グローバル・ラグジュアリー・グループのケリングによる「ウーマン・イン・モーション」トークが、11月2日、第38回東京国際映画祭で開催された。俳優の高畑充希、俳優・アーティストの中島健人、ハリウッドを代表するキャスティング・ディレクターのデブラ・ゼイン、豊富な国際共同制作の経験を持つプロデューサーの福間美由紀が登壇し、映像業界における女性を取り巻く環境やキャスティングの意義について、熱い意見交換が行われた

BY REIKO KUBO

画像: (左から)オープニングスピーチを行った是枝裕和監督、トークに登壇した俳優の高畑充希、キャスティング・ディレクターのデブラ・ゼイン、俳優・アーティストの中島健人、プロデューサーの福間美由紀

(左から)オープニングスピーチを行った是枝裕和監督、トークに登壇した俳優の高畑充希、キャスティング・ディレクターのデブラ・ゼイン、俳優・アーティストの中島健人、プロデューサーの福間美由紀

高畑充希、中島健人も登壇。2025年のケリング「ウーマン・イン・モーション」トークは活発な意見交換の場に!

 去る11月2日、第38回東京国際映画祭にて、今年もケリング「ウーマン・イン・モーション」トークが開催された。2026年3月に開催される第98回アカデミー賞®からキャスティング賞が新設されることにちなみ、トーク前にはドキュメンタリー映画『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』が上映され、是枝裕和監督の開会の挨拶に続き、今年のゲストが登壇。現在『国宝』や『秒速5センチメートル』が公開中の俳優、高畑充希は出産を控え、転換期を迎えるにあたって本イベントへの関心を語った。

高畑充希(以下、高畑) この先、自分が子育てしたり、母として生きていく中で試行錯誤したり、壁にぶち当たる時がくるのかなと感じています。そんな中、このイベントに招待いただいたのは良いきっかけになると思うので嬉しいです。

 俳優・アーティストの中島健人は、英語力を活かしてHuluオリジナル「コンコルディア/Concordia」など国際プロジェクトに挑戦するなど、活躍の場を広げている。

中島健人(以下、中島) インティマシー・コーディネーターという職種ができたり、子どものいる方にとって働きやすい環境が整ってきたりと進化し続けているタイミング。今の世代の感覚でたくさんディスカッションしていきたいですし、皆さんと一緒に女性がどう力を発揮して映画作りに尽力していくのか、しっかり学んでいきたいです。

 是枝裕和率いる「分福」のプロデューサーを務める福間美由紀は、今年のカンヌ国際映画祭に石川慶監督作『遠い山なみの光』を携えて参加した。

福間美由紀(以下、福間) カンヌでは「ウーマン・イン・モーション」10周年のディナーに参加しました。アワード受賞者のニコール・キッドマンが、“1年半に1本は必ず女性監督と仕事をする”と公言して、以来8年の間に27本の女性監督とのコラボレーションを実現されています。そのアクションとメッセージに希望と勇気をもらいました。

 そして『アメリカン・ビューティー』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』など、30年以上にわたってハリウッドの第一線で活躍してきたキャスティング・ディレクター、デブラ・ゼインが初来日。スペシャルゲストとして参加し、ハリウッドの歴史と風を運んだ。

画像: 高畑充希、中島健人も登壇。2025年のケリング「ウーマン・イン・モーション」トークは活発な意見交換の場に!

キャスティング・ディレクター、職業としての光と影

 当日特別上映された『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』は、キャスティング・ディレクターという職業が確立されるまでの歴史を追うドキュメンタリー映画。数々のアメリカン・ニューシネマのスターを世に送り出したパイオニア、マリオン・ドハティを讃えながら、女性であったがためにハリウッドの男性社会で功績が正当に評価されなかった影の部分も語られている。

デブラ・ゼイン(以下ゼイン) マリオンは、私たちの仕事の基盤を作った人で、先駆けであり、レジェンドでした。この仕事はハリウッドだけでなく、世界中の俳優についての知識が必要で、その膨大なリストの中から一番相応しい人を提案します。最終決定は監督が担うけれど、キャスティング・ディレクターの意見が作品に大きな影響を及ぼすこともあるんです。意見が食い違った時には、監督と喧嘩するくらいのことも起こります(笑)。

高畑 私はミュージカル出身なので、舞台はお客さまに観に来てもらわなきゃいけないというのがスタートである分、役柄にピッタリな人を選ぶことよりも前に、お客さまに来てもらえる人をキャスティングするところに重点が置かれてしまう気もしていて。この映画はそれを突きつけられたような感じがあったので、身が引き締まる思いがしました。

中島 このドキュメンタリー作品を観て、キャスティングというものは映画の物語と感情をしっかり形作る芸術のひとつなんだなと。それがあることで一つの作品が完成するという、キャスティング・ディレクターの重要性を再確認しました。

