『ドライブ・マイ・カー』以来3年ぶりの待望の新作『悪は存在しない』に注目が集まる濱口竜介。唯一無二の世界観でつねに観る者の心の奥深くに問いかける監督が、今作のユニークな制作意図について語る

BY REIKO KUBO

画像1: 濱口竜介監督が語る、注目の最新作
『悪は存在しない』の制作過程

『偶然と想像』が第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞。『ドライブ・マイ・カー』が第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞に輝き、第94回アカデミー賞では作品賞など4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞と、作品発表のたびに国際的な評価を集める濱口竜介監督。そんな彼の最新作『悪は存在しない』は、非常に独特な制作過程を辿った作品だ。

「『ドライブ・マイ・カー』でお仕事させていただいた音楽家の石橋英子さんから、ライブパフォーマンス用のサイレント映像を作ってほしいというご依頼を頂いたのが発端で。試しに石橋さんの音楽に既存の映像を繋いだものを作ってみたことがあったんですが、石橋さんから「濱口さんが普通にやった方が面白いと思う」と言っていただいて。石橋さんの音楽と拮抗するためには、いつもと同様に脚本を描き、ちゃんと演出しなければならないだろうと思い、そこから使える映像を編集してライブ用にするという遠回りなプロセスになりました。映画の方は、役者たちの声もまた素晴らしかったので、石橋さんに『声のあるバージョンも完成させたい』と申し出たんです」

 石橋の音楽と対峙しながらも響き合う物語を書くため、彼女の音楽スタジオがある山梨の野山を歩き、土地の人々に話を聞いて回ったという。そうして石橋のライブパフォーマンス用のサイレント映像である『GIFT』とともに、第80回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(審査委員グランプリ)に輝いた映画『悪は存在しない』が生まれた。

画像: ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した際の濱口監督(右)。左は主演の大美賀均 © 2023 NEOPA / Fictive

ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した際の濱口監督(右)。左は主演の大美賀均

© 2023 NEOPA / Fictive

画像: 『悪は存在しない』で花を演じた西川玲。10歳にして映画初出演となる © 2023 NEOPA / Fictive

『悪は存在しない』で花を演じた西川玲。10歳にして映画初出演となる

© 2023 NEOPA / Fictive

 映画の舞台は、長野と山梨の県境にある水挽町。代々この地で暮らす巧(大美賀均)と娘の花(西川玲)父娘は自然豊かな土地に抱かれ、都会からの移住者とも穏やかに共存して暮らしていた。ところが東京の芸能事務所がコロナ禍の補助金を元手に、この地でグランピング場建設を計画し、説明会のためにやってくる。

「特に時代の風潮や社会的要素を意識して脚本を書いたわけではありません。自分の映画制作の場合でいうと、そんなに大きな予算があるわけではないので、基本的に自分たちがいま生きている時代のいまそこにあるもの、そこにある人を撮れたら、その分だけコストの面で助かるし、自分たちの規模でも力強いものを作ることができると思っています。その時、自分が感じていることや体の感覚が作品に入ってくるのが自然だということでしょうね」

画像: 観る者を物語の世界の奥深くへといざなう映像も見逃せない © 2023 NEOPA / Fictive

観る者を物語の世界の奥深くへといざなう映像も見逃せない

© 2023 NEOPA / Fictive

 都会からの訪問者は、川の水を汲み、薪を割って生きる巧と花の暮らしに何をもたらすのか──悪は存在しないとは?手負いの鹿とは?静謐でスリリングな物語の神秘的なラストの瞬間から、さまざまな問いかけが湧き上がる。

「映画には、グランピング場計画説明会の場面もあり、巧は核心を突く言葉づかいをするけれど、口数は少ない。他の住民とも最低限のコミュニケーションが取れている程度で、彼自身はどちらかというと、人よりも自然と対話して生きているタイプの人間で、花も含めて自然と近しい親子なんだと。ラストの二人というのは、人間と自然の境界線にいるのではないかとだけ言っておきましょうか。それ以上はわかりません。必ずしも自分ですべて言語化して映画を撮っているわけではないですからね(笑)」

濱口竜介(RYUSUKE HAMAGUCHI)
1978年生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』が国内外の映画祭で高く評価され、317分の長編映画『ハッピーアワー』(2015年)が各国際映画祭で多数受賞。『偶然と想像』(2021年)でベルリン国際映画祭銀熊賞、『ドライブ・マイ・カー』(2021年)でカンヌ国際映画祭脚本賞ほか4冠に加え、第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞するなど、日本を代表する映画監督として活躍している。

『悪は存在しない』
4月26日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、K2ほか全国順次公開
公式サイトはこちら

画像: 予告編-濱口竜介監督『悪は存在しない』4.26 Fri. Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』ほか全国順次公開 youtu.be

予告編-濱口竜介監督『悪は存在しない』4.26 Fri. Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』ほか全国順次公開

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