BY KANA ENDO
今年のウォッチトレンドや注目トピックスを解説
■トピックス1:2023年のトレンドカラーはパープル
まず今年目についたのが、パープルを纏った時計たち。メンズでは2021年に、パテック フィリップの「ノーチラス」をはじめ、多くの時計ブランドからグリーンダイヤルの時計が発表されたのが記憶に新しいが、今年はレディスウォッチでパープルカラーの時計が散見された。メンズのグリーン文字盤とは異なり、ストラップまでパープルで統一されているのが特徴で、華やかで自由なムードがあふれる。ドレスウォッチだけでなくスポーツウォッチやコンプリケーションにも採用されており、どんなシーンでもシックに格上げしてくれる汎用性の高さもパープル時計の魅力といえるだろう。西洋でも東洋でも高貴な色とされるパープルだが、どの時計からも自信に満ちあふれ、意志のある自立した媚びない女性像が感じられる。現代社会を生き抜く女性たちの相棒やお守りになるような、華やかさと強さを併せ持つパープルウォッチに注目して欲しい。
パテック フィリップ『カラトラバ 4997/200』
ホワイトゴールドケースにミッドナイトブルーの文字盤と同色のストラップが映える現行コレクションのカラトラバに新たに加わったのが、パープルを纏った本作。同心円状に波型模様のギョーシェが施された文字盤に、半透明のパープルラッカーを50層以上も塗装することで、繊細さと奥行きを感じさせる一本に。サテンのような風合いのカーフスキンストラップは、文字盤のカラーと見事にマッチし、華やかで気品のあるドレスウォッチとなっている。ベゼルには76個(約0.55カラット)のラウンドカット・ピュア・トップウェッセルトン・ダイヤモンドが配され、全面ポリッシュ仕上げのローズゴールドケースを際立たせる。またマイクロローター搭載の超薄型自動巻きキャリバー240により7.4㎜という極めてスリムなケースを実現。サファイアクリスタル・バックを通して、洗練された美しいムーブメントを観賞することも可能だ。
ヴァン クリーフ&アーペル『レディ フェアリー ローズゴールド ウォッチ』
ヴァン クリーフ&アーペルの創造性と職人技を誇る人気のコレクション「レディ フェアリー」ウォッチが、装いを新たに登場した。前作はブルーを基調とし、夜空に佇む妖精を描いたが、本作ではプラムを基調とした夕暮れの世界を表現。文字盤は光芒のようにエングレービングを施したマザーオブパールの背景に、パールホワイトから深いプラムへ移り変わるグラデーションで、マジックアワーを見事に描き出す。妖精の羽は、半透明のピンクのプリカージュエナメルの上に、不透明なエナメルを重ねることで奥行きのある質感を創り出し、エッジに添えられたダイヤモンドが煌めきをプラス。ドレスにはサファイアとダイヤモンドがあしらわれ、幻想的なおとぎ話の世界を表した。魔法の杖がレトログラードで分を示し、時刻はジャンピングアワーで示される。プラムカラーの艷やかなアリゲーターストラップがローズゴールドケースと調和し、フェアリーなムードを一層盛り立てる一本だ。
ショパール『ハッピースポーツ』
5つのダイヤモンドが文字盤で踊るショパールを代表するアイコニックなタイムピース「ハッピースポーツ」にも、パープルを纏った新作が加わった。グラデーションを描くマザーオブパール文字盤と、パール調の光沢感のあるアリゲーターストラップ、さらにリューズにはアメシストが輝き、新たな個性をもった「ハッピースポーツ」が誕生した。妖艶な印象が強いパープルだが、ルーセントスティール™ケースとローズゴールドベセルのコンビネーション、ムービングダイヤモンドにより、アクティブで愉しげな印象に魅せているのはさすが。ゆえに、シックな装いはもちろん、カジュアルな装いにも合わせやすく、高貴ながら軽快な腕元を演出する。メゾンの理念であるジョワ・ド・ヴィーヴル(=生きる歓び)を体現するような愉しさに溢れたタイムピースだ。
