身にまとうものには、その人の思いや考え、ときに主義や信条や、生きる時代の空気までも映し出されるもの。自他ともに認める稀代のモード愛好者、ファッションライター・栗山愛以が、自らの装いや物欲の奥にあるものを、ゆるゆると紐解き覗き込む

TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA

 暑い日が続いています。先月「この季節はTシャツを着るしかない」と書きましたが、今回はクローゼットの中から、ロックTシャツをご紹介したいと思います。

 ロックTシャツ、またはバンドTシャツというと、あるニューウェイブのバンドのTシャツを着用した姿をパパラッチされた海外セレブに、長年のバンドのファンから「これまで絶対にバンドのことを知らなかったはず」「本当に好きならお気に入りの曲を教えてほしい」といったコメントが殺到して炎上したという記事を見たことがありますし、ある調査では、「プリントされているバンドの曲を10以上は知っている必要がある」「そのバンドのライブで着用することが最重要」といった意見が大半だったそうで、音楽に詳しいわけではない私にはなかなかハードルが高い感じはします。いやでも、ロックTシャツにはインパクトのあるグラフィックのプリントが豊富で、メタル系でよく描かれているおどろおどろしい悪魔なんかはきらいではない。何とかして着たいのです。

 そこで手に入れたのが2021-22年秋冬ジュンヤ ワタナベのロックTシャツです。

 コロナ禍でパリでの発表を断念し、東京の大型ライブハウスでショーが行われたシーズンでした。大音量の名曲と共に伝説のロックバンドが代わる代わる登場してくるような演出で、公認ヴィジュアルをプリントしたTシャツをパワフルに解体再構築した服がラインナップ。いろいろと我慢を強いられていた頃だったので、その弾けた姿勢が爽快で、ぜひほしいと思ったのです。

 エアロスミス、クイーン、ザ・フー、キッス、セックス・ピストルズなどの有名バンドが取り上げられ、私が選んだのはAC/DC。ジュンヤ ワタナベは袖をレザーにし、首元にシルバーのチェーンを付け、オーバーサイズのシルエットに仕上げています。こちらを手に入れるのに「ショーに感銘を受けたし、デザインが好き」という理由でも十分な気がしますが、私は通でもないのにプリントされているバンドについても吟味しました。なぜなら、私はファッションはコミュニケーションだと捉えていますので、よくわからないものは身につけたくないからです。AC/DCについては、学生の頃、ファッションもこだわり抜かれているミュージックビデオが面白くてMTVを熱心に観ていた時期があり、往年のロックを特集する番組で流れていたギタリスト、アンガス・ヤングが小学校の制服のような衣装でステージを飛び回っている映像は記憶にある、といった程度ですが、服に取り上げられている題材は、門外漢でもどういうものなのか知ったうえで自分なりに納得して手にしたい。ブランドや素材、デザイン、シーズンのテーマなどと共に把握しておいて、何かしら語れるようにしておきたいのです。

 ちなみにこのTシャツにジーンズ+スニーカーだとAC/DCファンを文字通り「装っている」感じになってしまうので、着用する時は違ったテイストのアイテムを合わせるようにしています。最近では派手なプリントのレギンスにエレガントなスリングバックシューズ、というスタイリングが好評でした。

画像2: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.6 ジュンヤ ワタナベのロックT

 ともあれロック好きによる「ロックT着用ルール」は、Tシャツを着ることに大変気合いを入れていると言えます。私と服に対する熱量は一緒のはずですから、できれば「AC/DC の曲を10曲以上知っているか」「ライブに着て行ったか」と問い詰めないでほしい。互いのTシャツにまつわる話を語り合えるといいな、と思っています。

画像3: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.6 ジュンヤ ワタナベのロックT

栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama

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