注目のスポットや地元の著名人を伴って、輝けるパリの街が颯爽とカムバック。「素晴らしい1年になりそうです」とはあるシェフの弁だ

BY SETH SHERWOOD, PHOTOGRAPHS BY JOANN PAI, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

画像: 数世紀前に建ち、かつてはパリの証券取引所だった円形の建物を利用した美術館「ブルス・ド・コメルス-ピノー・コレクション」。リノベーションを担当したのは、日本の建築家である安藤忠雄。この2年の間にパリには多くの文化施設がオープンしたが、そのうちのひとつだ

数世紀前に建ち、かつてはパリの証券取引所だった円形の建物を利用した美術館「ブルス・ド・コメルス-ピノー・コレクション」。リノベーションを担当したのは、日本の建築家である安藤忠雄。この2年の間にパリには多くの文化施設がオープンしたが、そのうちのひとつだ

 多くの受賞歴を誇るシェフのティボー・ソンバルディエにとって、未来は輝かしい様相を呈している。右岸にあるレストラン「アントワーヌ」── ソンバルディエ氏が作る独創的なシーフード料理で、ミシュラン1つ星を獲得 ── は昨年、新型コロナウイルス感染症に伴う一連のロックダウンや飲食業への規制を受けて、財政危機に陥った。オーナー陣は、オープンから10年以上がたち、フランスの政治家からテニス選手のセリーナ・ウィリアムズまであらゆる人が訪れたこのレストランの売却を決めた。

 しかし今年4月のある日にソンバルディエ氏と会ったとき、最近のパリのダイニングシーンや、彼の最新プロジェクトである左岸のシックなビストロ「レ・パリジャン」について語る彼の口ぶりは、実にポジティブなものだった。

「みんな最新スポットに行きたがっています」と彼は言った。「パリは順調にいっています。人出も多いし、私は楽観的に見ていますね」

「素晴らしい1年になりそうです」と彼。

 近頃のパリでは、こういう言葉をしょっちゅう耳にする。マスクは必要なくなり(病院や老人ホームを除いて)、レストランやバー、美術館、コンサート会場、公共交通機関では、もうワクチン接種の証明も必要ない(新型コロナウイルス感染症対策についての最新情報は、パリ市観光局のウェブサイトをチェック)。マレ地区やサンジェルマン・デ・プレ地区の周辺で週末を楽しむ人出に囲まれていると、2019年の世界に戻ったのではないかと錯覚しそうになるほどだ。

画像: セーヌ川沿いに建つ、ベル・エポックの時代のクラシックなデパート「サマリテーヌ」。この19世紀の建物は、構造上の問題のため2005年にクローズ。以降約16年間は閉鎖されたままだった

セーヌ川沿いに建つ、ベル・エポックの時代のクラシックなデパート「サマリテーヌ」。この19世紀の建物は、構造上の問題のため2005年にクローズ。以降約16年間は閉鎖されたままだった

デパート「サマリテーヌ」の復活や話題のアートスポット

 パリで待望されていた、デパート「サマリテーヌ」の復活。セーヌ川沿いに建つ、ベル・エポックの時代のクラシックな建物で、オーナーは国際的ラグジュアリー企業のLVMH(そのCEOであるベルナール・アルノーは、フランス第一位の資産家だ)。この19世紀の建物は、構造上の問題のため2005年にクローズ。以降約16年間は閉鎖されたままだった。

 新生サマリテーヌがお披露目されたのは2021年6月。複数の建物からなる多層階のデパートは、アール・ヌーヴォーとアール・デコの装飾に包まれ、まさにお買い物の大聖堂。十数件のレストラン、5つ星ホテル「シュヴァル・ブラン パリ」(5月現在でダブルルームが1,450ユーロ、約1,500ドル)、スパ、香水専門店、VIPラウンジ、全部で700ほどのブランドを扱う数々のショップが集まっている。あまりの規模に、探検するにも少々ひるんでしまいそうなら、90分間のガイドツアー(15ユーロ)もあるので検討してみてはいかがだろう。

 フランス第二位の資産家フランソワ・ピノーも、負けじとばかりに昨年、歴史的建造物の中に堂々たる彼自身の美術館をオープン。数世紀前に建設され、かつてはパリの証券取引所だった円形の建物を利用していて、その名も「ブルス・ド・コメルス ー ピノー・コレクション」(入場料は14ユーロ)。日本の建築家である安藤忠雄がリノベーションを担当。ピノー氏の所有する膨大な量の現代アートコレクションの中から、ジグマー・ポルケの油彩画、ダン・フレイヴィンの蛍光灯を使った作品、 ウルス・フィッシャーの立体作品などが収められている。

