ニューヨークの写真集専門書店「ダシュウッド・ブックス」。店主デヴィッド・ストラトルが毎年訪れる、神田神保町の古書店街での買い付けに同行。「マグニフ」「魚山堂書店」「源喜堂書店」「ボヘミアンズギルド」「ヴォルスブックス」そして「かげろう文庫」で彼が目をつけたものは?

BY AKIKO ICHIKAWA, PHOTOGRAPHS BY KOHEY KANNO

デヴィッド・ストラトル
イギリス出身。写真家マリオ・テスティーノのアシスタントなどを経てマグナムへ。2005年「ダシュウッド・ブックス」をオープン。https://www.dashwoodbooks.com

 ニューヨーク・ノーホーにある「Dashwood Books(ダシュウッド・ブックス)」は、世界のクリエイターたちを魅了する写真集専門書店だ。店主は、世界最高峰と称される写真家集団マグナム・フォトでディレクターを務めていたデヴィッド・ストラトル。この書店をオープンしたきっかけが日本にあることはあまり知られていないかもしれない。「マグナムを辞めて、次は何をしようか?と考えていたとき、妻(スタイリストのアン・クリスチャンセン)が『T マガジン』の仕事で荒木経惟と東京で撮影するというので同行したんだ。そのとき、青山の『オン・サンデーズ』に行く機会があり、大きなインスピレーションを得た。ブックコーナーがアート本のブティックみたいで、品揃えがとても洗練されているのが斬新だった。当時ニューヨークのアート系書店といえば古本に特化したところが多かったから」

 2005年、自身の蔵書を売るところからスタート。次第に日本の写真家や出版物にも人気があることがわかってきた。「『ヒステリックグラマー』が作る本は装丁も美しく、ファッション業界の人に人気が高かった。マグナムで働いていた頃から、写真家のマーティン・パーやブルース・ギルデンなんかと一緒に神保町の古書店街を訪れていたんだ。ブルースは森山大道や荒木経惟のビッグコレクターだったね。神保町を歩いて書店を回ると、新しい本に出合う。大竹伸朗も実際に来たから知ることができた。100冊買うとしたら5 冊は新しい写真家のものを買うね。今回はホンマタカシを重点的に探しました」
 今年はホンマとの出版プロジェクトが続く。ホンマタカシの『17』をダシュウッド・ブックスが版元となり刊行。秋にはセッション・プレスと共同で、文化人や一般の人などさまざまな日本人を被写体とした『Portrait of J』を刊行予定。写真家にとって、ダシュウッド・ブックスが世界への登竜門になっているのは間違いなさそうだ。

magnif(マグニフ)

画像: magnif(マグニフ)

"雑誌は時代を映し出す"を謳い、"magazine"から派生した造語を店名にする。ヴィンテージ雑誌に特化した品揃えが充実。今回の買い付けでストラトルが入手したのは、『PURPLE』のバックナンバー、林央子が編集した『BABY GENERATION』、青木淳の設計した家(施主はアートディレクターの秋山具義)をホンマタカシが撮影した『G』、現代美術家リチャード・プリンスによる『Bettie Kline』、「ヒステリックグラマー」による雑誌など。昨今のファッション・トレンドでもある1990〜2000年代初頭のムードがページをめくるたび漂ってくるよう。

住所:東京都千代田区神田神保町1 の17
TEL.03-5280-5911
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魚山堂書店(ぎょざんどうしょてん)

画像1: 魚山堂書店(ぎょざんどうしょてん)

1926年に建てられた大正モダニズム建築内の一室にあるアポイントメント制の書店。昨年まで神田古書店連盟の会長も務めた店主の伊藤俊一は90年代から写真集を専門に扱ってきた。「魚山堂はコレクター向けのレアな本を多く揃えていますね」とストラトル。今回、ここでは荒木経惟の『写狂人大日記』やホンマタカシの『NEW WAVES』『TOKYO WILLIE』、ウクライナ人写真家ボリス・ミハイロフの『CASE HISTORY』などを購入した。東松照明の『おお! 新宿』も迷ったが、「高価格のため、今回は断念」。

画像2: 魚山堂書店(ぎょざんどうしょてん)
画像3: 魚山堂書店(ぎょざんどうしょてん)

住所:東京都千代田区西神田2-4-1 東方学会本館1F 15号
TEL.03-5211-6003
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源喜堂書店(げんきどうしょてん)

画像1: 源喜堂書店(げんきどうしょてん)
画像2: 源喜堂書店(げんきどうしょてん)

国内外の美術や写真、工芸、建築、デザイン全般の古本を扱う。9階では古文書や浮世絵、書画なども販売。店主の古書愛あふれる手書き背表紙が書棚にずらりと並ぶさまは圧巻。「毎回必ず立ち寄るので顔なじみで、好みも熟知してくれている。今回はブルース・ウェーバーの『サム』、荒木経惟の『美登利』初版、アーティスト河原温の『continuity/discontinuity 1963-1979』を購入。最近は写真集以外にもアートブック、インテリアやデザイン、建築関係のビジュアルブックなども選んでいます。河原は日本以外では見つけにくいから、貴重」

住所:東京都千代田区神田小川町3-1-9
TEL.03-3291-5081
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Bohemian’s Guild(ボヘミアンズギルド)

画像1: Bohemian’s Guild(ボヘミアンズギルド)

1924年、池袋で「夏目書房」として開店し、その後神田神保町へ移転。約100年にわたり営業を続ける美術系古書の老舗で、2階にはアート展示スペースもある。ストラトルは今回、大竹伸朗の『既景』『憶速』『MICHELLE: FIND THIS MAN』、細江英公の『たかちゃんとぼく』、ホンマタカシの『六本木ヒルズ』、立木義浩の『私生活/加賀まりこ』などを購入した。「立木は、アートディレクターや雑誌のフォトグラファーに人気があります。60〜70年代のサム・ハスキンスなどにも見られるような、ある種のエキセントリックさがあるね。欧米ではあまり見かけない感じ」

画像2: Bohemian’s Guild(ボヘミアンズギルド)

住所:東京都千代田区神田神保町1-1 木下ビル1F・2F
TEL.03-3294-3300
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Wols Books(ヴォルス ブックス)

画像: Wols Books(ヴォルス ブックス)

源喜堂で長年写真集を担当していた店主が昨年オープン。ここでは長島有里枝による初めてのセルフヌード写真集『YURIE NAGASHIMA』、古屋誠一『クリスティーネ フルヤ=ゲッスラー メモワール1978-1985』を購入。「長島もダシュウッド・ブックスから写真集を出した。本当に素晴らしい写真家だ」

住所:東京都千代田区神田神保町3-10-3 松晃ビル1F
TEL.03-6261ー2251
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かげろう文庫

画像: かげろう文庫


和洋問わず挿絵や写真入りなどビジュアル本全般を扱う古書店。100年以上前のアンティーク本も多種揃い充実。ストラトルが訪れると、店主の佐藤龍は古い友人を迎えるかのような笑顔になり、流暢な英語で接客。ここでは荒木経惟『ゼロックス写真帖』などを購入。

住所:東京都千代田区神田小川町3 の26の3
TEL.03-3291-5001
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