■トピックス2:洒脱に時を刻むブレスレット型腕時計
パープルウォッチと同じく、今年多く見られたのがブレスレット型のタイムピース。昨今は、レディスでも自動巻きムーブメントを搭載したものやユニセックスで使えるサイズ感の本格機械式時計のリリースも増えている一方で、ストラップを簡単に付け替えることができ、ファッションに合わせて愉しめる時計も多く、二極化していた。今年は後者の流れを加速させる、より自由に時計を解釈した宝飾品的なタイムピースが多く発表されている。そのひとつが、まるでブレスレットのような腕時計だ。ストラップ部分に工夫を凝らすことで、見た目はジュエリーそのものだが、時計としての機能はしっかりと果たしている。以下で紹介するもの以外にも、ショパールやエルメスからストラップがダブルループになったものもリリースされており、ブームの兆しがある。時計でもありジュエリーでもある一本は、遊び心に溢れ、一歩抜きん出たセンスの良さを感じさせる。
カルティエ『ベニュワール』
1912年の誕生以来、さまざまなバリエーションを生み出してきた「ベニュワール」だが、特徴であるオーバル型の文字盤はそのままに、新たなスタイルを纏った一本が登場した。新作はケースとブレスレット部分が一体化したバングルスタイルになり、時計でありながらジュエリーでもあるフレッシュな見た目にイメージチェンジ。ゴールド製の華奢なバングルに合わせ、ケースサイズを小さくし、インデックスのローマ数字もスリムに。カーブしたケースとバングルが手首にしなやかに沿い、快適な付け心地を実現した。無駄を削ぎ落としたライン、明確なフォルム、完璧なプロポーション、洗練されたディテールというカルティエの本質を捉えた新作「ベニュワール」はクラシックなイエローゴールド、肌なじみの良いピンクゴールド、圧巻のフルパヴェを纏った3本で展開する。
ヴァン クリーフ&アーペル『スウィート アルハンブラ ウォッチ』
ヴァン クリーフ&アーペルを代表する「アルハンブラ コレクション」。そのコレクションに加わるのは、ブレスレットに密かに時計を配したジュエリーウォッチの新色だ。新作は、「アルハンブラ コレクション」の象徴である四つ葉のクローバーを文字盤に見立て、ローズゴールドとカーネリアンで構成されたクローバーのブレスレットを纏った。優しい色合いのローズゴールドのクローバーには繊細なギョーシェ彫りが施され、職人の手によって一点一点丁寧に加工されたビーズが周囲を囲む。カーネリアンは、メゾンが好んで使用する素材で、古代よりジュエリーの装飾に用いられてきたもの。色が濃く均一で、表面がなめらかなものを厳選して使用している。ヴァン クリーフ&アーペルのサヴォアフェールを存分に味わえるタイムピースは、リングやネックレスなど、他の「アルハンブラ コレクション」とのコーディネートも愉しめる。
シャネル『コード ココ サイバーゴールド』
宇宙やタイムトラベルをテーマにした2023年のシャネルのカプセルコレクションからは、近未来的な「コード ココ」が登場。キルティング加工を施したゴールドカラーのカーフストラップに、“CHANEL”のメタルパーツが輝き、従来モデルに比べ、よりバングル感が増した一本に仕上がっている。ストラップのエッジに配されたブラックカラーや文字盤のプリンセスカットのダイヤモンドがゴールドカラーと相まって、アールデコ調のグラマラスなムードも感じられる。「コード ココ サイバーゴールド」は、数量限定で販売中。
■トピックス3:シークレット ウォッチで胸元に時を纏う
上述したブレスレットのような腕時計に加えて、今年はネックレスタイプのシークレットウォッチも目についた。ハイジュエリーの世界ではしばしば登場するアイテムではあるが、時計として発表される機会は稀だ。中でもジャガー・ルクルトの「レベルソ・シークレット ネックレス」は、手巻きキャリバーを搭載した本格機械式時計というところが白眉である。シークレット ウォッチは、マニュファクチュールの美的センスとメティエ・ダールがなければ実現できない、限られたブランドのみが作れるアイテムなのだ。人に見せることなく時刻を密かに纏うことができる粋なタイムピースを紹介する。
