BY CHIE SUMIYOSHI
森山大道「A Retrospective」Presented by Sigma

©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026
まず、60年以上の活動を通じ、一貫してストリートフォトを追求してきた森山大道の大規模回顧展は見逃せない。モレイラ・サレス研究所(ブラジル)のチアゴ・ノゲイラがキュレーションを手がけた本展は、これまで世界各地を巡回し、ロンドンでの展示はガーディアン紙の「年間最優秀写真展」に選出された。
1960年代から現在まで、200点を超える作品が大胆にレイアウトされ、100冊以上の写真集や出版物を網羅する展示構成は圧巻の一言に尽きる(一部は椅子に座って閲覧できる)。客観的な報道写真やフォトジャーナリズムではなく、資本主義社会の趨勢と矛盾をその内臓から暴いてきた森山の写真には、常に消費文化と背中合わせの創造行為への挑戦があったことを実感する。
会場:京都市京セラ美術館 本館 南回廊 2階
アーネスト・コール「House of Bondage|囚われの地」Supported by Cheerio

©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026
今回のKYOTOGRAPHIEでは特集企画として、南アフリカ出身のアーティストや団体4組に焦点を当てている。なかでも南アの歴史を知る上で重要なのが、アパルトヘイトの最初期にその実態を世界に発信したフォトジャーナリスト、アーネスト・コールの「House of Bondage|囚われの地」だ。
かつて南アの街の至る所でそうであったように、会場入り口は「White」「Non White」の2つに分断され、来場者はどちらか一方を選ぶことを強いられる。15のチャプターに分かれた夥しい数の白黒写真は、厳格に定められた生活のルールから理不尽な拘束や刑罰に至るまで、過酷な抑圧と虐待を受けた黒人たちの日常の記録だ。写真の中から訴える彼らの「目」が生のドキュメンタリーとして観るものに迫ってくる。いまも絶えることのない差別によって追い詰められた人権の最果て(EDGE)を問いただす展示である。
会場:京都市京セラ美術館 本館 南回廊 2階
レボハン・ハンイェ「記憶のリハーサル」Presented by DIOR

©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026
一方、現代の南アで生まれ育ったレボハン・ハンイェの「記憶のリハーサル」は、さまざまなテクニックを駆使して、彼女自身の家族やポストコロニアルの時代を生き抜いた黒人たちの歴史を謳いあげる。
亡き母とその服を纏った自分をずらして重ねたノスタルジックなスナップ写真。実在しない女灯台守の物語をライトボックスで浮かび上がらせるジオラマ。風景に埋もれた黒人の姿を抜き出し、古布のパッチワークで解像度の粗さを表現したポートレート。いずれも素材や光を丁寧に吟味し、口承の歴史や記憶の曖昧さをイメージさせる創意工夫が秀逸だ。
会場:東本願寺 大玄関
リンダー・スターリング「LINDER: GODDESS OF THE MIND」Presented by CHANEL Nexus Hall

©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2026
英国の港町リバプール出身で、50年以上にわたりキワキワの(EDGE)創作活動を行なってきたリンダー・スターリングの「LINDER: GODDESS OF THE MIND」は、ものすごく元気が出る展示だ。
一見ステレオタイプな女性のポートレートやポルノ雑誌から切り抜いたヌードに、家電や貝殻、唇などの異質なパーツを貼り付けたフォトモンタージュが、大胆に引き伸ばされて空間を切り取っていく。1970年代後半のパンク〜1980年代初頭ポストパンク世代のD.I.Y.スピリットを象徴する、究極のベッドルーム・ワークである。
パンクムーヴメントが去った後も現在に至るまで、彼女のアティテュードは1ミリもブレることはなかった。自由主義に隠された抑圧の告発、フェミニズムの先鋒としてのエンパワメントを、常に振り切れた力強いイメージで表明してきたのだ。多くの人が生きづらさを抱える時代、どこまでもついていきたいと思わせる姐御である。
会場:京都文化博物館 別館
アントン・コービン「Presence」Supported by agnès b. With subsidy of the Embassy of the Kingdom of the Netherlands