画像: 現在は「ブルス・ド・コメルス ー ピノー・コレクション」となった円形の建物。ピノー氏の所有する膨大な量の現代アート作品が展示されている

現在は「ブルス・ド・コメルス ー ピノー・コレクション」となった円形の建物。ピノー氏の所有する膨大な量の現代アート作品が展示されている

 ファッション界の著名人、アニエス・ベーはまた別のやり方で行くことに。パリの中では地味な存在の13区にある白いモダンな建物を選び、自らの広範囲に及ぶアートコレクションを展示することにした。その所有作品は、マン・レイの写真からフューチュラによる地下鉄の落書き風グラフィティまで多岐にわたる。このアートギャラリー「ラ・ファブ」(入場料は7ユーロ)では、「L’Enfance dans La Collection Agnes B(アニエス・ベー・コレクションの中の幼年期)」と題した展覧会を開催中(7月24日まで)。絵画やドローイング、写真、立体作品、インスタレーションを通して、子ども時代を見つめるというものだ。

パリの定番スポットはリアル&バーチャルで再現

 パリの二大花形美術館、ルーブル美術館(入場料17ユーロ、約18ドル)とオルセー美術館(14ユーロ)もしっかりオープン。

 特別展の中でも注目すべきが、かつては王宮だったことでおなじみのルーブル美術館で開催される「ルーブルのイヴ・サンローラン展」。フランス人ファッション・デザイナーであるサンローランの手がけた珠玉の作品を展示している(9月19日まで)。さらに「2つの土地のファラオ展」は、紀元前8世紀のヌビアとエジプトの王であったピアンキ(ピイとも呼ばれる)を取り上げたもの(7月25日まで)。セーヌ川の向こう岸のオルセー美術館では、「ガウディ展」を開催中(7月17日まで)。スペイン人建築家の業績を、アートワーク、家具などを通して幅広くたどる回顧展になっている。

 2019年に火災に遭って以来、再建のために閉鎖されたままのノートルダム大聖堂。あの象徴的な中世ゴシック建築の代わりに、バーチャル・リアリティで再現された大聖堂を訪れることができる。ラ・デファンス地区で開催される「Eternelle Notre-Dame(永遠のノートルダム)」と銘打たれた45分間の“ツアー”(チケットは1枚20.99ユーロ)は、中世から現代までの大聖堂の姿を、デジタル化して3D映像の形で完全再現。来場者にバーチャル体験させてくれる。

画像: レストラン「レ・ゾンブル」から見たエッフェル塔の眺め

レストラン「レ・ゾンブル」から見たエッフェル塔の眺め

パリの一流フレンチ「レ・ゾンブル」とグルメなファストフード

 食に関しては、ケ・ブランリー ジャック・シラク美術館の最上階にあるレストラン「レ・ゾンブル」でなら、どこよりも高尚で新鮮な体験ができそうだ。ここはフランスの建築界随一の著名人と、この国でもっとも名の知れたシェフの技の共演が楽しめるレストランで、建築家のジャン・ヌーヴェルが設計し、現在はアラン・デュカスのチームが厨房の指揮を執っている。前衛的なガラス屋根のダイニングルームでは、110ユーロでフランスの伝統的なディナー(ホワイトアスパラガス、フォアグラ、鴨胸肉など)が食べられる。ヌーヴェル氏のデザインによって際立つ、移りゆく自然光の陰影に包まれながら味わうフレンチは格別だが、何と言っても最大の見どころはエッフェル塔の眺めだ。

 デュカス氏をはじめとするパリ料理界のスターたちは、ストリートフードやファストフード、デザートをレベルアップさせるような新しい店づくりにも余念がない。パリ中のお手ごろな食べ物を楽しみたいなら、有名シェフのヤニック・アレノが始めた高級グリル「バーガー・ペール・エ・フィス・パー・ラレノ」の看板メニュー(15ユーロ)と、リアリティ料理ショー『トップ・シェフ』 の審査員であるミシェル・サランによる新しい店「クロックミシェル」の、ボリューム満点のクロックムッシュ(8.50ユーロ)を試すべき。デザートには、バスティーユ地区にできたデュカス氏による初のアイスクリームショップ「ラ・グラス・アラン・デュカス」でソルベ(6.50ユーロ)などはいかがだろう。また、人気レストラン「セプティム」のシェフ、ベルトラン・グレボーが最近この地に開店したペストリーショップ「タピスリー」の焼きたてシュークリーム(2ユーロ)もおすすめだ。

画像: 「ホテル パラディソ」の36の客室には、ビデオスクリーンと高性能プロジェクターが設置され、映画ライブラリーも併設

「ホテル パラディソ」の36の客室には、ビデオスクリーンと高性能プロジェクターが設置され、映画ライブラリーも併設

一度は泊まりたいラグジュアリーホテル、映画のようなステイ

 ホテル業界でも大きな動きが進行中。まずは、32階建てで957室を有する巨大なホテル「プルマン パリ モンパルナス」(6月現在でダブルルームは280ユーロ)がオープン。さらにおしゃれなジョルジュ・サンク通り沿いには、76室を有し最上階には10,700平方フィート(約1,000平方メートル)のペントハウスを備える「ブルガリ ホテル パリ」(1,700ユーロ)も開業した。

