突出した個性はないが、インディペンデントで控えめで、いつも変わらぬテイストを持っている。着る人のことを考え抜いて作られた上質な服、“スロー・ファッション”のスペシャリストたちがいる

BY AMANDA FORTINI, PHOTOGRAPHS BY TOM JOHNSON, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

Sofie D’Hoore(ソフィー ドール)

 ブリュッセルを拠点とするデザイナー、ソフィー・ドールは 、アントウェルペン王立芸術学院に在学していたとき、デザイナーのウォルター・ヴァン・ベイレンドンクから教えを受けた。デザイナーになる前は歯科医学を学んでいたという彼女が作る服は、クリーンでモダン、落ち着いた雰囲気で立体的だ。ルーズなシルエットのコットンチュニック、ゆったりしたパンツ、着る人のボディラインに寄り添うようなシフトドレスといったソフィーの服は、技巧的であるのと同時に、厳格なコンセプトや実用性に裏打ちされている。そのカッティングと構造によって、数学的で純粋な美しさをたたえているのも特徴だ。

画像: アートキュレーターのアバセー・ミルヴァリは「ソフィー ドール」の顧客。パリにある友人の家で。 (写真右上)「ソフィー ドール」のキモノ風ダウンコート PHOTOGRAPH(ITEM): COURTESY OF TIINA THE STORE

アートキュレーターのアバセー・ミルヴァリは「ソフィー ドール」の顧客。パリにある友人の家で。
(写真右上)「ソフィー ドール」のキモノ風ダウンコート
PHOTOGRAPH(ITEM): COURTESY OF TIINA THE STORE

 55歳のソフィーは、ときどきイタリアの工房と共同でオリジナルの布地を開発している。紺、白、深緑などの控えめなニュートラルカラーの布で、時折フローラルプリントやチェック柄が入ったりもする。ほとんどは100%コットン、ウール、シルク、最上級のダブルフェイスのカシミアなどの天然素材を使用している。こういった素材は、時が経っても「美しい特徴を保ち続けるから」と彼女は言う。

 1992年にこの仕事を始めたとき、彼女はすべての作業をひとりで行っていた。25年経った今は、「まるで自分でやっているかのように」働くようにしている。自分で服をつくり、改良するときと同じように、すべての工程に鋭く目を光らせる。だからこそ、建築家やアート関係の人々、デザイナー、ディレクターといった、細部の完成度にこだわるクリエイティブな職種の人たちがソフィーの服に惹きつけられるのだろう。

 ソフィーの服には細心の注意が払われているが、決してこだわりすぎてうるさいわけではない。それは、現実世界で生き、働く女性のための服だ(ちなみに、彼女はやや規模の小さいメンズコレクションも展開している)。「私の服を着ることで、自分が強くなったように感じてほしい。自信を持ってほしい」と彼女は言う。「この服は自分と切っても切り離せない関係だ、と感じてもらえたら嬉しいわ」

FOR PORTRAITS, PRODUCTION BY ELLIE ROBERTSON AT MINI TITLE. SET DESIGH BY ELSIE ABDY COLLINS. PHOTO ASSISTANTS: JAMES HOBSON, HENRY GORSE AND ELLA BATS

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