突出した個性はないが、インディペンデントで控えめで、いつも変わらぬテイストを持っている。着る人のことを考え抜いて作られた上質な服、“スロー・ファッション”のスペシャリストたちがいる

BY AMANDA FORTINI, PHOTOGRAPHS BY TOM JOHNSON, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

Egg(エッグ)

 ロンドンでカルトな人気を誇る創業23年のブティック、「エッグ」の創業者兼オーナーであるモーリーン・ドハーティ。彼女のブティックとそこで売っている服はどんなものなのかと尋ねたら、きっと彼女は口ごもった末にこう言うだろう。それはとても一語では言い表せないし、そもそも自分は「デザイナー」ではなく「店主」なのだ、と。肩書きはどうあれ、65歳の彼女はインディペンデントなデザイナーのあいだで深く尊敬されている存在だ。そして、彼女はやはり、ブティックの店主でありデザイナーでもある。と同時にキュレーターでもあり、人やものを繋げる存在でもあり、メンターでもある。

 ロンドンのベルグラビアにある広さ700平方フィートの店には、ドハーティが手がけるブランド「エッグ」のボリューミーなドレスやセーター、トップスがディスプレイされている。静謐な白いスペースに、ほかのアイテムと重ねるように掛けられた洋服は、さながらインスタレーションアートの一部のようだ。

画像: 『ランチョン』誌編集長のレディ・フランシス・フォン・ホフマンスタール。ロンドン・ショーディッチ地区近郊のロシェル・スクール内にある自身のスタジオにて。 (イラスト右上)モーリーン・ドハーティによるブラウスのスケッチ。エッグ 2018年 春夏コレクションより ILLUSTRATION: COURTESY OF EGG

『ランチョン』誌編集長のレディ・フランシス・フォン・ホフマンスタール。ロンドン・ショーディッチ地区近郊のロシェル・スクール内にある自身のスタジオにて。
(イラスト右上)モーリーン・ドハーティによるブラウスのスケッチ。エッグ 2018年 春夏コレクションより
ILLUSTRATION: COURTESY OF EGG

 ドハーティは、フィオルッチやヴァレンティノ、イッセイ ミヤケを英国に紹介したことでも知られている(なかでもイッセイとは20年来のつきあいだ)。彼女はファッション界を“空虚”だからと避けており、そのかわりに職人たち、彼女の言うところの「作り手たち」と仕事をするほうを好む。ドハーティはまた、“1年単位ではなく10年単位”の、ゆっくりしたペースで働くのが好きだ。そのインスピレーション源となるのは、ワークウエア。ときには、リネンでできた19世紀のカーコートや、アースカラーのキャンバス地でできたベルギー軍の太いパンツのような伝統的なシルエットを再解釈して服を作ることもある。着る人が服に合わせるのではなく、服のほうが着る人の暮らしに合わせてくれるのが「エッグ」のアイテムだ。

「私は素敵なドレスを何着も買ったわ。三度の妊娠で大きくなったお腹にもフィットしてくれた」と言うのは、エッグの顧客、レディ・フランシス・フォン・ホフマンスタールだ。写真家スノードン伯爵の娘で、年に2回発行されるアート&カルチャー誌『ランチョン』の編集長でもある。「今はそのドレスを重ね着して楽しんでいるの」。ティルダ・スウィントン、マギー・スミス、ダイアン・キートンらも、エッグのファンだ。こういった輝かしい顧客たちがいるにもかかわらず、モーリーンは彼女の作る服に決してブランドのラベルを縫いつけない。そのほうが「ほっとする」から、と彼女は言う。

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