カウリスマキ好みの赤や青を効かせたスクリーンから溢れ出す映画と音楽(日本の「竹田の子守唄」も!)への愛、人恋しさ、そしてささやかな希望。カウリスマキならではのメランコリックなユーモアにくすぐられ、キュンとさせられる。そんな81分間の歓びを噛み締める観客に、帰ってきた監督カウリスマキはヒロインを通してウィンクを送ってみせる。

画像: アルマ・ポウスティ 1981年生まれ。北欧諸国の多くの有名な舞台に立つほか映像作品にも出演し幅広く活動。2020年『TOVE/トーベ』で主演を演じ映画俳優としてブレーク、この役でフィンランドのアカデミー賞にあたるユッシ賞で主演女優賞を獲得。2023年ヨーテボリ映画祭で主演女優賞を受賞した映画『4人の小さな大人たち』など数々の北欧の映画やTVドラマに出演 画像提供:ユーロスペース

アルマ・ポウスティ
1981年生まれ。北欧諸国の多くの有名な舞台に立つほか映像作品にも出演し幅広く活動。2020年『TOVE/トーベ』で主演を演じ映画俳優としてブレーク、この役でフィンランドのアカデミー賞にあたるユッシ賞で主演女優賞を獲得。2023年ヨーテボリ映画祭で主演女優賞を受賞した映画『4人の小さな大人たち』など数々の北欧の映画やTVドラマに出演

画像提供:ユーロスペース

 本作でヒロインのアンサを演じたのは、2020年にムーミンの原作者を演じた『TOVE/トーベ』 でユッシ賞(フィンランドのアカデミー賞)を受賞したアルマ・ポウスティ。映画の中のアンサは無口だが、ポウスティは終始チャーミングな笑顔で主演作について朗らかに語ってくれた。

──カウリスマキ監督はいつも1人でキャスティングをされると聞いていますが、監督は『TOVE/トーベ』 のあなたをご覧になってアンサ役をオファーされたのですか。

アルマ・ポウスティ(以下、ポウスティ) もちろんアキの映画はずっと観てきて、独特のユーモア、人間味、常に人と人の関係に光を当てる素晴らしいone and onlyな巨匠だと思ってきました。ある日、彼から電話がかかってきてランチに誘われ、彼が私に役をオファーするなんて思ってもみないことだったので本当にびっくりして。それに6年前に彼は引退宣言をしていたので、大いに驚きながら出かけて行きました。食事をしながらたくさん話をして、こういう企画があるんだけどどうか、と。ホラッパ役のユッシ・ヴァタネンも一緒だったのですが、2人して出ますと即答したものの、これは夢なの!?と不思議な気持ちでした。他の人から、『TOVE/トーベ』とユッシの出演作を見て、アキがこの2人をマッチングしたら面白いんじゃないかなと言ったと聞きましたが、ランチの時、彼はそんなことは何も言わず、「出てみないか」と言っただけでした。何しろ彼はとてもミステリアスな人なのでね(笑)

──ランチの席で、カウリスマキ監督が引退宣言を撤回するわけを聞きましたか。

ポウスティ いいえ。でも彼はずっと映画と生きてきた人なので、少し休みたくなったんだと思います。休んでいる間に新しいインスピレーションが湧いてきて、映画を作る楽しさや歓びが蘇り、意欲が再燃したのでしょう。実際、撮影中の彼は本当に夢中で、楽しそうでした。彼は、戦争が始まり、世界は愛にあふれた映画を求めていると言っていました。私自身も本当にそう思います。いったい戦争って何なのか。なぜまた繰り返すのか。どうしたら世界はもっと良い方向へ行けるのかと考え続けていました。芸術、アートの役割は、人に思いやりを表明し、希望を与えることだと思うのです。

──愛の物語を演じるアンサとホラッパ、あなたとユッシ・ヴァタネンのコンビネーションは、カウリスマキ監督の閃き通り、魅力的でしたね。

ポウスティ これまでユッシと共演したことは一度もなかったんですが、彼の出演作はずっと観てきて、幅広い演技ができる人だとわかっていました。エゴイスティックなところがなく、ストレートでとても正直な本当に素晴らしい俳優です。互いに探り合う必要もなく、すぐに打ち解けて、良いケミストリーが生まれたと思います。

画像: ホラッパ(ユッシ・ヴァタネン、右)は、アンサ(アルマ・ポウスティ、左)をジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画に誘う。アンサは「これまで観た映画でいちばん笑った」と。惹かれ合う二人は映画の趣味も合う様子 © Sputnik Photo: Malla Hukkanen

