日米精鋭のキャストとスタッフ陣による大作ドラマシリーズ『TOKYO VICE』の待望のSeason2が放送・配信される。中心人物の一人である刑事、片桐を演じるのは渡辺謙。ハリウッド進出から20年来となる彼が、クリエイティブな本作の現場について語る

BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA

画像1: 日米共同制作の大ヒットドラマで
渡辺 謙が更なる魅力を発揮——。
90年代の東京から見えた世界とは?

出会いから生まれた宝物

 今や日本を代表する俳優の一人として活躍する渡辺謙は、昨年、テレビデビュー40周年を迎えた。彼がまっすぐ突き進んできた俳優人生にはテレビドラマだけでなく、2003年の『ラストサムライ』での初の海外進出や舞台『The King and I 王様と私』で主演を務めるなど、努力や葛藤をしながら築き上げてきた輝かしい実績がある。その華やかな経歴の中から、“アレがあったからこそ今があると思える出来事を挙げるとしたら?”という問いに、率直に答えてくれた。

渡辺謙(以下、渡辺) いろんなことがリンクしているのだと思います。『TOKYO VICE』のオリジナルのシナリオを書いた脚本家のJ.T.ロジャース(以下J.T.)を紹介してくれたのは『The King and I 王様と私』の演出家・パートレット・シャーでした。その出会いから始まったことですが、それが自然と繋がっていく。他にも、クリストファー・ノーラン監督とは『バットマン ビギンズ』がきっかけとなってその後も『インセプション』に出演することになりましたし、ギャレス・エドワーズ監督とは『GODZILLAゴジラ』でご一緒して『ザ・クリエイター/創造者』にも出演させていただきました。こうして重ねてきたキャリアの中で僕が良かったと思うのは、現場を共にした仲間が、他の現場で再会した時に僕を覚えていてくれることです。それは、僕という人物や僕の作品へのアプローチの仕方などを把握し、理解してくれている人が増えるということ。それが僕にとって一番の財産だと思います。

画像2: 日米共同制作の大ヒットドラマで
渡辺 謙が更なる魅力を発揮——。
90年代の東京から見えた世界とは?

日本語と英語の絶妙な会話

 J.T.との“出会い”がきっかけとなった『TOKYO VICE』では、渡辺の新たな才能が生かされる。渡辺は俳優として役を演じるだけではなく、エグゼクティブ・プロデューサーとして企画の立ち上げにも携わったのだ。

渡辺 エグゼクティブ・プロデューサーとしての基本的な仕事は日本語と英語のリズムが全然違うので、台詞に関して英語の脚本から翻訳された日本語の台詞をチェックすることでした。例えばジャーナリストの言葉、ヤクザの言葉、警察の言葉がそれぞれあって、ジェネレーションによっても使う言葉があります。さらにJ.T.の脚本にはアメリカらしいジョークが多いので、それをどのようにして日本語のジョークに変換するのかも考えます。
 例えば、新聞記者のジェイクと僕が演じる刑事の片桐が会話するときは、日本語と英語が混ざるんですが、英語を話すジェイクのときは字幕が出て、僕が日本語で話すと字幕は消えます。字幕が消える、出る、消える、出るが繰り返されると、観ている人が誰の台詞の字幕なのかと混乱してしまいます。場面によっては僕が深い心情を語るときは日本語にしたいと思いますし、ジェイクの心境として英語にしたい台詞もあります。そのバランスを考えて進めていきました。
 そういう意味でも、1から10話まで、自分が出ていない場面でも、頭の中でずっと台詞が回っているような感じでしたね。夜中に寝ているときに「今撮影していますが、この台詞はこれでいいですか?」という問合せの電話がかかってきて、「ちょっと待ってね」といって、その場で脚本を開いて速攻で対応しなければいけないこともありました(笑)。ハリウッド資本のドラマで10本ある作品は初めてだったので、映画に比べると大きなエピソードで括れます。物語が進んでいくといろんなことが折り重なっていって、結構深くて絡み合うような感覚があるのを楽しめることが多々ありました。

 この『TOKYO VICE』は1990年代の東京を舞台に、登場する人物たちが繰り広げるスリリングなストーリー展開やハリウッドの最高スタッフが創り上げるこの上ないクオリティの映像などで、多くの視聴者を魅了した。Season1は世界約120か国で放送・配信されるほど大ヒットした。

画像3: 日米共同制作の大ヒットドラマで
渡辺 謙が更なる魅力を発揮——。
90年代の東京から見えた世界とは?

海外で俳優を演じることの試練

 主人公で、留学先の日本で卒業後に大手新聞社に就職したアメリカ人の青年・ジェイクを演じるのは、スティーブン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』の主役に抜擢されたアンセル・エルゴート(以下アンセル)。渡辺謙が演じるヤクザ絡みの事件を手がけてきた刑事の片桐が、特ダネを追い求めるうちに闇の社会へと入り込んでいくジェイクと出会い、物語は繰り広げられていく。アンセルが日本での撮影で日本語の台詞にも挑んでいる姿を目にした時、渡辺が海外作品に出演した時の自分に重ねるようなことはなかったのだろうか?

