さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。連載第29回は、ミュージシャンの尾崎世界観さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

「クリープハイプ」のボーカル・ギターとして、異世界にドボンと溺れさせるような桁外れの熱量と覇気を放つ尾崎さん。またある時は小説家として、斬新かつ鋭利な視点で、みずみずしくリズミカルな言葉で文章を綴る。唯一無二の表現者である尾崎世界観さんの、独特すぎるおやつ考とは?

「甘いおやつが大好きなんです。ただ、味覚が少し変らしく、甘いものはメインの食事よりも前に食べたい派。そのほうがそれぞれの良さが引き立って、より美味しく味わえるんです。その感覚に気づいたのは幼少期でしたが、習性が強まったのは親元を離れ、一人で自由に食べられるようになってから。当時、つき合っていた人にご飯を作ってもらう時は、料理ができあがるタイミングを見計らっておやつを食べようとすると注意されることも多く、内心いつも、『最高の状態でご飯を食べたいだけなのに』と思っていました(笑)」

「例えばコンビニでも、主食を買ってからデザートを何にするか考えるのが一般的かもしれないけれど、自分は逆なんです。甘いものを決めてからメインを選ぶ。食前には、その寄り添ってくれるようなネーミングもいい『セブンプレミアム きみだけのプリン』。あとは杏仁豆腐やシュークリーム、わらび餅も好きですね。ちなみにレコーディングの日は、事務所の社長がおやつを用意してくれるんですけど、お弁当を食べる前にメンバーにそれを差し出すと、『いやいやいや(苦笑)』と断られます」。尾崎さんにとっておやつは、「元気の素でもあり、始まり」なのだと言う。

画像: 「セブンプレミアム きみだけのプリン」¥170.64 香料・着色料を使わず、卵と牛乳の魅力を生かしたカスタードプリン。スチームオーブンで焼き上げることで、とろりとしたなめらかさを実現 セブン‐イレブン・ジャパン TEL.03(6238)3711

「セブンプレミアム きみだけのプリン」¥170.64
香料・着色料を使わず、卵と牛乳の魅力を生かしたカスタードプリン。スチームオーブンで焼き上げることで、とろりとしたなめらかさを実現
セブン‐イレブン・ジャパン TEL.03(6238)3711

 思いも寄らぬ方向からおやつ考が飛び出す。もの作りに関してもやっぱり独特で、「映画や舞台、ライブなど、誰かのすばらしい表現を見ると、面白いな、うれしいなと思う反面、『もらった感動を、自分の作品にも活かしたい』という思考が先立ち、ソワソワしていてもたってもいられなくなる」。その時にふわっと沸き上がるのは、雰囲気や空気的な曖昧模糊なもの。「それが一体何なのか? 自宅の床に寝っころがってギターを弾いて模索しながら、萎まないうちに削ったり整理しながら、メロディとして形にとどめていく感じ」

 歌詞に関しては、「『よし、書くぞ』と気合いを入れて机に向かうわけではなく、ダラダラしながらスマホのメモに打ち込む。あえて関係ない事、例えば本やテレビ、ネットのニュースを見たりエゴサーチをしながら、ちょっとだけ集中して書く。わざと不真面目にやるということに真面目というか、やるべき事の逆サイドにあるどうでもいい行動で助走をつけたり、思考や感情を振ったり。自分が書く歌詞は、あえて真逆のことを並べてその間の感覚を表現することも多いから、味覚もそれに近いのかもしれません」。ミクロとマクロ、大胆と緻密、善と悪、火傷しそうなほど燃えているのに冷たい、甘いのにしょっぱい……相反するものがない交ぜになり、それが摩訶不思議なバランスで均衡を保っている。

「その点で言うと、甘くてほんのり塩気もあるブルボンの『エブリバーガー』は大好きですね。バンズの形をしたビスケット生地の中に、チョコレートが挟まれていて……。店で見かけると必ず買っていて、手元にあれば瞬く間に無くなってしまう。口福そのものです(笑)。それと似た観点で言うと、パンケーキでソーセージパティやチーズを挟んだ『マックグリドル® ソーセージエッグ』も好みです」

画像: ブルボン「エブリバーガー」/オープンプライス(店頭想定価格¥150・税別) 誕生はハンバーガーが大流行した1985年。ビスケットとチョコレートをハンバーガーのように見立てた一口サイズのチョコスナック。「あと、『きこりの切株』も好きです」 ブルボン お客様相談センター TEL.0120-28-5605

ブルボン「エブリバーガー」/オープンプライス(店頭想定価格¥150・税別)
誕生はハンバーガーが大流行した1985年。ビスケットとチョコレートをハンバーガーのように見立てた一口サイズのチョコスナック。「あと、『きこりの切株』も好きです」
ブルボン お客様相談センター TEL.0120-28-5605

 CDの衰退、サブスク解禁、コンプライアンス問題……どんどん変わる音楽業界。「10年単位で切り取れば、ずっと大きく変革している。表現するうえで気を遣うことは増えたけれど、それはそれで面白いことだし、意識せずとも無意識に合わせたり、逆に反発したりすることもある。自分の感覚でしかやれないし、これまでもこんな風にしたいと目標を立てながら、その通りにならなかったことが多い。もっと器用にやれたらいいのに、どうしてもできないから、そこは気にしなくなりました。いい意味であきらめがついたというか。結局は“自分たちが楽しい”ことが一番だから、そこに全力を注ぎたいんです」

 歌詞でも、メロディでも、文章でも。異世界に連れ込み、人間の奥深いところに潜む恥部をえぐってヒリヒリさせたり、かと思えば背中をさすって慰めてくれたりもする。聞く人や読み手がじゃれ合っているかのような感覚に陥る尾崎さんの作品は、魂を込めて命懸けで紡いでいるからこそ、心が揺さぶられ、胸に迫り、刺さる。

 自分がいいと思うことを、心血を注いで好きにやっていく。するといつしか誰にもマネできない物語が生まれる。それを体現する尾崎さんが描く世界観はとにかく、味わい深く、尊いのだ。

画像: 尾崎世界観(SEKAIKAN OZAKI)さん 1984年11月9日東京都生まれ。4ピースバンド「クリープハイプ」として2012年にメジャーデビュー。赤裸々な歌詞や独特の表現法、心を突き動かすメロディ、スモーキーなハイトーンボイスが魅力。最新曲は、「本当なんてぶっとばしてよ」。 3月にはアリーナツアー2023年「本当なんてぶっ飛ばしてよ」を開催。小説家・エッセイストとしての活躍も目覚ましく、2016年には初小説「祐介」(文藝春秋)を上梓、「母影」(新潮社)では芥川賞の候補作に。2023年より、読売新聞読書委員に就任。公式サイトはこちら ©primitive

尾崎世界観(SEKAIKAN OZAKI)さん 
1984年11月9日東京都生まれ。4ピースバンド「クリープハイプ」として2012年にメジャーデビュー。赤裸々な歌詞や独特の表現法、心を突き動かすメロディ、スモーキーなハイトーンボイスが魅力。最新曲は、「本当なんてぶっとばしてよ」。
3月にはアリーナツアー2023年「本当なんてぶっ飛ばしてよ」を開催。小説家・エッセイストとしての活躍も目覚ましく、2016年には初小説「祐介」(文藝春秋)を上梓、「母影」(新潮社)では芥川賞の候補作に。2023年より、読売新聞読書委員に就任。公式サイトはこちら

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