ホラッパ(ユッシ・ヴァタネン、右)は、アンサ(アルマ・ポウスティ、左)をジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画に誘う。アンサは「これまで観た映画でいちばん笑った」と。惹かれ合う二人は映画の趣味も合う様子

© Sputnik Photo: Malla Hukkanen

──『枯れ葉』は、『パラダイスの夕暮れ』(1986年)、『真夜中の虹』(1988年)、『マッチ工場の少女』(1990年)に連なる作品ですが、前3作から年月が経ち、最後に観客に向かってウィンクするアンサはより意志的な女性として描かれている気がしました。それはもともと脚本に書かれていたものか、それとも演じたあなたからもたらされたものでしょうか。

ポウスティ アキは女性に比べ、男性はダメだといつも言っていて、そんな彼の映画の中の女性は昔から芯が強く、しっかり団結できる人物だったと思います。アンサは不当な低賃金で働かされていても常に誇りと自信を持っていて、とても面白い隠れた魅力を秘めている。それに人を見る超人的な力があると思います。アンサとホラッパの出会いは運命的ですが、それでも本当に恋に落ちたという意味で、彼女には人の本質を見る力があったのだと思います。ウィンクはもともと脚本にはなかったもので、現場でアキから「やってほしい」と言われたんです。

──アンサが低賃金で働いていることをはじめ、映画にはカウリスマキ監督が憂う問題が描きこまれています。ラジオからはウクライナ侵攻のニュースが流れ、アンサもホラッパも無慈悲に職を奪われます。しんしんと降り積もる孤独が『枯れ葉』のラブストーリーを強いものにしていると思います。

ポウスティ この物語は81分間のおとぎ話です。この81分の間、世界はほんのちょっとだけより安全で温かい場所なる。おとぎ話ではあるけれど、例えば人間も犬も食べ物も期限切れになったらポイと捨てられてしまうといった厳しい現実も描かれています。単に甘い物語ではなく、むしろ苦味のあるラブストーリーです。でもそれらは正直に向き合うべき時代の問題であって、アキという監督は常に小さき者の味方です。成功はお金や名声だけで測れるものではなく、本質的な価値を見極めるのが大事だと物語っているのです。

──映画には、小津、チャップリン、ブレッソン、ゴダール、ジャームッシュら、カウリスマキ監督が愛する映画監督の名前や作品が様々な形で登場しますが、ゴダールの訃報が届いたのは撮影中だったと聞いています。その日の撮影は、どういう空気の中で行われたのでしょうか。

ポウスティ ゴダールのニュースが飛び込んできたのは、アンサたちが映画『デッド・ドント・ダイ』を見に行くシーンを撮影する前日だったと思います。確かに撮影がしばらく止まってしまうような感じがあったと記憶しています。映画館の入り口に貼られたゴダールの『気狂いピエロ』のポスターにはアキの追悼の意が込められています。

──カウリスマキ監督は、かつてカティ・オウティネンら、常連俳優と何本も映画を撮っていますが、あなたとの間でも次回作の話が交わされたりしていますか。

ポウスティ スラップスティックというか、ドタバタ喜劇的な映画をユッシと私とでやったらどうかなんて言っていましたが、アキのことだからどこまで本気なのかわかりません。本当に彼はミステリアスな人なので(笑)。でも実現したら楽しいなと思うし、本当に実現するかもしれませんね。楽しみに待っていてください!

画像: アキ・カウリスマキ 1983年に初長編監督作品『罪と罰』を発表。86年には『パラダイスの夕暮れ』がカンヌ映画祭監督週間をはじめ各国の映画祭に招待され、世界の映画人の注目を集める。日本では90年に『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』で注目されて以降、全ての監督作が公開されてきた © Sputnik

アキ・カウリスマキ
1983年に初長編監督作品『罪と罰』を発表。86年には『パラダイスの夕暮れ』がカンヌ映画祭監督週間をはじめ各国の映画祭に招待され、世界の映画人の注目を集める。日本では90年に『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』で注目されて以降、全ての監督作が公開されてきた

© Sputnik 

画像: アキ・カウリスマキ監督『枯れ葉』予告編 © SPUTNIK OY 2023 youtu.be

アキ・カウリスマキ監督『枯れ葉』予告編 © SPUTNIK OY 2023

youtu.be

『枯れ葉』
12月15日(金)よりユーロスペースほか全国ロードショー
公式サイトはこちら

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.