ジャガー・ルクルト『レベルソ・シークレット ネックレス』
元はポロ競技中、文字盤を保護する目的で作られた反転ケースを備える「レベルソ」だが、その反転ケースを生かし、ジェムセッティングやエナメル装飾、エングレービングなどを施したシークレットウォッチとしても人気を博してきた。そのレベルソから、今年は時を纏うことができるシークレット ネックレスが誕生した。「レベルソ・シークレット ネックレス」は、レベルソのレクタングルケースにダイヤモンドがセットされたチェーンと、オニキスのチャームを配し、ネックレスとして着用することができる。ケースバックには、オニキスとダイヤモンドで幾何学模様が描かれ、文字盤はオニキスで、そこにダイヤモンドをアールデコスタイルで配している。自分以外の人からは文字盤が上下逆さになっているように見えるが、時計部分を目線に持ち上げると時刻を読むことができる仕様に。レベルソ専用の手巻キャリバー846を搭載し、約20カラット、3000個を超えるダイヤモンドを精巧にセッティングしたハイジュエリーのクラフトマンシップと、マニュファクチュールの技術が融合した高貴で壮麗な作品だ。
ヴァン クリーフ&アーペル『ペルレ シークレット ペンダント ウォッチ』
「ペルレ コレクション」からは貴石やオーナメンタルストーンが配されたペンダントトップを回転させると、中から文字盤があらわれるシークレットウォッチが登場した。17世紀のヨーロッパに登場した懐中時計から着想を得ており、さり気なく時間を確認することができるエレガントなネックレス型のタイムピースだ。ルビー、サファイア、エメラルドのカラーストーンを敷き詰めたものと、ジュエリーにはあまり用いられないカルセドニー、ローズクォーツ、ソーダライトをカボションとして取り入れた2種類がラインナップする。特にローズクォーツは、「ペルレ コレクション」には初採用で、柔らかな色調と美しい艶が特徴。カルセドニーは唯一無二の縞模様と半透明の質感を備え、ソーダライトは紫みを帯びた半透明のブルーの奥に不規則な明るい筋が浮かび上がり詩的な魅力をたたえている。いずれもゴールドの繊細なビーズをセットしたケースに、マザーオブパールの文字盤を備え、周囲をダイヤモンドが彩っている。
シャネル:今年は宇宙がテーマ
シャネルはWatches & Wonders 2023で、SFや宇宙旅行、タイムトラベルの世界観に着想を得た全7本の「シャネル インターステラー カプセル コレクション」を発表した。プルミエールやJ12、ボーイフレンドなどの既存コレクションに斬新で手の込んだ装飾を施し、宇宙へのロマンを感じるユニークで遊び心溢れるコレクションとなっている。いずれも数量限定ゆえ、この機会にぜひ手に入れたい。
『プルミエール ロボット』
プルミエールの8角形のケースをロボットの体に見立てたユニークな時計。ロボットのパーツはブラックセラミックやブラックチタン、オニキスで構成され、ロボットの目とジョイント部分にはブリリアントカットのダイヤモンドが配される。ハンド部分にはCの文字を象ったようなセラミックパーツが組み合わされる。ダイヤル部分はブラックラッカーが施され、ロゴと時分針のみでシンプルに仕上げた。高精度なクオーツムーブメントを搭載し、ヴェルヴェットのような質感のラバーストラップがラッカーダイヤルとマッチする。
『プルミエール ラッキー スター』
星型のチャームが流れ星のように揺れ動く『プルミエール ラッキー スター』。ブラックのグリッターラッカーで仕上げられたダイヤルは、アベンチュリンのようにキラキラと輝き宇宙空間を表現する。ケースを52個のブリリアントカットのダイヤモンドが取り囲み、コメット型のチャームには6個のブリリアントカットダイヤモンドが煌めく。手を動かすたびに揺れ動くチャームが、幸運を呼び寄せてくれそうだ。
