BY HARUMI KONO

ル ブリストル パリに暮らす「ソクラット」はゲストの人気者。同ホテルではペット同伴の宿泊が可能。また、パリの高級子供服ブランド「ボンポワン」とコラボレーションしたスパメニューがあり、親子でトリートメントを受けることができることから、ファミリーフレンドリーなパラスホテルとしても知られている
COURTESY OF LE BRISTOL PARIS
ル ブリストル パリは、1925年、イポリット・ジャメがパリ随一のホテルを作るという志を掲げて創業。ホテル名は、当時、旅の達人として名を馳せたイギリスのブリストル伯爵にちなんでつけられた。1978年、オトカー家に所有権が移り、現在は「オトカー・ホテルズ」としてフランスを中心にヨーロッパ、アメリカ大陸、カリブ海諸島部に合計12のホテルを「マスターピースコレクション(最高傑作)」という名で展開している。

フォーブル・サントノレ通り112番地にあるル ブリストル パリ。大統領官邸エリゼ宮から徒歩2分ほどの距離だ。ゲストには政府の要人が多く、セキュリティも万全。ファーストコンタクトはドアマンの笑顔。回転扉の向こうは夢のようなパラスホテルの世界が広がる
©︎ROMAIN RÉGLADE
ル ブリストル パリ(以下、ブリストル パリ)があるのは、フランス大統領が住むエリゼ宮や世界屈指の高級ブランドが並ぶフォーブル・サントノレ通り。「ブリストル パリの魅力の一つは、このロケーションです。政府の要人、ブランドの上級顧客の方々が数多く宿泊されます」とマネージング ディレクターのルカ・アレグリ氏。この場所はまた、パリ随一のアートの中心地でもある。サザビーズ、クリスティーズといった世界的なオークションハウスをはじめ、名だたるギャラリーがホテルの周りに集まっている。そんな由縁もあるのだろうか、ブリストル パリにはアートの関係を物語る興味深いストーリーがある。

インペリアル・スイートのリビングルーム。320㎡のインペリアル・スイートではジョージ・コンド氏のアート作品とフランスの職人技が融合する。この部屋のために設えた調度品、シルクのファブリックなど、使われているものひとつひとつを、コンド氏とオトカー姉妹が選んだ
©︎FRANCK BOHBOT

インペリアル・スイートのジョージ・コンド氏の作品のひとつは、ピカソの作品にインスパイアされたもの
©︎FRANCK BOHBOT
2025年、創業100周年記念の一環として改装された「インペリアル・スイート」には、世界のアートコレクターたちが最も熱い視線を寄せるアメリカ人アーティスト、ジョージ・コンド氏が深く関わっている。コンド氏は25年ものあいだ、ブリストル パリをパリの自宅兼アトリエとして使っていた。ある夜、彼は大音量で音楽を聴きながら過ごした。その翌朝、階下に泊まっていたオーナーのオトカー夫人はアレグリ氏に「昨夜は騒がしかったですね」と伝えた。
普通に考えればこれは明らかに苦情だ。しかしオトカー夫人は、この件があったことで一晩中音楽をかけている人物に興味を示し、コンド氏の経歴を知り、やがてインペリアル・スイートを共に作ることになったのだ。「人と人との結びつきはオトカー・ホテルズのフィロソフィーのひとつです。コンド氏と夫人のコラボレーションはごく自然な流れだったのです」とアレグリ氏は言う。
アートに重点を置くホテルは多い。その場合、ギャラリーやアートアドバイザーにホテルに相応しい作品の選定を依頼してホテルに飾ることが一般的であるが、ブリストル パリではアーティストがオーナーと共に部屋を一緒に作るプロジェクトを始動させた。現代アートの巨匠がパラスホテルのスイートを手がけたことは大きな話題になった。

一角にはパンサーが描かれたキャビネット。その上にはオトカー家が所有するシャガールの作品が飾られている
©︎FRANCK BOHBOT

落ち着いたトーンのインペリアル・スイートの寝室。ル ブリストル パリの客室は部屋のタイプが違えど、随所にオトカー姉妹のセンスが光り、フレンチシックな洗練さが感じられる
©︎CLAIRE COCANO

