「グッチ」や「ラデュレ」とのグローバルなコラボレーションでも知られる画家・ヒグチユウコの個展が現在開催中だ。可愛いけれど、ちょっと怖い。大人も子供も夢中になる想像力はどこからくるのか? 現代のおとぎ話の世界に迷い込んでみたい

BY MICHINO OGURA, PHOTOGRAPHS BY MASAO SUDO

 画家・ヒグチユウコの大規模個展『CIRCUS』が世田谷文学館でスタートした。ほぼ20年という彼女のキャリアを俯瞰する展覧会は、東京では3月31日(日)まで、その後は全国を“巡業”していく。展示をするにあたり、一堂に集められたこれまでの作品数は優に1,000点を超えており、キュレーターがその中から約700点を選出した。大学卒業後、「あなたの絵にはインパクトがある。コンスタントにやっていたら人の目にとまるので活動を続けなさい」という恩師からの言葉を励みに、ヒグチが画家として作品を発表し続けてきた集大成がここにある。

画像: 世田谷文学館の展示会場エントランス

世田谷文学館の展示会場エントランス

「サーカス」と題された本展覧会にはどのような想いがあったのか、これまでのヒグチ作品に登場する想像上の生き物たちがうごめくメインビジュアルについてヒグチはこう語る。

画像: 本展覧会用のメインビジュアル『CIRCUS』 © Yuko Higuchi

本展覧会用のメインビジュアル『CIRCUS』
© Yuko Higuchi

「展覧会のテーマを考えた時に、これまでの作品を総括して“サーカス”というキーワードが浮かびました。サーカスは楽しい気持ちになるために出かける場でありながら、一見すると分からないのですが、映画や小説と同じように、生命にまつわる暗いエピソードや行く場所がなく行き着いた人間たちの物語を秘めていて、仄暗さを感じる一面もある。タブーであるものを見たいという人間の欲求もありますよね。そのギャップや、混沌としたところを表現したくてメインビジュアル《Circus》を描き始めました。普段の制作は、仕事で依頼されたもの以外は描きたいものを描くスタイルですが、《Circus》に関しては最初に用途だけは決めていて。書籍をぐるりと表紙から裏表紙までカバーできる画角で、それがポスターにもなるといいなと考えていたんです。大きな魚に乗って、サーカスのように巡業をしていくイメージなのですが、描いているうちに、あれも描こう、これも描こうとモチーフが増えていきました。小さい頃、絵を描いていると、最初の紙では足りなくなって、どんどん継ぎ足しながら描いていったことがあったのですが、そういう感覚を思い出しましたね。私は決め込んで描いていくのができないタイプなので」。

画像: 会場中央の『カカオカー・レーシング』の空間は、造形作家・今井昌代とのコラボレーション。同タイトルの絵本から飛び出し、いまにも動き出しそうな今井の人形が展示される

会場中央の『カカオカー・レーシング』の空間は、造形作家・今井昌代とのコラボレーション。同タイトルの絵本から飛び出し、いまにも動き出しそうな今井の人形が展示される

 展覧会の構成は、初期作品、絵本の仕事、サーカス、『BABEL』より、こわい絵、和、最近の仕事の7つのパートから成る。企業とのコラボレーションをはじめ、今やヒグチの作品は紙面に描かれたもののみならず、手触りを持った“もの”としての存在感も強い。約700枚の原画展示の見応えもさることながら、造形作家・今井昌代と作る人形や、まさしく“サーカス”のテントに入り込んだような空間づくりなど、原画から抜け出して立体的に迫ってくる演出も本展覧会のみどころ。空間演出もすべてヒグチ本人のディレクションとなり、小さくて緻密な平面世界から、広い空間までも独特の感性で埋め尽くす力と仕事量に圧倒される。