『J12 コズミック』
文字盤に配されるのは、マドモアゼルやロケット、UFOなどの宇宙モチーフ。そこに12個のブリリアントカットダイヤモンドが配され、星座のように輝く。ダイヤルに施されたスーパールミノバの効果で、暗闇ではモチーフが際立って見える仕掛けも楽しい。ケースとブレスレットに高耐性のセラミックを用い、搭載するのは高精度のクオーツムーブメントかつ200メートの防水機能を備え、日常使いしやすいのも魅力。
ロレックス:コスモグラフ デイトナ以外にも、注目の新作を豊富にラインナップ
2023年はロレックスの人気モデルのひとつ「オイスター パーペチュアル コスモグラフデイトナ」の誕生60周年を迎える節目の年で、コレクション全体をアップデートし注目を集めた。さらに新たなドレスウォッチ「パーペチュアル1908」の登場や、ダイヤルに工夫を凝らしたモデルなど、ディテールやメカの進化だけでなく見た目に愉しいモデルもラインナップし、華やかな新コレクションとなった。
『オイスター パーペチュアル』
オイスター パーペチュアルにカラフルなドットを散りばめた新ダイヤルが追加された。このモチーフは「セレブレーション」と名付けられ、2020年に発表したラッカーダイヤルに用いたカラーである、キャンディピンク、ターコイズブルー、イエロー、コーラルレッド、グリーンの5色で構成されている。ターコイズブルーのラッカーをベースに、黒縁で囲われた様々な大きさのドットが、ポップにダイヤルを彩り、楽しげに時刻を告げてくれる。オイスタースチール製で、31㎜、36㎜、41㎜の3サイズがラインナップ。
『パーペチュアル1908』
今年、ロレックスは「パーペチュアル コレクション」という新しいコレクションを発表した。そのラインナップ第一弾がこの「パーペチュアル 1908」だ。モデル名の1908は、創立者ハンス・ウイルスドルフが、ロレックスをスイスで商標登録した年にちなんで名付けられた。これまでロレックスのドレスウォッチといえばチェリーニが知られていたが、今後は廃盤となる。ドームとフルーテッドを組み合わせたベゼルが特徴的で、インデックスはアラビア数字とファセット加工のアワーマーカーを組み合わせたクラシックなスタイルだ。6時位置にスモールセコンドを備え、その上に沿うように「Superlative Chronometer」の文字が記される。ケース素材はイエローゴールドとホワイトゴールドの2種類、ダイヤルカラーはそれぞれホワイトとブラックの計4モデルがラインナップする。
『オイスター パーペチュアル ヨットマスター 42』
「オイスター パーペチュアル ヨットマスター 42」の新モデルは、強度と軽さを兼ね備えた合金、RLXチタンをケースとブレスレットに採用した。同素材をヨットマスター モデルに採用するのは初となる。RLXチタンはロレックスが特別に採用したグレード5のチタン合金で、非常に軽量で機械的強度と耐蝕性に優れる素材。また、デザインに合わせてポリッシュ仕上げやサテン仕上げを施すことができる点も特徴のひとつで、本作はテクニカルサテン仕上げにより、ステンレススティールとは異なるマットな印象を醸している。両方向回転ベゼルにはマットブラックセラミック製のセラクロムベゼルインサートを搭載。サテン仕上げのブラックダイヤルを備え、約70時間のパワーリザーブを誇る。
ショパール:「サステナブル・ラグジュアリーへの旅」をさらに推進