©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026
リンダーと1歳違いのオランダ出身の写真家・映画監督、アントン・コービンの「Presence」は、20世紀のミュージックシーンに傾倒した世代にはこたえられない展示だ。オランダのルポルタージュ写真に薫陶を受け、その後ロンドンの音楽界を中心に、唯一無二のアーティストポートレートの名作を手がけたコービン。無骨で口数少ない彼自身がインタビュー映像で訥々と語るように、撮影の現場では常にそこにすでにある自然の光を見つけ、シンプルな手法でアーティストたちに向き合ってきた。
U2、ローリング・ストーンズ、マイルス・デイヴィス、デヴィッド・ボウイといったスターだけでなく、ゲルハルト・リヒターやヴィム・ヴェンダースなど作家個人と繋がりのある現代美術作家や映画監督のポートレートも登場する。
南ヨーロッパの墓を捉えたシリーズは、唯一コービンがライフワーク的に撮り続けた作品群だ。プロテスタントの牧師の家に生まれた彼は、カトリックの墓地で出合ったという過剰に装飾的な墓石彫刻に、死後もなお他者を出し抜こうとする欲望を見出したのだ。ここにはデヴィッド・シルヴィアンが墓石の十字の隙間からこちらを見つめる作品もあり、彼の眼差しもどこかシニカルに見えた。
会場:嶋臺(しまだい)ギャラリー
福島あつし「灼熱の太陽の下で」Supported by Fujifilm

©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2026
大学卒業後、高齢者にお弁当を届ける配達員を10年間務めた経験を作品化し、《ぼくは独り暮らしの老人に弁当を運ぶ》(2019)でKG+SELECT Awardグランプリを受賞した福島あつし。彼の新作展が「灼熱の太陽の下で」だ。
福島は2018年から農業に従事し、スローライフの幻想を粉々にするほど激しい労働の様子を写真に収め続けてきた。本展では特に過酷な夏の収穫期を撮影し、雑草や虫、害獣との終わりなき闘いの隙間の「突き抜けた瞬間」に気づいたという、神々しいほどの生と死の発光を捉えている。
巨大に引き伸ばされたミミズや朽ち果てた野菜、眠るネズミの赤ちゃんなどが混然となった展示は強烈だが、スカッと気持ちよく昇華した営みとも感じられる。
会場:ygion
ファトマ・ハッスーナ「The eye of Gaza」

©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2026
最後に紹介するのは、戦場の現実を伝える活動の最中に命を奪われたひとりのジャーナリストの記録である。パレスチナの写真家であり活動家であったファトマ・ハッスーナは、ちょうど1年ほど前の2025年4月、25歳の若さで、ピンポイントで彼女を狙った爆撃により家族数名とともに亡くなった。本展「The eye of Gaza」では、彼女が遺したガザの写真と、本展キュレーターでありファトマの映画を監督したセピデ・ファルシとの会話の動画を公開する。
1F会場のスライドショーでは、瓦礫と化したガザの街や無邪気な子どもたちの様子に混じって、あまりにも残虐な死を目の当たりにするだろう。2Fでは、暗闇の中で再生される動画からファトマの声や戦闘機の音が響くが、それは前触れなく中断され画面は暗転する。闇に取り残され、不条理な死を否応なしに想像する数秒の時間。それは人間性の断崖(EDGE)に立ち尽くすような重く苦しい時間だ。
会場:八竹庵(旧川崎家住宅)
KYOTOGRAPHIEは、自分の意思と本性を省みるこうした経験を「写真の力」によって与えてくれる写真祭である。一昨年の芸術選奨受賞に続き、この度フランスよりシュヴァリエ勲章を授与された共同創設者/共同ディレクターであり、長年の友人であるルシール・レイボーズと仲西祐介に心から敬意を表したい。
京都国際写真祭 KYOTOGRAPHIE 2026
会期:~5月17日(日)
会場:京都市内各所
公式サイトはこちら







