BY JUN ISHIDA, PORTRAIT BY YOSHIYUKI OKUYAMA
路上から街を撮り続ける写真家、森山大道。そのまなざしはしばしば街をさまよう野良犬にたとえられ、代表作のひとつである犬の写真は森山自身のポートレートとも見える。
森山は現在80歳。朝起きては寝床のある池袋を「カメラ散歩」するのが日課だ。「起きると珈琲が飲みたいし、煙草を喫える珈琲屋まで毎朝カメラ散歩しますよ。西口のロマンス通りを歩いて、調子にのると東口のほうまでね」
カメラ散歩の友は、手のひらに収まるサイズのデジタル・コンパクトカメラだ。森山の写真というとフィルムのイメージが強いが、ここ10年ほどは、日常の撮影はデジタルカメラで行っている。撮影方法はフィルムとデジタルで変わったかと尋ねると、「撮り方は変わらない。ただフィルムのときは撮り終わったらダンボールに入れて、200本、300本たまったらまとめて現像したけれど、今は撮ったらその場で見るし、すぐ消すこともある。フィルムはあとで現像したときに、おっ、と思う面白さがあったけれど、今はそれはないね」と森山。
フィルム、デジタルの違いはあれど、コンパクトなカメラで街をスナップして歩く森山のスタイルは変わらない。それはカメラマンとして独り立ちした60年代からの森山のスタイルで、そうして生み出された写真は国内外で高い評価を受けている。ファッションとは距離をおく森山だが、ファッション界にもファンは多く、デザイナーの故カール・ラガーフェルドはアート界に先駆けて森山の写真を見いだした人物のひとりだ。2001年にカールが出版した『THE JAPANESE BOX』は、60年代末から70年代初頭にかけて東京で活躍した写真家および著述家の出版物を復刊したものであり、森山が1972年に発表した写真集『写真よさようなら』もこの中に収められている。
その後も森山の写真は多くのクリエイターにインスピレーションを与え続け、昨年秋には、サンローランのクリエイティブ・ディレクターであるアンソニー・ヴァカレロが、自らキュレーションするアート・プロジェクト「SELF」の第一弾として森山をフィーチャーした。プロジェクトを森山からスタートしたかったというヴァカレロは、森山の写真について次のように述べている。
「彼の作品は、日本のキラキラした可愛い側面を育むものではありません。作品は本物であり、日本社会のダークサイドを表現しています」
プロジェクトの展示は、パリのパレ・ロワイヤル広場に作られた仮設の黒い箱の中で行われ、内部空間は「東京の夜」をテーマに、森山が新宿・歌舞伎町で男女のモデルを撮り下ろした写真と、東京を写した過去の作品で埋め尽くされた。「ファッションファッションは無理だから、僕のテリトリーのストリートスナップのノリにつきあってくれるならやるよと言いました。夜の新宿にふたりを放り投げてくれればいいと言い、そういうふうに撮っています。展示に関しては、ファッション写真だけを集めずにバラバラにしてというのが唯一のリクエストで、あとはサンローランに任せました」