今回のリストは、現代美術家イズマイル・バリーの個展。女性写真家の草分け的存在、山沢栄子の回顧展。そして、ゴッホの画家としての軌跡をつまびらかにする企画展

BY MASANOBU MATSUMOTO

イズマイル・バリー「みえないかかわり」展|銀座メゾンエルメス フォーラム

 丸い水滴が、人の腕の上でダンスをしているようにリズミカルに動き続ける。そのマジックのような映像作品の仕掛けはとてもシンプルだ。それは皮膚の下にある動脈。ドクドクという脈の規則的な動きが、水滴に伝わっているのである。逆の見方をすれば、この現代美術家イズマイル・バリーの作品は、目では見えない脈の存在を、水滴を使って視覚化している、とも言える。

画像: 映像作品《線》の展示風景 PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

映像作品《線》の展示風景
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

 バリーは、古くから哲学者や美術家たちが主題としてきた「イメージ」が立ち現れる瞬間を、直感的かつ暗示的なアプローチで表現してきた。銀座メゾンエルメス フォーラムで開かれている彼の日本初個展では、その主要な作品が見られる。例えば、壁面に設置された《幽かな線》。一見、線の上にピンが打たれているように見えるが、黒い線の正体はピンから落ちた影。対象に近づき、自身の影が重なると線は消えてしまう。新作の《出現》は、光を強く当てすぎると画面が白く飛ぶカメラの原理を応用した映像作品。スクリーンには、強烈な光が当てられた写真が映し出され、手で光がさえぎられた部分にだけ、写真に映ったイメージが出現する。

画像: (写真左)《幽かな線》2002-2019年 ピン サイズ可変 (写真右)手前は作家の故郷であるチュニジアの海岸を想起させる砂地に、ボールの跡を記した《ボールの跡》。見えないボールの存在を見るものに想像させる作品だ。壁面にあるのは、風になびく黄色い紙やトレーシングペーパーを使い、姿のない自然の気配を暗示させる《ジェスチャー》シリーズ © NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

(写真左)《幽かな線》2002-2019年 ピン サイズ可変
(写真右)手前は作家の故郷であるチュニジアの海岸を想起させる砂地に、ボールの跡を記した《ボールの跡》。見えないボールの存在を見るものに想像させる作品だ。壁面にあるのは、風になびく黄色い紙やトレーシングペーパーを使い、姿のない自然の気配を暗示させる《ジェスチャー》シリーズ
© NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

画像: 《出現》 2019年 ヴィデオ 3min © NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

《出現》 2019年 ヴィデオ 3min
© NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

 この個展で、バリーは展示室のひとつに、「カメラオブスキュラ」に見立てた小部屋を作った。このカメラオブスキュラは、ピンホールカメラの原型になったもので、かつてフェルメールなどの画家たちはそれを使って、自然や光を観察したと言われている。バリーはこの小部屋の壁をくり抜き、“光を使ったドローイング”と呼ぶべき、いくつかの作品を配置した。これが面白いのは、小部屋の外側からもそれを観賞できることだ。そして、壁を挟んだ内と外、明部と暗部で違った像を描くこれらの作品は、イメージというものがいかに繊細であるか、世界がいかに不確かなものであるかを浮き彫りにする。

イズマイル・バリー「みえないかかわり」展
会期:〜2020年1月13日(月)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-1 8F
開館時間:11:00~20:00(日曜は~19:00、12月12日~25日は~16:30)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:12月11日(水)
※年末年始はエルメス銀座店の営業時間に準じる
入場料:無料
電話:03(3569)3300
公式サイト

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