BY AMANDA FORTINI, PHOTOGRAPHS BY TOM JOHNSON, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
Casey Casey(ケイシー ケイシー)
誰にでも、着古して柔らかく体になじみ、それなしには生活できないような服がある。たとえば大学時代から着ているカシミアのカーディガン。ベルベットのように柔らかくなったのに一度も捨てようとしないパンツ。ギャレス・ケイシーが目指しているのは、こういった服だ。
パリに拠点を置くブランド、「ケイシー ケイシー」のゆったりとしてイージーなシルエットの服について、「新しさは必要ない」と彼は言う。「派手だったり、目を引いたりする必要もない。『なんて気持ちのいい着心地なんだ!』って言ってもらうのが目標なんだ」。そのために、「ケイシーケイシー」では、彼が言うところの“生活感”とくすんだ表情を布地に与えるべく、洗い加工を施し、染色し、手作業で仕上げまでを行っている。布地選びも、彼の服作りの重要な要素だ。求めるのは「しっかり織られた構造的な生地」。エジプトコットンやクレープリネン、毛織物などの生地で、合成繊維はけっして使わない。化繊は、こなれ感を出すために手で洗ったり乾かしたり、捻りを加えているうちに歪んでしまうからだ。
ケイシーとそのスタッフは、長期間にわたって自分たち自身で服を試し、その間、徐々に微調整を加えていく。そのフィッティングの作業には膨大な労力が必要だ。だから彼は、一年を通して小規模なコレクションしか展開しない。そこで発表されるのは、一貫したセンスに基づいた、ワードローブに欠かせないアイテムだけ。ウール混のリネンでできた紺色のヘリンボーン織りオーバーコート、洗いをかけたコットンポプリンでできた台形シルエットのブラウスやナイトガウンドレス、大きなポケットのついたキャンディピンクのAラインのワンピースといった服だ。
ケイシーはブライトン大学でファッションとテキスタイルについて学んだ。そして財政的にもクリエーションの上でもインディペンデントな立場を貫く中で、倹約の精神を持ってデザインすること(「僕たちは絶対に布を捨てない」と彼は言う)、そして心のままにものづくりすることを学んだ(「やってみたいと思ったことは何だってやれる」)。2016年、彼はパリ7区に実店舗をオープンした。そこで「小規模のテスト・ランをしたり、遊んだり」し続けるつもりだという。
とはいえ、51歳の彼がファッションに反発しているというわけでは決してない。週末には庭の菜園で過ごし、友人のために料理を作り、飼い犬たちと遊ぶ。そんな日々の生活リズムと実用的なニーズから、彼の服は生まれるのだ。「僕のデザインは、僕自身の働き方の反映だ」とケイシーは言う。「そして、僕がどんなふうに暮らしたいかの反映でもあるんだよ」