TEXT BY KANAE HASEGAWA
KURKKU FIELDSは、約9万坪(30ヘクタール)の敷地に小川が流れ、循環型農地を中心に、レストラン、公園、そして宿泊施設が点在する複合施設だ。音楽家の小林武史氏が総合プロデュースを手がけ、自然との距離ができてしまった都会の人をもう一度、農や自然とつなぎ合わせるために設立した施設であり、2010年からこれまで有機農業が営まれてきた実践の場だ。ここでは、すり鉢状にくぼんだ敷地を取り囲むように、畑、養鶏場、水牛の牛舎、太陽光発電システム、レストラン、カフェ、宿泊棟が広がる。この地で作物が育ち、それを人がいただき、残ったものは自然に負荷をかけないように処理して自然に戻していく仕組みが築かれている。
KURKKU FIELDSでは、新たにできた宿泊施設「cocoon」をはじめ、ここを訪れた人たちが能動的に過ごすことを大切にしている。そんな環境の中に新しくできた「地中図書館」は、ここで得た体験を、知識としてさらに深める場所になってほしいと構想された。建築の設計を手がけたのは中村拓志が率いるNAP建築設計事務所。ここが、いわゆる観光地ではなく、農の実践の場でもあることを勘案し、「農に携わる人たちが土地を耕し、大地の恵みを受けてきた土地に建てるのだから、建築が主張するのではなく、大地とともにある存在を目指した」と中村は話す。
緑で覆われた丘陵地の中に図書館を挿入したような大地に溶け込んだ外観の、その入り口に谷間ができている。中村は設計する際には常に、立地の歴史を入念に調べる手法を取ってきた。ここでも古い地図を調べ、もともとこの土地は谷になっていたことを知る。そこで、緑に覆われた屋根をそのまま傾斜させて谷のような窪地を作ることで、土地の記憶を蘇らせた。
入り口は天井が低く、圧迫感もあるが、それは大地に自分が入らせてもらっている感覚をもってもらいたかったからだという。奥に進むと、自然光が差し込む開放的な円形空間が広がる。ドーム状になった天井は、28本の木の梁のそれぞれを傾斜させることで互いに支え合うように組み合わせた、レシプロカル構造でできている。「一本一本では弱いけれど、それぞれが隣に力を伝えながら結果として大きな空間を支えています。これはKURKKU FIELDSが目指している相互扶助の社会の象徴として、取り入れたかった構造」と中村は言う。
選書を担当した川上洋平にはこんな思いがある。「植物も野菜も土の中の微生物の働きによって豊かに育っていく。人は、地中にある図書館の本を読み、知を蓄え、想像力を養い、それが豊かな暮らしにつながっていけばうれしい」。
問合せ先
地中図書館
住所:千葉県木更津市矢那2503 クルックフィールズ内
開館時間:12:00 – 17:00
休館日:火、水
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