自社のウォッチコレクションにリサイクルスティールを導入した初のラグジュアリーメゾンであるショパールは、さらにそのコミットメントを推し進め、2023年末までに自社のすべてのスティール製ウォッチに自社開発のリサイクルスティールであるルーセントスティール™を採用することを発表した。このルーセントスティール™は現在80%がリサイクルスティールで作られているが、その割合を2025年までに90%にまで引き上げるという。2018年から自社のすべてのウォッチ&ジュエリーに、エシカルゴールドを使用しており、美しくきらびやかな新作の発表のみならず、責任あるラグジュアリーメゾンの役割を果たしていくことを宣言した。
『ハッピースポーツ』
文字盤で5石のダイヤモンドが踊る「ハッピースポーツ」は、1993年に発表されたショパールを代表する不動のアイコン時計。その「ハッピースポーツ」に新しい25ミリケースのモデルが加わった。コレクション史上、最小となるケース径ながら、華やかなブルー、ピンク、グリーンのダイヤルに加え、ダイヤルと同じカラーリングのダブルループのストラップを纏い、まるでファッションアイテムのように手首を愉しく彩る。ベゼルにダイヤモンドがセッティングされたモデルなど計7モデルが新たに加わった。
『インペリアーレ』
「インペリアーレ」コレクションからはデイ/ナイト表示を備えたコンプリケーションが発表された。ダイヤルにはゴールドを彫金した蓮の花があしらわれ、文字盤上部は24時間で1回転し、昼夜を表示する。蓮の花は「インペリアーレ」コレクションを象徴するモチーフで、1994年に発表されたコレクション最初のモデルにも用いられている。また蓮の花は日の出に開花し日暮れとともに閉じるので、デイ/ナイト表示を備える本モデルに最適なモチーフだ。回転ディスクは、グラデーションのラッカー仕上げが施されたマザーオブパール製で、昼の時間帯はダイヤモンド、夜の時間帯はサファイアがセッティングされ刻々と移り変わる空の表情を描き出す。
『アルパイン イーグル 41 XPS』
今年新たに「アルパイン イーグル」コレクションに加わったのは、スモールセコンド表示を搭載した極薄型モデルの「アルパイン イーグル 41 XPS」。搭載されるムーブメント「L.U.C 96.40-L 」は厚さわずか3.30㎜、ケース厚は8.00㎜に抑えられ、極めてエレガントなスポーツウォッチとなっている。ケースとブレスレットは、80%がリサイクル素材から生成されたルーセントスティール™で、優れた耐久性と高い輝度を誇る。イーグルの虹彩から着想を得た文字盤は、アルプス山脈で二番目の高さで、スイス最高峰のプンタ・デュフール山を抱く山郡、モンテローザにちなんだモンテローザピンク。さらに本作は「アルパイン イーグル」コレクションの中で2本目となるジュネーブシールの認定も受けている。アルプスの自然にインスパイアされ、サステナビリティへのコミットメントも果たす新時代のラグジュアリースポーツウォッチだ。
エルメス:表現する時の連なり
La Finesse Du Temps――テーマは“時の洗練”。時の流れを招き入れることで感情を呼び覚まし、時間の概念から解き放たれるような関係を“時”と築いていくことの表現のひとつとして、時間の表示だけが目的ではないアイテムを発表した。またジュネーブの会場のセノグラフィーはアーティストのクレマン・ヴィエイユが手掛け、エルメスが考える“時の質感”も同時に表現した。
『アルソー プティット リュンヌ』
アベンチュリンを星空に見立て、マザーオブパールの月、アラゴナイトとオパールの惑星に加え、ダイヤモンドの星座が輝く小宇宙を文字盤で表現した一本。アベンチュリンは半透明になるまで磨き上げられ、タヒチ産のマザーオブパールはオーロラのように輝くなど、サヴォワフェールにより立体感と深みが生み出されている。ベゼルには70個のダイヤモンドが配され、1978年にアンリ・ドリニーによってデザインされたユニークなアルソーのケースに静謐な輝きを加える。10時半位置には月の満ち欠けを知ることができるムーンフェイズ機構を備え、文字盤のアベンチュリンの色味とぴったり合わせられたストラップのカラーも見事。腕元の小さな宇宙の中で星たちが煌めくさまが、悠久の時の流れを感じさせる。
