韓流エンタメの第一人者、田代親世さんが、韓国ドラマの魅力を様々な独自の切り口でご紹介。今回は、韓国ドラマの王道モチーフ「記憶喪失」を描いたドラマの中から、「記憶を失ったことから愛が生まれる」ドラマを3本セレクト。

TEXT BY CHIKAYO TASHIRO

別れを覚悟しながら命がけで彼女を守る男
『恋は飴模様』

 この作品で記憶を失うのは、検事として事件を追っていたヒロイン。ある事件に巻き込まれ、命の危機にさらされた彼女を救ったのが、裏社会に生きる男でした。かつてはボクシングのチャンピオンを目指していたものの、今では自分の意に反して裏社会に身を置くしかなくなった男。彼は記憶をなくした初恋相手の彼女を守るため、「自分は君の婚約者だ」と偽り、田舎の村へ連れていきます。

画像: ヒロイン役のハヨン Netflixシリーズ「恋は飴模様」独占配信中

ヒロイン役のハヨン Netflixシリーズ「恋は飴模様」独占配信中

 ハードボイルド気味に始まりますが、田舎での暮らしが始まると一転、ラブコメモードに。都会で華麗に暮らしていたヒロインが、記憶を失って田舎で思いっきり“おばさんスタイル”になっているのもおかしいし、村に暮らす3人のおばさんトリオも実にいい味を出しています。見知らぬ土地にやってきたちゃっかり者のヒロイン、無骨だけれど彼女を守る男、そして人情味あふれる村人たち。どこか『愛の不時着』を思わせる温かさもあります。

画像: 主演のチョン・ヘイン(左)とハヨン(右) Netflixシリーズ「恋は飴模様」独占配信中

主演のチョン・ヘイン(左)とハヨン(右) Netflixシリーズ「恋は飴模様」独占配信中

 このドラマは、チョン・へイン演じる男の“やせ我慢的な無償の愛”が尊いのです。いずれ別れることになる“一時の恋人”を演じる男の切ない想い。彼女の安全を考えれば、自分のもとから去らせなければならないとわかっている。だから、彼女から思いを寄せられてうれしいはずなのに、その眼差しはいつもどこか寂しげで、見ていてキューンとなるのです。最初から別れを覚悟しながら、それでも命懸けで彼女を守る。その“諦めを含んだ男の純愛”が、この作品のいちばんグッとくるところです。
ハヨン扮するヒロインも透明感があって、とってもキュート。好感がもてます。記憶を失ったからこそ、過去や立場に縛られることなく、ただ目の前にいる相手を愛することができた、そんな物語です。

■Netflixシリーズ「恋は飴模様」独占配信中

世子がただ一人の青年として人を愛する
『100日の朗君様』

 これは、記憶を失ったことで、心をほどく愛に出会う物語です。主人公は、幼い頃に父親の非道を知ったことをきっかけに、心を閉ざして生きる世子。宮廷では常に陰謀と疑いに囲まれ、誰も信じることができず、聡明で有能ではあるものの、すっかりシニカルな青年になっています。そんな彼が権力争いで命を狙われた末、記憶喪失に。村人に助けられた彼は、ちょうど独身者に結婚を命じるお触れの対象となっていたヒロインの“婚約者”に仕立てられ、そのまま夫婦として暮らすことになります。

画像: 主演のド・ギョンス(右)とヒロイン役のナム・ジヒョン(左) © STUDIO DRAGON CORPORATION

主演のド・ギョンス(右)とヒロイン役のナム・ジヒョン(左) © STUDIO DRAGON CORPORATION

 ここから一気にラブコメになるのが、この作品のおもしろいところ。宮廷では有能だった世子が、庶民の暮らしに放り込まれた途端、何もできない。世間知らずで借金まで作ってしまい、周囲から「役立たず」扱いされる。その落差が実に笑えます。そして、ド・ギョンス演じる世子のキャラクターがまたおかしい。「私だけが不快なのか」が口癖で、ヒロインに愛が芽生えてからも、無表情のまま相手を見つめ、まるで睨むような顔で甘い言葉を言う。その不器用さがなんともかわいいんです。

画像: ド・ギョンス © STUDIO DRAGON CORPORATION

ド・ギョンス © STUDIO DRAGON CORPORATION

 でも、この作品で何より心に残るのは、彼が初めて“安心して暮らせる場所”を知ること。疑心暗鬼の中で生きてきた彼が、狭い家でヒロインや義父、村人たちの温かさに包まれて過ごす100日間。その時間が、彼にとってどれほど幸せだったのかと思うと、後半になるほど切なさが増していきます。
記憶を失ったことで、彼は身分も責任も疑いも一度すべて手放し、ただ一人の青年として人を愛することができた。そして、その相手が実は幼い頃から心に残り続けていた初恋の人だったというのも、この物語の美しいところです。青年が初めて手に入れた温もりや愛を描いたドラマです。

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愛し合った記憶を持っているのは自分だけ
『ラストダンスは私と一緒に』

 今回選んだ3本の中でも、もっとも“記憶”そのものが愛を揺さぶる作品です。大企業の御曹司でありながら、父親と対立して家を飛び出した主人公。事故に遭い、記憶を失った彼を助けたのが、ペンションを営む純粋なヒロインでした。それまでの身分も過去も忘れた彼は、やがて彼女と愛し合うようになります。ところが、このドラマの切ないところは、記憶が戻った瞬間から本当の試練が始まること。彼は元の人生へ戻り、彼女と過ごした時間を忘れてしまいます。ようやく彼女が彼を探し当てた時には、彼はもう彼女のことを覚えておらず、しかも別の女性と婚約しているのです。愛し合った記憶をもっているのは自分だけ。記憶を失ったことで生まれた愛が、今度は記憶を取り戻したことで消えてしまった。その残酷さが、この作品の大きな見どころです。

画像: ヒロイン役のユジン(右) ©SBS

ヒロイン役のユジン(右) ©SBS

 そして、なんといってもこの作品の魅力は主演のチソン。前半はカメラマン志望の少し野暮ったい青年なのですが、物語の中盤からスーツ姿の御曹司に戻ると、一気に雰囲気が変わります。歩き方、手の動き、話し方までどんどん洗練されていき、まさに“王子”になっていくんですね。その一方で、澄んだ瞳にはずっと憂いがある。自分でもわからない感情に戸惑いながら、忘れてしまった愛に少しずつ引き寄せられていく姿がとても切ないです。

画像: 主演のチソン(右から2番目) ©SBS

主演のチソン(右から2番目) ©SBS

 周囲の男女の執着や嫉妬も絡み、いかにも韓国ドラマらしいドラマチックな展開が続きますが、最後に残るのは、「記憶をなくしても、環境が変わっても、時間が過ぎても、本当に愛した人への思いは消えるのか」という問い。“記憶を失ったから始まった愛”が、“記憶を失っても残る愛”へと変わっていく物語です。一途な純愛は、何があってもそう簡単には消えない──。そんな王道の韓国ドラマらしい感動を、たっぷり味わわせてくれる作品です。

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田代親世 韓流ナビゲーター 
韓流解説、韓流イベント司会の第一人者。公式サイト「田代親世の韓国エンタメナビゲート」やYoutube「ちかちゃんねる☆韓流本舗」「韓ドラ・マスター親世と尚子の感想語り」などで韓流情報を発信しているほか、会員制のコミュニティ【韓流ライフナビ】を主宰。ツアーやイベントを企画・開催している。


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