身にまとうものには、その人の思いや考え、ときに主義や信条や、生きる時代の空気までも映し出されるもの。自他ともに認める稀代のモード愛好者、ファッションライター・栗山愛以が、自らの装いや物欲の奥にあるものを、ゆるゆると紐解き覗き込む

TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA

 先日ロエベの巨大なトートバッグを購入しました。
 幾何学的なデザインが特徴のアイコンバッグ「パズル」のトート型で、折り紙のようにフラットにたたむことができますが、持つと凹凸のある立体的なフォルムに。なかなかのボリュームがあります。

画像1: 我、思う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.11 ロエベの巨大トート

 上質なレザーとその加工技術を誇るロエベは、2013年からクリエイティブ ディレクターを務めるジョナサン・アンダーソンが生み出す独自のスタイルも魅力です。元々不思議な世界観を描くタイプのデザイナーでしたが、21〜22年はコロナ禍やウクライナ危機などによる不穏な世の中だったからか(残念ながらいまだに不穏ではありますが…)不条理な表現が爆発、23年春夏からはおなじみのスタンダードアイテムをシュールに見せていく方向性になっていて目が離せません。今貴重な存在となってきた、個性が際立つスターデザイナーの1人です。

 さて、こちらのバッグはぼかしの加工やフェザーやドレープによる曖昧な輪郭や揺れる動きが印象的だった23-24年秋冬のランウェイで登場したのですが、身長180cm近くはあろうモデルさんたちでも手をおろして持つと底が地面についてしまいそうな高さ。私ならヒールをはいてもぎりぎり。気を抜いたら引きずってしまいそうです。

画像2: 我、思う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.11 ロエベの巨大トート

 なぜそんなリスクを承知のうえで手に入れたのかと言えば、それはこの連載で毎度唱えているような気がしますがスタイリングにインパクトを与えてくれそうだからです。シンプルな格好でもこれを持っていれば「おお、旅にでも出るんですか」と驚かれること間違いなしの存在感。ゆえに、先方を驚かせてしまうと共に置き場所にも気を使わせてしまいそうでかしこまった席には持参しにくく、時と場合を考える必要があります。

画像3: 我、思う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.11 ロエベの巨大トート

 ただ、バッグが大きい、というのは私には大歓迎の要素です。昨今バッグはどんどん小さくなる傾向にあり、リップくらいしか入らないようなマイクロサイズも珍しくなくなってきていますが、現金やクレジットカード、スケジュール帳、紙資料、ノートパソコンや時にはプラスでiPadも持ち歩くことがあるスマート化が進まない私には、丈夫で大きなバッグがありがたい。ファッションアイテムには珍しく機能性を求めています。

 それに、バッグは毎シーズン新作が発表され、一番売れると言ってもいいブランドの主力アイテムで、ステイタス・シンボルとして重要視する人々が多くいた時代もありましたが、私にとってはやっぱり主役は服。バッグはあくまでもスタイリングの最後に選ぶ脇役であり、さらに機能性もわりと考えるのでほぼデザインで選ぶ服にかけるパワーとはかなりの差があります。バッグについては取っ替え引っ替えしたいという意欲があまりなく、機能とデザインに納得のいく精鋭たちを長く使うスタンスなのです。

 そんな中、機能性を逆手に取ったような(⁈)このロエベのバッグは貴重な存在です。極端に大きいことがデザインの一環にもなっていて、一石二鳥。言うまでもなくレザーも軽くて柔らかい。日常に気軽に使えるわけではありませんが、様子を伺いながらたくさんの荷物を持ち運びたいと思います。

栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram@itoikuriyama

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