『スリム ドゥ エルメス 伝説の馬』
ギャロップする馬の輪郭をドットで表したダイヤルを携えた新作の「スリム ドゥ エルメス」は精密さと調和を兼ね備えた究極のシンプリシティを表す。この馬のシンボルはアーティスト、ブノワ・ピエール・エメリがデザインし、2010年に発表されたシルクスカーフのカレに由来する。カレでは天翔る騎馬がゴールドのドットで表現されており、本作ではその馬を時計の文字盤に蘇らせた。ピンクゴールドの馬が翔るモデルは、エナメル加工を施したダイヤルにレーザーで微細な穴を開け、そこに1678粒のピンクゴールドのビーズをはめ込んだ後、加熱しビーズを固定。ブルーのモデルは、エナメルの層を重ね焼成した文字盤に、ブルーエナメルの結晶を砕き、直径を揃えたパーツをピンセットで配置し、窯で加熱し固定させた。「スリム ドゥ エルメス」のシンプルなケースを52個のバゲットカットダイヤモンドが囲み、躍動感溢れる馬のモチーフを彩る。
『エルメスH08』
「エルメスH08」にビビッドなカラーを纏った新モデルが登場した。オレンジ、イエロー、ブルー、グリーンの4色の編み込みデザインのラバーストラップに加え、秒針や分目盛り、フランジもストラップと同色に。また新作の「エルメスH08」のケースには繊維を編み込んでアルミ加工を施したグラスファイバーや熱硬化性エポキシ樹脂、スレートパウダーから作られた新素材が採用されている。有機的な模様を生み出すケースとマットなセラミック製ベゼル、グレイン仕上げの文字盤など、質感の違いが絶妙なコントラストを生み出し、カラフルなストラップと融合することにより、よりアクティブでモダンな印象となった。
ヴァン クリーフ&アーペル:時を告げるジュエリー
唯一無二の世界観と類まれなるものづくりで、見る者をおとぎ話の世界へ誘ってきたヴァン クリーフ&アーペルのコレクションだが、今年も多くの魅力的な新作が登場した。高い審美眼で厳選された宝石を配したジュエリーウォッチや、伝統的な時計技術とクラフトマンシップが融合したコンプリケーションなど、華やかなラインナップに。また天体がバレエを踊るように動くオートマタと、花と蝶が優雅に舞うオートマタを発表し、その技術力の高さと伝統技術への敬意を示した。時を告げるジュエリーやオブジェで時計の枠を飛び越え、クラシックでありながら新しい、時の流れを愉しむことができるコレクションだ。
『ルド シークレット コレクション』
メゾンの代表作のひとつであるルド ブレスレットの系譜をたどるルド シークレットのハイジュエリーウォッチが発表された。1934年に誕生したルド ブレスレットは、メゾンの創業者のひとりであるルイ・アーペルの愛称にちなんでルドと名付けられたコレクションで、1930年代のエッジィな女性に欠かせないファッションアクセサリーであったベルトのような形状が特徴だ。このシークレットウォッチは、ダイヤモンドまたはピンクサファイアがあしらわれたモチーフを2つ同時に押すと、中からマザーオブパールの文字盤が姿を現すという仕掛け。しなやかなレンガ状のブレスレットは、ひとつひとつ手作業で組み立てられ、繊細に織られたファブリックのようなしなやかさをもつ。
『ペルレ ウォッチ』
2008年に誕生した「ペルレ コレクション」は、美しく磨き上げられたゴールドのビーズを紡いだメゾンのサヴォアフェールを存分に感じられるコレクション。その「ペルレ コレクション」から、タイムピースの新作バリエーションが発表された。ローズゴールド製のケースに収められるのは、放射線状にギョーシェ彫りが施されたマザーオブパールまたはローズゴールドの文字盤。その周囲をアイコニックなゴールドビーズが縁取り、光を受けると絶妙な煌めきと陰影を生み出す。各ウォッチには、交換可能なアリゲーターストラップが付属し、好みに合わせて自由にカラーを選択することが可能。ストラップは簡単に交換ができるので、毎日のコーディネートに合わせられるのも嬉しいポイントだ。