ダイニングルームはクラシカルな雰囲気
©︎PHILIPPE GARCIA
ブリストル パリは食の分野でもほかのパラスホテルの追随を許さない。たとえば、ホテルで提供するパンは粉を挽くことから、焼き上げるまですべての工程をホテル内で行っている。チーズの熟成庫、ワインセラーを完備するほか、手打ちのパスタ、専用のラボラトリーで作られるチョコレートなど、一度口にしたらまた食べたいと思うものばかりだ。
メインダイニング「エピキュール(Epicure)」は2009年から16年に渡りミシュラン三つ星を維持する世界最高峰のレストランのひとつ。フランス国家最優秀職人章(Meilleur Ouvrier de France = M.O.F.)を受賞したエリック・フレションシェフが2024年に引退した後、同じM.O.F.のタイトルを持つアルノー・ファイシェフが後継者となり三つ星に輝いている。「サヴォワールフェール(長い時間をかけて培われた知識や技術)の継承もまた、私たちの大切なフィロソフィーのひとつです」と言うアレグリ氏の言葉通り、ブリストル パリではスタッフの採用に時間をかけ、現場の仕事を通して彼らがホテルとともに成長していくことを、フィロソフィーとして重視している。

メインダイニング「エピキュール」は、2009年から16年連続でミシュラン三つ星に輝く。一皿一皿の料理と完璧なサービスは、一生の思い出になるガストロノミーエクスペリエンスだ。ゲストの朝食はこのエピキュールで。ジャルダン フランセ(中庭)を眺めながら優雅なパリの一日が始まる
©︎PIERRE BAËLEN
料飲部門のディレクター、フレデリック・カイザー氏はほかの五つ星ホテルのレストランでキャリアをスタート、ブリストル パリに移籍後はエピキュールで研鑽を積み、2011年にメートル・ドテル(給仕)の分野でM.O.F.に選出された。また、現在エピキュールを統括するディレクター、バンジャマン・フォルメ氏は、ソムリエ、シェフソムリエとして10年以上の経験を有する。ホテル内のブラッスリー、ミシュラン一つ星「114フォーブル(114 Faubourg)」のディレクター、シャルル・フランシェ氏もまた、ブリストル パリでのスタートはサービスの現場だった。「スタッフのなかには40年のキャリアを持つ者もいます。節目の年には、お祝いの場を設けて功績を称えます」とアレグリ氏。

ル ブリストル パリ マネージング ディレクター
ルカ・アレグリ氏 (Mr. Luca Allegri)
イタリア生まれ。ポルトフィーノの伝説的なホテル「スプレンディード」でチーフコンシェルジュをしていた父の背中を見て育つ。19歳よりラグジュアリーホスピタリティ業界へ。アメリカのコーネル大学で学び、「フォーシーズンズ ホテルズ アンド リゾーツ」、「プラザ・アテネ」での要職を経て、モナコの五つ星ホテル「ホテル ド パリ」の総支配人に就任。2016年より「ル ブリストル パリ」のマネージング ディレクター、オトカー・ホテルズのオペレーション担当シニアヴァイスプレジデントを兼任。
COURTESY OF LE BRISTOL PARIS
2025年に創業100周年を迎えたブリストル パリ。100周年という節目についてアレグリ氏は、「ゲストとオーナーへの深い感謝の気持ちと100年の歴史を紡いできた誇りを感じます」という。100年間、オーナーがたった二つの家族だけという稀有なホテルでは、セレブリティを招いて壮大なパーティーを催すのではなく、新旧のオーナー家族が同じテーブルを囲み、大切なゲストをガーデンパーティーに招き、ホテルを心から愛する人々が記念の年を祝った。あくまでも控えめなブリストル パリらしい祝い方だ。
そのブリストル パリが、フランス国内以外で唯一100周年記念イベントを行ったのは東京だった。アルノー・ファイシェフが来日して銀座のレストラン「ロオジエ(L’Osier)」でオリヴィエ・シェニョンシェフと共に特別メニューを振る舞った。そこには食文化の高い日本への敬意が表れている。
日本についてアレグリ氏は、「ブリストル パリが築いてきた文化、ディテール、クラフツマンシップを日本のお客様に感じていただきたいと思っています。そのためにも、ぜひブリストル パリにお越しください」と語ってくれた。

テラス付きの部屋ではパリの空の下で食事を楽しんでほしい。朝食から夕食まで細かいリクエストに快く対応してくれるのもパラスホテルのホスピタリティだ。右手後方にはサクレクール寺院が見える
©︎ERIC MARTIN
Le Bristol Paris
112 rue du Faubourg Saint-Honoré, 75008 Paris, France
公式サイト
髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
公式サイトはこちら
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