突出した個性はないが、インディペンデントで控えめで、いつも変わらぬテイストを持っている。着る人のことを考え抜いて作られた上質な服、“スロー・ファッション”のスペシャリストたちがいる

BY AMANDA FORTINI, PHOTOGRAPHS BY TOM JOHNSON, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

画像: スロー・ファッションをポリシーに掲げる3人のデザイナー。ソフィー・ドール、「ケイシー ケイシー」のギャレス・ケイシー、「エッグ」のモーリーン・ドハーティ。ロンドンにて撮影

スロー・ファッションをポリシーに掲げる3人のデザイナー。ソフィー・ドール、「ケイシー ケイシー」のギャレス・ケイシー、「エッグ」のモーリーン・ドハーティ。ロンドンにて撮影

 スタイリッシュだが流行を追っているわけではない。高価ではあるけれど、決してこれ見よがしではない。よく見ると凝った美しい服をいつも着ているーー。そんなタイプの女性がときどきいる。彼女たちが着ているような、細心の注意を払ってカッティングされ、入念に考えて仕立てられた服は、トレンドとは無関係なように見えて今のムードにぴったり合っている。素材は薄手のピュアコットンやしなやかなリネン、とても柔らかいイタリアンウールなど。構築的すぎず、タイトすぎず、不自然でない服。大らかで肩の力が抜けた雰囲気というのは、そう簡単に作れるものではない。

 こういった服を着る女性は、クリエイティブな職業についていることが多い。例えばシェフ、造園家、アーティスト、キュレーター、エディターといったような。そして彼女たちの私生活には、ある種の穏やかなムードが漂っている。週末には庭で過ごし、あり合わせの食材でディナーパーティを開く。手作りのルバーブパイをひと切れ食べるのを我慢するくらいなら、ウエストのゆるいワンピースを着るほうを選ぶような女性たちだ。

 明らかにそれとわかるブランドロゴのついた服を着ていたり、ましてやわかりやすいトレンドアイテムは身にまとわない。「どこの服を着ているの?」と聞かれて彼女たちが挙げる名前は、ラグジュアリー・ファッションのメインストリームの外で、場合によっては数十年以上も地道で堅実な仕事ぶりによって自分たちのビジネスを作り上げてきたインディペンデントなデザイナーだったりする。このようなデザイナーは、ファッションウィークのスケジュールに合わせてランウェイショーを開催したりはしない。もしくはショー自体を行なわない。ブランドの広告を出したりマーケティングしたりもしないし、その多くは、まったくメディアにも登場しない(プロモーション活動などというものは、タイトな服同様、悪趣味なものに感じられるのだろう)。

 こうしたブランドの服はスロー・ファッション、もしくはコンシャス・ファッションと呼ばれ、ここ最近のムーブメントの一環をなしている。当のデザイナーたちは、“ただの昔ながらの服作りへの回帰”であり、“目まぐるしく移り変わるファッション業界について、激しい議論をかわし疲れた末の回答”だと言うのだが。彼らは業界の殺人的な生産スケジュールに縛られたり、トレンドに迎合したりすることを好まない。その代わり、個性を抑えた、タイムレスなデザインの服を生み出すことに注力しているのだ。

 こういったブランドがもつステイタスは、服と同時に、それを着る女性たちにも当てはまる。そのブランドと深くつながり洗練された顧客たちは、デザイナーと同じように、一時的なトレンドに流されるのを断固として拒む。デザイナーもその顧客たちも、どのコレクションのどのアイテムにも、ブランドの追求する美学が等しく注がれていると考えている。それゆえ、すべてのアイテムは、ほかのどんなアイテムとも合わせられる。ラグジュアリーブランドの服と比べて特に安いわけではないが、長持ちする上に何シーズンも着られるし、誰かにお下がりとして受け渡すこともできる。要するに、流行に乗っていない服は、決して流行遅れにもならないということだ。

画像: 自前の「エッグ」の服を着た顧客たち。 (写真左)ロンドンに住み、レストラン「スプリング」を運営するシェフのスカイ・ジンゲル。 (写真右)建築家でインテリア・デザイナーでもあるゾーイ・チャン・エイアーズ。娘のマックス・ライラ・ローズを抱いて

自前の「エッグ」の服を着た顧客たち。
(写真左)ロンドンに住み、レストラン「スプリング」を運営するシェフのスカイ・ジンゲル。
(写真右)建築家でインテリア・デザイナーでもあるゾーイ・チャン・エイアーズ。娘のマックス・ライラ・ローズを抱いて

 

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