福間 パイオニアの情熱、目利き、発見する人の大切さを感じました。また、彼女がキャスティング・ディレクターとしての技術を後進にちゃんと伝えていたからこそ、今も面白いアメリカ映画が生まれ続けている。それだけの偉大な功績を残しながら、この仕事が長らく過小評価されてきたことには、きっとご本人は忸怩たる思いや大きな哀しみを持っていらっしゃったろうと、そこに寄り添う自分がいました。

ゼイン キャスティング・ディレクターはかつて映画監督やプロデューサーの秘書的な存在で、女性の仕事と思われてきました。技術としても評価されてきませんでしたが、ようやくその価値が理解され、第98回アカデミー賞®での『キャスティング賞』の行方にワクワクしています。

画像: 公私ともに充実の時期を迎える高畑充希。仕事への取り組み方やキャスティングについて真摯に向き合う姿勢が印象的だった

公私ともに充実の時期を迎える高畑充希。仕事への取り組み方やキャスティングについて真摯に向き合う姿勢が印象的だった

画像: 英語を堪能に操る中島健人は、海外作品への出演経験もふまえ、デブラ・ゼイン氏にユーモアを交えながら英語で質問を投げかけ会場を沸かせた

英語を堪能に操る中島健人は、海外作品への出演経験もふまえ、デブラ・ゼイン氏にユーモアを交えながら英語で質問を投げかけ会場を沸かせた

ジェンダーフリーが叫ばれる時代を反映する女性像の変化

 #Me Too運動以降、映画業界において女性監督の存在感が増し、それにつれて変化する女性像や、それぞれの立場での仕事との向き合い方にも話が及んだ。

中島 近年、『バービー』や『プロミシング・ヤング・ウーマン』など、女性が主体となって生き抜く力強さを描いた作品が増え、時代に順応した作品が作られてきているように感じます。

ゼイン そうですね。映画は時代を反映するものです。女性がスーパーヒーローや大統領になり、リーダーとしての役割を果たす姿をスクリーンで見られる機会が増えてきました。今後、さらに増えていくと思います。

福間 韓国で是枝監督の『ベイビー・ブローカー』を製作した際、赤ちゃん泥棒は二人の男性ですが、赤ちゃんの母親と彼らを追う女性警官の葛藤やリアリティも色濃く描くようにしました。韓国側から母親である若い女性の怒りをしっかり描いてほしいというリクエストもありまして。私がプロデューサーとして参加する際は、特に女性の眼差しや価値観を物語に落とし込むことを意識しています。『遠い山なみの光』では複数の女性が登場しますが、それが一人の女性の多面的な側面に見えるように心がけて作りました。

高畑 私は本当の意味で人間として平等に描かれている作品が観たいです。LGBTQの方々を描く作品では当事者が演じるべきという意見もありますが、ゼインさんはどう思われますか?

ゼイン 良い質問ですね。私は必ずしも当事者である必要はないと思います。私はその人物になりきれる演技が上手な人が演じるべきだと思っています。

画像: キャスティング・ディレクターのデブラ・ゼイン氏と、国際経験豊かなプロデューサーの福間美由紀氏は、製作する立場からの有意義な問題提起や今後の展望を語った

キャスティング・ディレクターのデブラ・ゼイン氏と、国際経験豊かなプロデューサーの福間美由紀氏は、製作する立場からの有意義な問題提起や今後の展望を語った

福間 2018年、フランスで母と娘の物語『真実』を撮影しました。その時、私自身が子育て中でしたので、フランスの1日の撮影時間は8時間まで、土日は休みというルールが徹底されていることにカルチャーショックともいえる衝撃を受けました。現場には子育て中の女性もたくさんいて。日本では生活を犠牲にせざるを得ないことがあまりに長く続いてきましたが、今ようやくルールが設けられ、変わろうとしている。意識をアクションに変えていく最中です。

高畑 私自身、当事者として転換期を迎えていると感じています。子どもが生まれ、子育てしていく中で、もっとこうだったらいいのにと思うことが増えていくのかもしれません。そうなったら我慢せず、声に出していくことで、働きやすい環境に貢献できたら嬉しいです。

中島 まずは食事の時間をしっかり作るとか、(出演者やスタッフの家族が撮影現場を見学できる)ファミリーデーを設けてみるとか、少しの変化が現場を充実させていくきっかけになると思います。みんながそれに気づき始めているので、時代の真ん中にいる一人の映画人として推奨していけたら良いなと思っています。

ゼイン 期待以上の多くのことを学べたイベントでした。皆さんにとっても、たくさんの発見があることを願います。

福間 どんな人でも映画を愛し、支えてくれる人みんなが声に出していいんだと思ってくれる機会になったと思います。

中島 時代を変えることに少しずつ尽力していきたいです。改めて、第98回アカデミー賞®でのキャスティング賞創設を祝福します。

画像: 夜には世代や職種を超えた映画関係者が一堂に集うケリング「ウーマン・イン・モーション」ディナーが開催され、トークで活発な意見交換を行った高畑充希と中島健人も参加した