画像: 小さな原画をリズミカルに配置。密度の濃い書き込みに圧倒される

小さな原画をリズミカルに配置。密度の濃い書き込みに圧倒される

 原画作品は実際に目にすると、その小ささに驚く。ただ、この小さな紙にこそ秘密がある。ヒグチは画集『CIRCUS』の挨拶文に「絵を描かない自分というものは想像もできない」という言葉を寄せているが、実際に彼女を知る人は、どんな場所にいても紙とペンを取り出して何か描いている姿を一度は目にしたことがある。どこへでも携帯できて、場所や時間を選ばずに絵を描くことができる。生きている限り描き続けるという制作スタイルが、自然とたどり着いた結果が“小さな紙”なのかもしれない。

画像: 《アリス》2010年 © Yuko Higuchi

《アリス》2010年
© Yuko Higuchi

 展示にはヒグチの原点とも言える作品も選ばれている。ひとつは『アリス』のシリーズ。2014年のインタビューでは、「油絵科に在籍していた大学4年生の時、それまでは油彩で具象画を描いていたのを、支持体を和紙と決めて、色鉛筆やペンとの組み合わせに変えていった」と話し、数ある影響を受けた作家のひとりとして、『不思議の国のアリス』の挿画で知られるジョン・テニエルの名前をあげていた。どこかぬくもりのある和紙の素材に精緻な筆致で描かれた生き物たちを見ると、海外の絵本を眺めているような、不思議な感覚にとらわれるのはそのせいかもしれない。また、裸婦を描いた学生時代の貴重な作品も展示。生き物を捉えるたしかな目とどこかファンタジックな作風は、今の作品にもつながっているので見逃さないでほしい。

 実際に展覧会がスタートした感想を聞くと「ずっと設営に携わっていたので、感慨深さはないのですが。こうして観にきてくださる全ての方々が支えてくださり、こんなに素晴らしい場所で展覧会を開催させて頂くわけですから、感謝しかありません」とヒグチ。

画像: ヒグチと親交の深い音楽デュオ「黒色すみれ」と俳優でパフォーマーの史 椛穂がパフォーマンスを披露したナイトミュージアムの風景。スクリーンではヒグチのライブペインティングが流された

ヒグチと親交の深い音楽デュオ「黒色すみれ」と俳優でパフォーマーの史 椛穂がパフォーマンスを披露したナイトミュージアムの風景。スクリーンではヒグチのライブペインティングが流された

展覧会と同タイトルの画集『CIRCUS』も出版され、会場ではライブペインティングが行われる中、音楽家が演奏するナイトミュージアムが催されるなど、ファンを楽しませる企画もいろいろと用意された。今後、日本各地での開催も控え、広がっていく“ヒグチワールド”から目が離せない。

ヒグチユウコ(YUKO HIGUCHI)
画家・絵本作家。緻密なタッチで描かれた可愛くて少しダークな世界観で、女性を中心に幅広い層から絶大な支持を得ている。個展などを通じて作品を発表する傍ら、『ほんやのねこ』(白泉社)ほか絵本も多数出版。「グッチ」や「ラデュレ」といった国際的企業とのコラボレーションでも話題になるなど、活動の幅を広げている

ヒグチユウコ展『CIRCUS』
会期:~3月31日(日)
会場: 世田谷文学館
住所:東京都世田谷区南烏山1-10-10
開館時間:10:00~18:00 ※ 入場は30分前まで
休館日:月曜
電話:03(5374)9111
入場料:一般¥800円、高校・大学生・65歳以上¥600、障害者手帳をお持ちの方¥400、中学生以下無料
※日時指定入場制
日時指定前売券はローソンチケットで販売中<Lコード:34408>
チケットTEL. 0570(000)777
公式サイト

<今後の開催予定>
兵庫会場 2019年6月15日(土)〜9月1日(日) 神戸ゆかりの美術館
広島会場 2019年9月12日(木)〜11月4日(月・祝) 奥田元宋・小由女美術館
静岡会場 2019年11月9日(土)〜12月22日(日) 佐野美術館
高知会場 2020年2月1日(土)〜3月29日(日) 高知県立文学館
※その他の巡業先も、公式サイトにて順次公開予定

 

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