今回のリストは、近年国際的に注目を集める塩田千春の個展。フランスの現代美術家、クリスチャン・ボルタンスキーの回顧展。そして、ひとりの実業家が形成したアートコレクションの数奇な流転をテーマにした企画展

BY MASANOBU MATSUMOTO

『塩田千春展:魂がふるえる』|森美術館

 同時代的なテーマを据えたスケールの大きい企画展ももちろんだが、森美術館は、特に個展スタイルのエキシビションが面白い。いわゆる大御所に限らず、アジアや日本の重要なアーティストも積極的に取り上げ、それまでの作品や活動も丁寧にリサーチし、その作家像を解き明かしてみせる。現在、開かれている塩田千春の個展『塩田千春展:魂がふるえる』も、その期待を裏切らない充実した内容だ。

画像: 《不確かな旅》 2016/2019年 鉄枠、赤毛糸 展示風景:「塩田千春展:魂がふるえる」森美術館(東京)2019年 PHOTOGRAPH BY SUNHI MANG

《不確かな旅》
2016/2019年 鉄枠、赤毛糸 
展示風景:「塩田千春展:魂がふるえる」森美術館(東京)2019年
PHOTOGRAPH BY SUNHI MANG

 塩田千春は1972年生まれ、ベルリンを拠点に活動してきた。2001年に「横浜トリエンナーレ」に参加したことで日本でも注目を集め、2015年には、現代美術の国際展「ヴェネチア・ビエンナーレ」の日本代表作家に。そこで“赤い糸”を部屋中に張り巡らせたインスタレーションを発表し、世界的な評価を獲得する。

 ただ、その作品をまとめて観られる場は少なかった。新作や代表作はもちろん、初期の作品の資料、また舞台美術などのスピオン・オフ的な仕事にもフォーカスした本展は、塩田千春という新しいスター作家の“隠れた顔”を発見できる、またとない機会になっている。

画像: オペラ公演「松風」の舞台美術 モネ王立歌劇場(ブリュッセル) 2011年 PHOTOGRAPH BY SUNHI MANG

オペラ公演「松風」の舞台美術 
モネ王立歌劇場(ブリュッセル) 2011年
PHOTOGRAPH BY SUNHI MANG

 印象的なのは、彼女が大学時代に課題で描いた抽象絵画を含む、初期の作品資料だ。そこで“絵画の限界”を感じた塩田は、絵の具まみれになり“自身が絵画になる”というパフォーマンスを行い、以降、身体表現やインスタレーションに表現方法を拡張させていく。また、そのなかには、黒く細かい豆の殻を線状に壁面と身体に配置するという、ミニマルアートのようなものも見られ、抽象表現主義への批判からさまざまなアートのムーブメントが隆盛していった現代美術史の動向が、そのままそっくり、塩田千春という作家史のなかでリフレインされているようにみえる。

 また、この一連の作品資料には、塩田のシグネチャーである“赤い糸”の出自と遍歴を知る手がかりもあって面白い。彼女の作品に“赤い糸”がはじめて現れるのは、1994年に大学内で発表したインスタレーション《DNAからDNAへ》。これは、天井と地面を赤い糸で繋いだオブジェで、塩田はその糸に自身が絡まるというパフォーマンスも披露した。さらに他の資料や実際に展示された作品を見ていくと、以降、この“赤い糸”は、血管のような管となって、横たわる塩田の全身に絡まったり(《ウォール》2010年)、無数の旅行カバンを宙に浮せる浮力のような存在になったり(《集積ー目的地を求めて》2014/2019年)、また、塩田の身体からすっかり離れ、不在の象徴として、鉄枠の船から湧き出るように空間を張り巡ったり(《不確かな旅》2016年/2019年)。作家の体験や感情に合わせてトランスフォームしながら作品のなかに姿を現す。

 興味深いのは《大地とつながる》と題された作品資料のキャプションだ。そこには、塩田が幼少期、祖父母の家の墓参りに訪れたときの体験が紹介されている。「土葬された私の祖母の上に生える雑草を引き抜く時に感じた恐怖感とその手の感触」。ぴんと張られた糸は、このとき彼女が初めておぼえた不安や死の連想とも結びついているようだ。“赤い糸”は、人と人、人と故郷を繋ぐものだと塩田は述べるが、記憶に支配される作家の心のゆらぎ、タイトルでいうところの“魂のふるえ”を伝えるものでもあって、だからこそ見る者の心も共振させるのかもしれない。

画像: (左から) 《集積ー目的地を求めて》 2014/2019年 スーツケース、モーター、赤いロープ 《小さな記憶をつなげて》 2019年 ミクストメディア PHOTOGRAPHS BY MASANOBU MATSUMOTO

(左から)
《集積ー目的地を求めて》
2014/2019年 スーツケース、モーター、赤いロープ
《小さな記憶をつなげて》
2019年 ミクストメディア
PHOTOGRAPHS BY MASANOBU MATSUMOTO

 この展覧会の開催に先立って、塩田は自身のガンの再発を発表した。それは個展の開催が伝えられた翌日に医者に告げられたそうで、本展に飾られる新作は、闘病しながら制作されたものになる。その一部にも、“赤”や“糸”が印象的に使われている。では、それが新たに意味するところとはーー作品を前に探ってみたい。

『塩田千春展:魂がふるえる』
会期:〜10月27日(月)
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F
開館時間:10:00~22:00(金曜は〜17:00、10月22日は〜22:00)
※入場は閉館の30分前まで
会期中無休
料金:一般 ¥1,800、65歳以上 ¥1,500、大学・高校生 ¥1,200、中学生から4歳 ¥600、以下無料
電話: 03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

 

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