身にまとうものには、その人の思いや考え、ときに主義や信条や、生きる時代の空気までも映し出されるもの。自他ともに認める稀代のモード愛好者、ファッションライター・栗山愛以が、自らの装いや物欲の奥にあるものを、ゆるゆると紐解き覗き込む

TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA

 10月30日、フィービー・ファイロが自身の名を冠したブランドのコレクションが発売されました。。

 フィービーとは2010年春夏〜18年プレフォールまでセリーヌを手がけたことで有名な伝説のデザイナー。10年代前半に起こった、シンプル&シックで肩の力を抜いたような感じに見える「エフォートレス」ブームを牽引していました。セリーヌを辞めた後はモード界から姿を消し、その間「フィービーロス」という言葉が生まれ、かつて彼女のもとで働いていた「フィービーチルドレン」たちが脚光を浴びることになります。約5年ぶりの待ちに待った復活。私も早速サイトをチェックした次第です。 

 ところで、私の趣味嗜好はこれまでご紹介してきたように気合いを入れて着飾る方向性です。そんな私がなぜ彼女に関心を持っているのかといえば、着心地度外視で攻めているデザインもたびたび発表し、それを「エフォートレス」と評されるとおり力を抜いて提案していたからです。パンチのある服を取り入れるとこてこてな印象になりがちですが、さらっと着るほどかっこいいことはありません。

 新ブランドを例にとると、シンプルなデザインに混ざり、ファーのようなディテールがパンツの前面を覆っていたり、ハイウエストのパンツの後ろに裾からウエストまでファスナーが走っていて全開すればお尻を見せて着ることだってできたり、レザーのボンバージャケットの前がタッセルでぎっしり埋め尽くされていたりといった迫力満点のアイテムもラインナップしています。そして、アラフォーのダリア・ウェーボウィはじめ年を重ねたモデルも起用され、そっけないヘアメイクで大胆なデザインも堂々と難なく着こなしている。老いや体型をごまかそうとか、周りに良い印象を持ってもらおうとか、そういう卑屈な(?!)発想は一切感じられません。皆自信に満ち溢れていて、「かっこいい!私もこういう世界の中の人になりたい!」と思ってしまうのです。

 が、残念なことにフィービー ファイロの販売先はオフィシャルサイトのみで、今のところ日本には配送してもらえません。フィービーの世界には入れてもらえないのか、と悲しくなりますが、いずれ配送エリアに含まれることを願いつつ手元にある彼女が手がけたセリーヌで我慢するしかない。巷で言う「Philophiles(ファイロ狂)」とまではいきませんが、わりと持っているセリーヌのアイテムの中で思い出深いものといえば、2014年春夏のスカートでしょうか。

画像1: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.9 セリーヌのシルクのプリーツスカート

 このシーズンは珍しくカラフルで、グラフィティのような柄にインパクトがありました。当時もやはり「この世界に入りたい!」とお店に乗り込みお目当てのプリーツスカートを手に取ったのですが、シルク製であることが判明。天然素材はプリーツ加工には向かないことが頭をよぎり、お店の人からも「いずれプリーツがとれますのでご了承ください」と念押しされたにも関わらず、どうにもこの世界の住人になりたくて決して安くはないのに買ってしまったのでした。

画像2: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.9 セリーヌのシルクのプリーツスカート

 案の定今やうっすらとしかプリーツが残っていませんが、もうフレアスカートとして楽しめばいいかと割り切っています。新ブランドではレザー使いが印象深かったので、今着るならライダースと合わせるとか。

画像3: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.9 セリーヌのシルクのプリーツスカート

 アイテムそれぞれに魅力があるのはもちろんですが、世界観で圧倒させてこの中の何かがほしいと思わせるのはブランド力があるということ。フィービーのすごさを改めて思い知らされています。

栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama

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