『レディ フェアリー ローズゴールド ウォッチ』
ロマンティックで詩情あふれる世界観で、空想の時間旅行に連れて行ってくれる「ポエティック コンプリケーション」ウォッチ。中でも人気の妖精を用いた「レディ フェアリー」ウォッチが新たな解釈を携え、美しい夕景を描くタイムピースとして登場した。精緻なエングレービングが施されたマザーオブパールの文字盤の背景は、パールホワイトからシャンパン、フューシャ、プラムカラーへと導くグラデーションで夕暮れの空を幻想的に描き出した。マザーオブパールの雲の上に腰掛けた妖精のドレスにはダイヤモンドとサファイアが用いられ、羽は半透明のプリカジュール エナメルと不透明のピンクエナメルを組み合わせ、立体的に表現した。ジャンピングアワーとレトログラードの分表示を備えながらもケース径はわずか33㎜。メゾンの美的感覚と類稀なる技術力が生み出す、まるで魔法のような一本だ。
カルティエ:満を持して復活した伝説の「タンク」
今年のWatches & Wondersで大きな話題を集めたのが、「タンク ノルマル」の発表だ。カルティエを代表する時計のひとつであるタンクの原型とも言われるオリジナルの「タンク ノルマル」をほぼ忠実に再現しつつ、新たに加わったブレスレットも見事な完成度。そのほかにもブレスレットにこだわったモデルも多く見られ、カルティエの美的センスと加工精度の高さを見せつけるコレクションとなった。
カルティエ プリヴェ『タンク ノルマル』
カルティエにとっても時計愛好家にとっても特別なコレクションである「カルティエ プリヴェ」。その7作目に加わったのが「タンク ノルマル」だ。1917年にルイ・カルティエによって制作され、2年後の1919年に販売された「タンク ノルマル」は、その後の「タンク」ウォッチの原型となるモデルで、マニアの間で長年、伝説の時計とされてきた。本作はオリジナルのデザインを踏襲し、面取りされたサファイアガラスが採用されているのが大きな特徴で、「カルティエ プリヴェ」コレクションに初採用となるブレスレットは、サテン仕上げとポリッシュ仕上げが織り交ぜられ、ケースと見事に調和する。その他レイルウェイトラックとシークレットサインが配されるなど、タンクのデザインコードに忠実なディテールも散りばめられる。イエローゴールドまたはプラチナケースのブレスレットモデルの他、アリゲーターストラップモデルや、スケルトンムーブメント搭載モデルなど、全7モデルがラインナップする。
パンテール ドゥ カルティエ『ラ パンテール』
メゾンのアイコンでもある「パンテール」コレクションに新たにジュエリーウォッチが加わった。彫刻作品のように美しく立体的なパンテールの頭部は、2005年に発表したジュエリー コレクションの系譜に連なるもので、野性的で躍動感ある顎部分には、ブラックラッカーが施された文字盤を備える。また新開発のブレスレットもパンテールの俊敏さとしなやかさを表現する。クリエイションスタジオとマニュファクチュールによって開発されたブレスレットは、ヒンジが一切見えない画期的な構造となっており、手首と一体化するしなやかなつけ心地が実現。ひとつひとつポリッシュ仕上げされたブラックラッカーの斑点や、エメラルドまたはツァボライトによる瞳など、卓越したサヴォアフェールが感じられる一本だ。イエローゴールドまたはピンクゴールドに加え、ダイヤモンドをパヴェセッティングした3モデルのラインナップ。
『クラッシュ[アン]リミテッド』