 映画館チェーンのMK2が所有するホテル「ホテル パラディソ」(170ユーロ)は、地元のクリエイターたち ── ストリートアーティストのJ.R.やミュージシャンでディレクターのウッドキッド、コーヒーショップ・プロデューサーのマーク・グロスマンといった人々 ── の協力のもとに生み出された。ナシオン広場の近くにあり、36の客室にはビデオスクリーンと高性能プロジェクターが設置され、映画ライブラリーも併設されている。さらに楽しみたい人には、屋上のルーフトップバーと、プライベート利用できるカラオケルームも用意されている。

画像: バスティーユにあるレストラン「パーシル」。アフリカ風のペスカタリアン料理を提供

バスティーユにあるレストラン「パーシル」。アフリカ風のペスカタリアン料理を提供

画像: ベジタリアン向けメニューには、キヌア、エシャロット、唐辛子、ひまわりの種、フレッシュタイムを詰めたレッドオニオンの一皿も

ベジタリアン向けメニューには、キヌア、エシャロット、唐辛子、ひまわりの種、フレッシュタイムを詰めたレッドオニオンの一皿も

心が和む、国際色豊かなパリのレストランやワインバーへ

 もっとこぢんまりとした場所の中からパリの新しいお気に入りを見つけたいなら、野菜を焼く匂いと異国情緒ただよう料理名のアクセントをたどって行くといい。バスティーユにあるレストラン「パーシル」では、ペスカタリアン(魚を食べる菜食主義者)が喜びそうなアフリカ風料理がどっさり載った、キャンドルの灯るテーブルに巡りあえるだろう。ここはシェフのクンピ・ロによるレストランで、メニューにはミカテ(コンゴのドーナツ。細かく切ったタラと紫イモのピューレを混ぜて揚げたもの。22ユーロ)や、トリュフバターやチェダーチーズ、豆腐を使用した贅沢なスイートポテトグラタン(19ユーロ)などがある。

 あるいは、ピガール広場近くのワインバー「ステレオ」のほの暗い店内にたどり着くかもしれない。厳密にはベジタリアン食ではないものの、肉を使用しないこの店のメニューには、肉好きの人だって降参するだろう ── そのメニューは、ローストしてココナッツカレーで味つけしたニンジン(10ユーロ)、グリルして蜂蜜、タヒニ(中東や地中海地方の料理で使われるゴマのペースト)、ヘーゼルナッツ、ザクロの実で味つけたカボチャ(10ユーロ)など ── 料理するのはバングラデシュ出身のシェフ、スワラン・ジョシだ。

画像: ピガール広場近くにあるワインバー「ステレオ」

ピガール広場近くにあるワインバー「ステレオ」

画像: 「ステレオ」のシェフ、バングラデシュ出身のスワラン・ジョシが作るメニューには、ローストしてココナッツカレーで味つけしたニンジンや、ビーツのクリームで味つけしたシーバスのマリネ(写真)などが

「ステレオ」のシェフ、バングラデシュ出身のスワラン・ジョシが作るメニューには、ローストしてココナッツカレーで味つけしたニンジンや、ビーツのクリームで味つけしたシーバスのマリネ(写真)などが

 世界中を旅してまわる航空券が手に入らないと言うのなら、31室を有するホテル「バベル」のカラフルでエスノシックな部屋を予約してほしい。ベルヴィルにあるこのホテルのロビーとレストランは、まるでラジャスタンの野営テントとモロッコのティーサロンをひとつにしたような雰囲気だ(6月現在で1泊135ユーロ)。中東のフムス(6ユーロ)やアレッポのテリーヌ(ラム肉、ドライアプリコット、スパイスを使用。12ユーロ)、クロアチアのワインからなる食事を終えたら、ついこう思ってしまうに違いない、「さて、飛行機のマイルは貯まったかな?」と。

「バベルの塔には、世界中のあらゆる国の人々が集まっていました」と先日、マネージャーのジョアン・ディオニーは言っていた。「このホテルでも、それと同じことをしようとしています」

大人が行くべきフランス パリのおすすめ最新スポット一覧

■注目スポット
サマリテーヌ
Eternelle Notre-Dame(永遠のノートルダム

■アートスポット・美術館
オルセー美術館
ブルス・ド・コメルス ー ピノー・コレクション
ラ・ファブ

■グルメ
レ・ゾンブル
バーガー・ペール・エ・フィス・パー・ラレノ
クロックミシェル
ラ・グラス・アラン・デュカス
タピスリー
パーシル
ステレオ

■ホテル
シュヴァル・ブラン パリ
プルマン パリ モンパルナス
ブルガリ ホテル パリ
ホテル パラディソ
バベル

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