渡辺 アンセルが演じる新聞記者は日本に順応しているキャラクターだったので、彼には日本の文化や習慣を学ぼうとする姿勢が強くありました。逆に、僕は日本人として外国に行き、演じる役は大概が日本人の役なので、僕自身のアイデンティティーやマインドみたいなものをその役にどう生かせるのかということに注力していました。ですから、僕が聞き慣れた英語をしゃべるよりも、日本語を一から勉強した彼のほうが、数百倍大変だったのかなと思います。Season2では“もっと日本語で会話をしたい”という彼の思いもあって、“過失致死”とか日本人でも難しい警察用語などに日本語の先生から教わりながら頑張ってトライしています。そんなアンセルも私生活でいえば、可愛い弟分という感じの存在ですね。素の彼は結構やんちゃな面もあって、ピンク色のパーカーを着て、六本木の街で自転車を乗り回していたこともありました(笑)。

 ドラマのジェイクからはイメージできないアンセルの一面にも触れてくれた。

創り上げた世界観を楽しむ

 本作は全編を日本でロケをしていることで話題になったが、Season2ではどのような光景を目にすることになるのだろうか?

渡辺 Season1は東京で撮影することに高いハードルがありました。でも、描かれるのは90年代なので、単純に今の東京の風景を撮ればいいという訳でもないんです。建物も街の変化もありますので、それなりの苦労はありました。それに比べるとSeason2はかなり門が広がったかなという感じがあって、都庁前で銃撃戦をやらせてもらえるなど、協力的に対応していただいたと思います。
 90年代となると今とは違うということも含めていえば、日本でも僕らが見たこともない風景や風俗みたいなものが映し出されるからこそ『TOKYO VICE』だと僕は思っています。“もしかしたら、こんな東京があるのかもしれない”という良いフィルターがかかるのは、ドラマの特色としては良いことだと思うんです。90年代って、近いようで実はすごく遠い昔なんですよ。街の風景だけでなく、コスチュームや髪型も今とは違うものを探してこなければならないのは、スタッフが大変頑張ったと思います。
 映画の『SAYURI』を撮った時にも、“京都の街並みとは違う”とか、“コスチュームを引きずったまま歩くのはおかしい”とかいう指摘がありましたが、あの映画はロブ・マーシャルの世界観を楽しむものだと僕は思います。こういう但し書き自体必要でもなく、そういう許容力で作品を見ていただけたらと思います。

 今回のインタビューも別の作品の撮影の合間に行われた。前日には演技する役のために観劇もしていたと渡辺は語る。そんな彼が仕事ではなく、自分のために過ごす時間には何をするのだろうか。

渡辺 ただ、ぼーっとしている時かな。何かをしなきゃと一切思わずに気がついたら夕方になっている。そういう日が僕にとって、何物にも代えがたいですね。

画像: 渡辺謙(WATANABE KEN) 新潟県生まれ。1984年の『瀬戸内少年野球団』で映画デビューし、NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』(87)の主演で注目を集める。2005年製作「明日の記憶」と2009年製作「沈まぬ太陽」で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞、2019年製作「Fukushima 50」で最優秀助演男優賞を獲得した。2003年の「ラスト サムライ」ではアカデミー賞、ゴールデングローブ賞、放送映画批評家協会賞の助演男優賞にノミネートされ、「インセプション」「GODZILLA ゴジラ」「名探偵ピカチュウ」「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」といった海外作品に出演。2023年はギャレス・エドワーズ監督作「ザ・クリエイター/創造者」でハルン役を務めた。

渡辺謙(WATANABE KEN)
新潟県生まれ。1984年の『瀬戸内少年野球団』で映画デビューし、NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』(87)の主演で注目を集める。2005年製作「明日の記憶」と2009年製作「沈まぬ太陽」で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞、2019年製作「Fukushima 50」で最優秀助演男優賞を獲得した。2003年の「ラスト サムライ」ではアカデミー賞、ゴールデングローブ賞、放送映画批評家協会賞の助演男優賞にノミネートされ、「インセプション」「GODZILLA ゴジラ」「名探偵ピカチュウ」「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」といった海外作品に出演。2023年はギャレス・エドワーズ監督作「ザ・クリエイター/創造者」でハルン役を務めた。

STYLED BY JB, HAIR & MAKEUP BY MASAKI KURATA(ENFLEURAGE)
衣装協力:BRUNELLO CUCINELLI

画像4: 日米共同制作の大ヒットドラマで
渡辺 謙が更なる魅力を発揮——。
90年代の東京から見えた世界とは?

ハリウッド共同制作オリジナルドラマ
TOKYO VICE Season2
WOWOWにて4月6日スタート
毎週土曜午後9時放送・配信(全10話)〈第1話無料放送〉
※WOWOWオンデマンドにて、Season1全8話を配信中)
公式サイトはこちら
公式Instagram

(出演)
アンセル・エルゴート、渡辺謙、レイチェル・ケラー、菊地凛子、笠松将、窪塚洋介、真矢ミキほか
(監督)
アラン・プール、ジョセフ・クボタ・ラディカ、福永壮志、エヴァ・ソーハウグ

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