「クラッシュ[アン]リミテッド」は、スタッズ、ビーズ、クル カレなどメゾンが大切にする幾何学モチーフを用いたジュエリーコレクション「クラッシュ ドゥ カルティエ」のデザインコードを採用したプレシャスウォッチ。カルティエのスタイルの特徴である幾何学モチーフや、カラーコントラストを効果的に使っているのが特徴だ。ゴールドのパーツは、サテン仕上げとポリッシュ仕上げが交互に施され、新たに開発されたパープルカラーのバイオレットゴールドのビーズやクル カレが立体感とコントラストを演出。サファイアクリスタルは16面カットされ、グラフィカルでエッジィなスタイルに。イエローゴールド、ピンクゴールドのモデルに加え、ダイヤモンドをパヴェセッティングしたホワイトゴールドモデル、さらに、オニキスやブラックスピネルなどのプレシャスストーンをあしらったジュエリーモデルなど全5モデルが発表された。
パテック フィリップ:複雑機構からジュエリーセッティングまで多方面で高い技術力を見せつけた
24時間で一周する時針と第2時間帯表示を備える「カラトラバ・トラベルタイム 5224」やスポーティな印象の「カラトラバ 6007」などカラトラバ系の新作に加え、20もの複雑機構を搭載し、パテック フィリップの現行コレクションの中で最も複雑な時計である「パテック フィリップ・グランドマスター・チャイム 6300」の新作が発表されるなど、幅広いラインナップとなった2023年のWatches & Wonders。その中からレディスモデルの新作を紹介する。
『カラトラバ 4997/200』
パテック フィリップはシックなパープルの文字盤とストラップが印象的な新作「カラトラバ 4997/200」を発表した。ドーム型の文字盤は、同心円状の波型エンボス模様が施され、角度によって様々な表情を見せる。プレートには半透明のパープルのラック塗装が50層以上も施され、文字盤に奥行きと立体感が生み出されている。その上には、パウダー仕上げのアロー型インデックスとローズゴールドのドフィーヌ型時分針が配され、まるで浮かんでいるかのようだ。ベゼルには76個のラウンドカット・ピュア・トップウェッセルトン・ダイヤモンドがセッティングされ、文字盤と全面ポリッシュ仕上げのケースを際立たせる。文字盤の色合いが、サテンのような風合いを持つパープルのカーフスキンストラップと見事にマッチし、手首を華やかに彩るタイムピースだ。
『ゴンドーロ・セラータ 4962/200』
2006年に発表され、イブニング・ウォッチに現代的な息吹を与え独自性溢れるデザインの「ゴンドーロ・セラータ」が、わずかに大きくなったケースサイズのローズゴールド・バージョンとしてカムバックした。ケースには94個のブリリアントカット・スぺサルタイトが並び、12時と6時位置は《コニャック》、9時と3時位置は《マンダリン・オレンジ》によるダブルカラーのグラデーションを描く。スぺサルタイトによるグラデーションと、手首にしなやかに沿うようにカーブした時計のフォルムが合わさることにより、流れるような優美なフォルムが強調される。ラック・ブラウンの文字盤は、マット仕上げとポリッシュ仕上げのコントラストにより描かれた花のモチーフで彩られ、シックで気品ある世界観を創り上げた。
『アクアノート・ルーチェ 5268/200』
2010年に発表された自動巻きムーブメント搭載の「アクアノート・ルーチェ」は2021年にリデザインされ、ひと回り大きくなった。その「アクアノート・ルーチェ」に、2015年から2019年に製作されたステンレススティール仕様の「アクアノート・ルーチェ」で人気を博した、グレートーンのトープカラーの文字盤とストラップの組み合わせを再び採用した。ねじ込み式リュウズを備えた12気圧防水のローズゴールドケースは、上面のポリッシュ仕上げと側面のサテン仕上げのコントラストが際立つデザイン。縁を斜めにカットし、ポリッシュ仕上げを施すことで丸みを帯びた特徴的な8角形のベゼルには、48個のピュア・トップウェッセルトン・ダイヤモンドが配されている。文字盤には、アクアノート・エンボス・パターンが施され、同様のパターンのコンポジット・バンドは優れた耐性と快適な着用感を誇る。