夜には世代や職種を超えた映画関係者が一堂に集うケリング「ウーマン・イン・モーション」ディナーが開催され、トークで活発な意見交換を行った高畑充希と中島健人も参加した

画像: ケリング「ウーマン・イン・モーション」トーク2025 x TIFF www.youtube.com

ケリング「ウーマン・イン・モーション」トーク2025 x TIFF

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PHOTOGRAPHS: COURTESY OF KERING

女性たちの活躍に光をあてる「ウーマン・イン・モーション」とは

画像: 2025年のカンヌ国際映画祭で「ウーマン・イン・モーション」授賞式に集ったニコール・キッドマン、サルマ・ハエック・ピノーと、エマージング・タレント・アワード受賞者のニンジャ・サイバーグ、カルラ・シモン、ガヤ・ジジ、マリアンナ・ブレナンド、シャノン・マーフィ、アマンダ・ネル・ユー、マイサルーン・ハムード、エヴァ・トロビッシュ

2025年のカンヌ国際映画祭で「ウーマン・イン・モーション」授賞式に集ったニコール・キッドマン、サルマ・ハエック・ピノーと、エマージング・タレント・アワード受賞者のニンジャ・サイバーグ、カルラ・シモン、ガヤ・ジジ、マリアンナ・ブレナンド、シャノン・マーフィ、アマンダ・ネル・ユー、マイサルーン・ハムード、エヴァ・トロビッシュ

 グローバル・ラグジュアリー・グループのケリングは、2015年のカンヌ国際映画祭で「ウーマン・イン・モーション」を創設。映画界の表舞台と裏側で活躍する女性たちに光をあてる活動を行っている。現在では映画のほか写真、アート、デザイン、音楽などの分野にも活動を広げ、女性の立場について意見を交換する機会を提供している。

 2017年からは日本でもケリング「ウーマン・イン・モーション」トークイベントをスタート。これまでにフランスのイザベル・ユペールや韓国のぺ・ドゥナ、映画監督の是枝裕和や河瀨直美、俳優の寺島しのぶ、菊地凛子、磯村隼人らが日本と海外における映像界の女性を取り巻く環境や課題について意見を交わしてきた。

「ウーマン・イン・モーション」が創設されてから10年。映画・映像界の女性の働き方、環境改革が一歩一歩進みつつある。その渦中で世界を見つめ、人々をエンパワーメントしてきた面々の言葉は、深い洞察と示唆に富んでいる。

今年、T JAPAN の「ウーマン・イン・モーション」特集に登場した女性クリエイターたちの名言

画像: 脚本家・吉田恵里香さん 「女性の環境について口酸っぱく言いつづけることが大事だと感じています。また、女性蔑視について語られる機会が増えたことで、逆に反発もあり、それは男性からのものだけではなくて。その反発によって誰かが傷つけられないように、守りの盾というか、守る場所は多いほうがいいと思うんです」(T JAPAN 2025年3月27日号より抜粋)

脚本家・吉田恵里香さん
「女性の環境について口酸っぱく言いつづけることが大事だと感じています。また、女性蔑視について語られる機会が増えたことで、逆に反発もあり、それは男性からのものだけではなくて。その反発によって誰かが傷つけられないように、守りの盾というか、守る場所は多いほうがいいと思うんです」(T JAPAN 2025年3月27日号より抜粋)

画像: 俳優・宮澤エマさん 「アメリカの教育では、ジェンダーについての対話に参加することが義務であると教えるツールがあるんです。日本でも説得力のある会話を女性が自信をもってできるように変わってほしいですが、性別を問わず子どもの頃からの認識の醸成が大切ですよね」 (T JAPAN 2025年6月1日号より抜粋)

俳優・宮澤エマさん
「アメリカの教育では、ジェンダーについての対話に参加することが義務であると教えるツールがあるんです。日本でも説得力のある会話を女性が自信をもってできるように変わってほしいですが、性別を問わず子どもの頃からの認識の醸成が大切ですよね」
(T JAPAN 2025年6月1日号より抜粋)

画像: 映画監督・早川千絵さん 「今はまだ、女性のエンパワーメントを必要とする社会なので『ウーマン・イン・モーション』ですが、いつか人種や年齢、性別といった特別なラベリングが不要となり、『ピープル・イン・モーション』となる社会に変わってほしいと願っています」 (T JAPAN 2025年9月27日号より抜粋)

映画監督・早川千絵さん
「今はまだ、女性のエンパワーメントを必要とする社会なので『ウーマン・イン・モーション』ですが、いつか人種や年齢、性別といった特別なラベリングが不要となり、『ピープル・イン・モーション』となる社会に変わってほしいと願っています」
(T JAPAN 2025年9月27日号より抜粋)

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